冒険者ギルド
窓から差し込んでくる朝日によって目が覚めた。カーテンを閉めたあと、思わず口に出た。
「やはり、太陽はわずらわしいな。気にならない程度には体も慣れてきたみたいだがな。」
さて、今日は冒険者ギルドとやらに行って、冒険者登録をするか。それが身分証にもなっているみたいだしな。
部屋を出て階段を下りていくと、食堂は、お客でにぎわっていた。
シャリーもセリーヌも忙しそうだな。声をかけるのはやめておくか。
俺は宿屋、暁の夜亭を後にして、昨日の夜に聞いた、冒険者ギルドに向け歩き出した。
「アランさーん、朝ですよー、下もひと段落しそうなので、朝食一緒に取りませんか?」
中から返事は帰ってこなかった。 うーんまだ寝てるのかな
「入りますよー?」
ノブを回して部屋に入ると、そこは無人になっていた。
「あれ?いない、もう出て行っちゃったのかな。声かけてくれればよかったのに。」
「お母さん、アランさんもう出かけちゃったみたい。」
「もうシャリー、そんなにアランさんに付きまとってはダメよ?彼には彼の生き方があるの。それを邪魔してはアラン君に見合ういい女にはなれないわよ。」
「べ、別にそんなんじゃないんだってばぁ。」
「はいはい、ほらまたお客さんが来たわよ。案内よろしくね。」
「はーい。」
暁の夜亭でそんな親子のやり取りが行われているとは知らず、アランは街の中を歩いていた。
「ふむ、また迷ってしまったようだ。やはりなれない街を歩き回るものではないな。」
さて、ここからどうするか。
そうだ、そういえば、困ったら訪ねて来いとローゼンが言っていたな。詰め所に向かうか。
………………………………うん、詰め所はどこにあるんだ?というかここはどこなんだ?
迷っていてもしょうがないな。とりあえず、てきとうに歩くか。
歩き出そうと足を踏み出したその時、ふと後ろから声をかけられた。
「あれ、お兄さんこんなところで何してるの?もしかして迷子?よかったら私が案内してあげようか?」
声のしたほうを振り向くと、そこには、桜色の長い髪を揺らした、美少女と呼ぶにふさわしい風貌の少女が立っていた。
「迷子ではないが、案内してくれるというなら、そうしてもらおう。」
「ふふ、やっぱり迷子なんじゃない。まあいいわ、それで?どこへ行きたいの?」
「迷子ではない、俺は冒険者ギルドに行きたいんだ。案内を頼む。」
「あら、冒険者ギルドへ行くの?それなら丁度いいわね、私も冒険者ギルドに行くところだったのよ。」
俺は少女の後をついて歩いた。
「それで?お兄さんは何をしに冒険者ギルドへ?」
その問いに対し、どうこたえるか迷ったが、本当のことを言っておいた。
「ギルドに登録するためだな。とりあえず金を稼がねばならんからな。」
「金欠ってわけね。でもそんな高そうな服を着て、かなりの業物に見える腰の剣、隙のないバランスの取れた歩き方。かなりの実力者よね。いったい前は何をしていたの?」
シャリーにも言われたが、俺の着ている服は、そんなに高級そうに見えるのか、何かあったら面倒だな。さっさと金を稼いで、シャリーに俺の服を見繕ってもらったほうがよさそうだな。
「おっと、踏み込みすぎたわね、冒険者のなかの暗黙のルール『詮索はしない。』に反しちゃうわね。」
なるほどな、詮索されないというのはありがたいことだな。面倒が少なくてすむ。
「別に気にすることはない、それに俺はまだ冒険者ではないからな。」
「うふふ、お兄さんは優しいのね。私はサクラよ、一応Sランク冒険者よ。」
「そうか?サクラか、そのきれいな髪にあういい名だな。俺はアランだ。」
「あ、ありがとう、アラン君って褒め上手なのね。」
「もうすぐギルドにつくわよ。冒険者登録は受付に行けばできるはずよ。」
「わかった、いろいろ助かった。そういえばサクラはギルドに何の用なんだ?」
「私は、依頼があるらしいから呼ばれたの。最近は魔物が凶暴化していてね。この街の近くにも森があるでしょ?そこの調査依頼に行くのよ。」
「そうなのか、ひとりで大丈夫なのか?」
「心配ありがとう、でも私は世界にも10人しかいないSランク冒険者なのよ。私にかかれば森の調査依頼なんて余裕だわ。」
「なるほどな、っと、ここが冒険者ギルドか。」
思っていたよりも大きいな。それだけ冒険者の数が多いということなのか。
「大きいでしょ、ローズマリスのギルドはこの聖リース王国の中でも、王都に次ぐ大きさなのよ。」
「そうなのか、俺は王国に来たのは初めてだから、これくらいなのかと思っていた。」
「あら、王国は初めてなのね。なら迷子になっていたのもうなずけるわね。」
「だから迷子ではないと言っているだろう。ただ少し、街は広いなと思っていただけだ。」
「あはははは、アラン君っておもしろいのねー、君は大物になりそうだね。」
「そうか?まあそれは誉め言葉として受け取っておこう。」
ギルドに入ると、そこは酒場も併設されていて多くの冒険者とみられる人たちがお酒を飲んでいた。
受付に並んでいる人間も多くいた。
「すごいでしょ?朝の時間だとこうしてクエストを受注するために、たくさんの人がこうしてギルドに集まり受付に並ぶのよ。まあ、お酒のために来てる人もいるんだけどね。あ、ほら、あそこで樽でお酒を飲んでる人、あの人はドワーフの中でも高位の冒険者なんだけど、お酒を水って言っちゃうほどの大酒のみなの。」
「ギルドに来るのも様々な理由があるのだな。」
「そうね、クエストだったり、お酒だったり、相談だったりね。」
「相談?」
「そう、新人の冒険者にアドバイスを送ったり、ソロの人にパーティの斡旋をすることもギルドの仕事なのよ。魔物が凶暴化してるってい言ったでしょ?それをギルドは重く受け止めていていい冒険者を育てるための措置らしいわね。おっと、これは内緒のことなんだったわ。私が言ったって黙っといてね。ふふ、じゃあ、アラン君、私は、もう行くわね、右のほうのカウンターが初心者用のカウンターだからそっちに並ぶといいわ。」
「ああ、ありがとうサクラ、サクラも調査依頼頑張れよ。」
手を振りながらサクラはギルドの奥のほうに消えていった。
さて並ぶか。それにしても長い列だな、くる時間を間違えたか、どうせやることもないから別にいいか。おかげでサクラに会えたしな。
にしてもサクラはかなりの腕だな。俺の時代でもあれほどの実力者はそうはいなかった。あの実力なら、俺が眠っていた森の魔物程度に後れを取るなんてことはなさそうだな。
どうやら順番が回ってきたみたいだな
「いらっしゃい、冒険者ギルドに何のご用ですか?」
「冒険者登録をしたくてな、頼めるか?」
「はい大丈夫ですよ、ではこの紙に必要事項に記入をお願います。代筆は必要ですか?」
「いや、大丈夫だ、文字は書ける。」
いざ紙に書こうとして俺はふと気づいた。
あれ、俺の書く文字は5000年も前に使われていたものだ、使えるかわからない。しかも、なんて書いてあるかわからない、これは、俺の使っている文字とは全く異なる文字といううことになるな。
「すまないが、やはり代筆を頼んでもいいか、俺の使う文字とは違うようなのでな。」
「はい、それは大丈夫ですけど」
おかしいなぁ、今はどの種族のどの国も識字率は別として文字自体は統一されているはずなんだけどなぁ。しかも見た感じこの人は人族っぽいし、不思議だわ。
「では、お名前と種族、年齢、それとできることを教えてください。」
「わかった、名前はアラン、種族は不明だ。年齢は17歳くらいだ、正確にはわからん。戦闘は剣と魔法を両方使える。」
「はい、わかりました。では、軽い戦闘試験があるので、訓練場のほうに移動してもらってもいいですか?」
戦闘試験があるのか、聞いていなかったが別にどうってことないな。
「訓練場はどこにあるんだ?」
「あちらの扉の奥になります。」
そういって案内されたのは、カウンターのすぐ左にある扉だった。中に入ると、模擬戦闘や、素振りなどをする冒険者たちがいた。
「ここは冒険者さんたちが調整したり、腕が落ちないように訓練をする場所なんです。」
「すいませーん、冒険者の皆さん、今から新人の戦闘試験を行うので場所を開けてくださーい」
冒険者たちは受付嬢さんの言うことに素直に従って場所を開けたが、訓練場から出ていく人はいなかった。
「不思議そうですね、みなさんアランさんの実力が気になって見学していくんでしょうね。腕がよければ自分のパーティの誘おうと考えている人もいるんですよ。ギルドとしても新人さんがベテランパーティに入ってくれたほうが死亡率が低くなって助かっているんです。だから、新人の戦闘訓練は後悔で行われるんですよ。」
「なるほど、そういうことなら納得だな。でも残念だが、俺はソロで活動するつもりだがな。」
「すごい自信ですね。まるで受かることは確定でその上パーティに誘われるかのような口ぶりですね。」
「まあな、ここにいる誰よりも俺は強いからな。」
するとその言葉が聞こえたのか、見学しようとしていた冒険者が声を荒げてきた。
「まあまあ、実力は今から行う戦闘試験を見て実際に判断してください。それではアランさん、試験官の方を呼んできますので、少々お待ちください。」
冒険者たちは受付嬢の言葉に、引き下がった。
ややあって、受付嬢がスキンヘッドの男を連れて戻ってきた。
「えーとですね、新人さんの試験は本来専門の方が行っているのですが、なぜか、ギルドマスターが直接行うと聞かないものでして、かまわないですか?」
「おう、すまんな兄ちゃん、俺がギルドマスターのアレックスだ。お前は相当の実力者らしいからな。俺が直接見極めてやる。」
すると周りの冒険者がざわめき始まる。
おいおい、ギルドマスターが直接試験するなんて、サクラ以来じゃないのか?
ああ、10歳のころから頭角を見せ始め、わずか16歳で最年少Sランク冒険者なったサクラ以来だ。
サクラはやはり相当なものだったみたいだな。さて、このアレックスという男、実力はあるようだがそこまでではないな。まず負けることはないが、ギルドマスターに勝ったとなれば面倒を引き寄せるか?さてどうしたものかな。
「アラン君、私がギルドマスターに教えてあげたのよ。遠慮なく瞬殺しても構わないわ。元論本当に殺してはダメだけどね。」
とサクラが訓練場に入ってくるなりそう言い放った。
「おいおいサクラ、さすがに瞬殺は言い過ぎだろ。それってーとあれか?お前よりもこの男のほうが強いとでもいうのか?」
「ええ、そういってるのよ。」
その言葉に再度会場がざわめく。
なに?あのサクラが認めるほどなのか?だとしたら相当だぞ。それにさっきの言葉も信用性が出てくる。
「あの赤蛇をつぶしたのもアラン君みたいだしね。」
領主様も手を焼いていたあの赤蛇を討伐したのはあいつだったのか。
などと口々に騒いでいる。
パン!!アレックスが大きく手を打ち鳴らした。
「さて、サクラの言うその実力を見せてもらおうか。準備はいいか?」
「ああ、いつでも構わない。」
「じゃあ審判は私がつとめるわね。いい?相手を死に至らしめたり、過剰な攻撃は禁止よ。私が継続不可能と認めるかどちらかが降参したら、勝負ありよ。両者いいわね。」
「いいぜ!」 「問題ない。」
「では、はじめ!!」
サクラに合図で試験は始まった。
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