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第5話 名付け親と名付け親!!

旅に出た二人

お互い自分が何者かよくわかっていません

この旅でなにか変わる……といいですね

 ノームの集落を出てから1時間くらい経ったんだろうか。


 俺は、一人のノームの少女と森の中を歩いている。

 

 その間、彼女は一言も口を開いていない。もくもくと俺の隣で一緒に歩いていくだけだ。

 

 時折、俺が道を間違えた時に袖をひっぱり正しいと思われる方向へと導くだけ。


 んー、正直そろそろきまずい感じがしてきたぞ。

 俺は思い切って口を開いた。


「ねぇ、あのー、えーっと、俺たちが向かっている、そのグリュフォンの巣って本当にこっちでいいの?」


 少女の思われる、彼女に少し優しく語りかけてみた。


 でも、彼女は俯いてしまった。そして、コクリと一つ頷く。


 うーん、なんかやりにくい。そうだ、そういえばまだ自己紹介してなかったよね、俺の名前は……。


 

 あれ? 俺の名前……。なんだっけ???


 自分の名前が出てこない、喉元まで出てきている感じすらない。


 まるで最初から名前なんてなかったように、頭の中から消え去っている。


「……あれ? 俺の名前……えっと……その……」


 俯いていたノームの少女は、ハッとした表情を俺に向ける。


「私と……同じ……」

「えっ?! な、なにがかな?」

「名前……覚えてないの……」


 彼女も同じ? 

 名前が出てこないって、どうして? 

 

 俺自身のことも不安になったが、彼女の意外に透明感のある可愛らしい声にちょっとドキッとしてしまった。


「き、君も名前覚えてないの?」


 彼女は思ったよりも綺麗な切れ長の目を見開いて、俺にグイっと詰め寄るように話し出した。


「ひょっとして……大魔法使いさまって、どこか暗い所から、落ちてきたんじゃ……ないの?」


 暗いところ、あのへんな少女に水虫をうつしたら、怒ってこんなところへ飛ばされる羽目になった、あの暗闇の空間のことか?!


「ひょっとして、君も?! 変な腕につかまれたりしてこんなところへ?!」


 そう言って改めて、彼女をよく見てみると、あのノームの集落で出会った他のノーム達と顔や雰囲気が違って見える。

 

 なによりも、若い! みんなはおじさんやおばさん、それにもっと年嵩を増したようなノーム達ばかりだったのに。


 彼女はどうもみても10代前半。背こそノーム達とおんなじくらいだけども。


 彼女は首を強く振る。


「わからないの……覚えているのは、真っ暗な所から落っこちたら、あのノームの集落のそばへ落ちていたってことぐらい。それと……」


 彼女は思いつめたような眼差しで俺を見つめる。


「信じてもらえないと思うけど、私はノームじゃないの!! 気が付いた時には、身長がこんなにも小さくなっていて……それでノームに助けられて。あのノームの女長老にかくまってもらって……」


「じゃ、君も日本から来たの?!」


「に……ほ? それはわからないわ。私は暗闇から落ちていった所からの記憶しかないの……」


 うーん、これじゃ俺が体験した、あの謎の少女の暗闇の中と同じか、わからないな。


「それでね、名前……私も思い出せないの。頭の中から消えちゃったみたいに……」


 そこまでいうと、切れ長の目から細い涙がスーと零れ落ちる。


「あ、あわ、慌てなくても大丈夫! きっと名前思い出すよ! ほら、名前なくってもなんとか生きているし! それにノームの人たち優しかったから……」


「名前ないと、なんだか私が私じゃないみたい……」


 アイデンティティの1つがなくなったんだ。その気持ちよくわかるよ。

 

 それに彼女はどこから来たのかさえ、思い出せないんだから……。


「じゃあさ、二人でいる間だけでも、あだ名で呼び合わないか?」


「あだ名……?」


「ほら、不便じゃん、なにかとお互いを『ねぇ』なんて呼び合ってるとさ!」


 少しでも彼女を元気づけてあげたかった。だからとっさの思い付きだったが、彼女がわずかに微笑んだように見えた。


「そう……ね、それもいいかもしれないね」

「んじゃ、きまり!」


 そういうと、彼女の表情がちょっと笑顔になる。俺って結構やるんじゃね?


「君のことは……クラリス! そう、クラリスって呼ぶことにする!」

「ク……ラリス? なにか特別な意味があるの?」


 彼女はちょっと不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。


 もちろん、由来が好きなアニメのキャラクターだなんて……言えないこともないけれども、そんなこと説明しても今の彼女にはわからないだろうし、ね


「ク、ラ、リス……クラリス。なんか不思議な雰囲気の名前……」

「どう? 気に入ってくれた」


 彼女は笑顔で頷いてくれた。


「それじゃ、私に素敵な名前をくださったから、私からも……」


「いいよ、今まで通り、魔法使いさん、で」


「でも、それじゃいけないわ。名づけてもらったのに……」


「いや、ほらさ、このちょっとした旅の間だけって感じでいいんじゃない?」


「……本当に? でも、貴方にクラリスってなずけてもらった瞬間に頭の中に、言葉が浮かんだの。不思議な私の知らない言葉が」


「へぇ、どんなの?」

 

 俺は何げなく聞いてみた。



「スクリプト……って! だから、これから大魔法使いさまのことはスクリプトさまって呼ぶわ!」



 スクリプト? どこかで聞いたような? そう自分に向かってスクリプトと呟いたときだ。。


 俺の頭の中に映像が浮かんだ、背の高く耳の長い……エルフ? の白磁のような肌に、切れ長の目、亜麻色の長い髪の美しい女性の姿が。


 そして、両腕がまた熱く……いや、あの時とは違う優しい温もりが溢れだしてくる。


 そして手のひらまでその温かさが来ると、光が両腕からあふれ出す。

 

 黄金色のその光は玉のように丸まると、俺たち二人の頭上に上がり、あたりを、いや俺たち二人を包み込んだ。



 頭に浮かんだ美しい女性の姿が、また脳内に強く表れ、それを外に出したい気分で心が溢れだす。なんだこれ?


 思い切って、クラリスに助けを求めようと声をかけた。


「クラリス!」


 その時だった。その黄金の光の玉がクラリスを包み込み、辺りを優しく包み込む。

 俺の心に溢れていた気分は晴れていた。


 そして、クラリスを取り巻く光がピカッと閃光を放ったかと思うと、辺りが急に元の様子に戻った。


 そして、その光が溢れていたところに、一人の美しく長い耳がとても印象的な女性が立っていた。


「あ……あ……これが、私の……姿?!」


 俺の脳内から言葉が直接口に伝わり、強い衝動が口内からあふれてきた。


「それが君の本当の姿だ」


 ちょ、っちょっちょ、俺何を言った?!

クラリスがどうしてエルフだって知っていたっていうんだ?!

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