第3話 小さなおじさんと大きな怪鳥と!!
不思議な世界に飛び込んでしまったようだ。
ここは一体…………????
藁の上で目が覚めた。屋根の隙間から日が差し込んでいた。それ以外は暗くてよく見えない。
なんか臭い。
とても臭い。
そして耳に低い動物の鳴き声が聞こえた。
顔に突然、ぬるりとした感覚があり、慌てて飛び起きようとしたら、ズボンの裾を踏んで転んでしまう。
ジャージを着ていたのはずだけど、そんなに裾長かったかな、と思ったけど、それどころじゃない、ここはどこなんだ、と慌てて出口を探す。
徐々に暗闇に目が慣れてきた。
辺りを見回すとかすかな光があちこちから漏れている。
そこを目指して、裾を踏まないように気を付けながら歩きだすと、生暖かい毛の塊に顔を突っ込んだ。
それがゆっくりとこちらを伺うのが感じられ慌てて、光の下へ走った。
光の筋は、扉の隙間から漏れたものだった。開けると、眩しい光に目が眩んだ。
そして、振り返り見るとどうやら牛小屋だったようだ。
牛のような……牛にしては毛が長いし、角が一本頭から生えている?
どこなんだここは。それにさっき裾を踏んだけど、それ以上に来ているジャージに違和感を感じる。
妙にダブつく。明りに目が慣れてきたので、自分の服を見ると、魔方陣の儀式を行った時と同じ服だった。
だが、それがとても大きい。
袖は大いにあまり、ズボンの裾も同じく余っていて踏みつけて歩いていたようだ。
お腹周りも大きく、ゴムでしまっているのに、ずれ落ちそうだ。
「どこなんだここは……???ん?」
声に出してみたが、すごく高い声が自分の口から飛び出したのに驚いた。
ひょっとして、身体が小さくなった? それに声も、声変わり前に戻ってる?
ひょっとして……身体が子供になっちゃった?
「ハハハ、笑えない。中二病患者がリアル中二になったのか……」
(ふん、まぁ、いいだろう。我が力を贄にし足りずに、身体まで奪ったつもりだろうが、必ず取り返してくれよう、我が名に変えてもな!)と、中二セリフを吐こうとしたのだが、うまく口が動かない。あれ?
そういえば、あの暗闇から放り出された夢を見てから、まだ夢の中だと思っていたが、妙に実感がある。俺は起きている……。間違いなく、これは夢なんかじゃない!
歩きずらいズボンの裾を折り曲げ、袖もまくり上げなんとか歩き出した。牛舎の臭いがたまらず、そこから少し離れてから考えようと思った。
辺りをキョロキョロと見まわしながら歩いてみる。牛舎があるくらいだから、人ぐらいいるんだろう。それにこの道も人や車なんかがよく通るからだろう、ある程度の整備はされていた。
辺りが急に暗くなった。雲で陰ってきたのかな、と空を見上げると、そこにはとてつもなく大きな物体がクルクルと回っている。
あれは、鳥? にしてはでかい、でかすぎる。
大鷲なんてものじゃない大きさだ。
でも、翼はあるし、頭のようなものもある。尻尾もうねうねと動いて……鳥の尻尾がウネウネ?
そんな馬鹿な、じゃあれはなんなんだ?!
そう思った瞬間、その鳥のような大きな物体は、俺をめがけて急降下してきた。餌を見つけた猛禽類の動きだ。
「うわあああああああ」
そんな間の抜けた声しか出なかった。そんな間にも、大きな猛禽類のようなものがグングンと近づいてくる。速度を増して迫ってくる!
口からはもう言葉は出ず、反射的に両腕を猛禽類の方へ突っぱねた。
「くるなぁぁぁぁ!」
そう叫んだ時だった。二の腕から熱いものがこみ上げ、両碗が熱く火照りだす。そして両手が焼けるように熱くなる。
猛禽類の化け物のようなものはもう目前に迫っている。
「やめろぉぉぉぉ!」
すると、辺りが急に紅に燃え上がるように明るくなる。
物凄い光に目を細めた時だった。
手のひらから自分の身体よりも大きな炎の塊が飛び出し、怪鳥目掛けていく。怪鳥が避ける間もなく、炎の大きな塊が飲み込んだ。
辺りに羽毛の焦げる臭いが漂ったかと思うと、細めた目から怪鳥が悲鳴のような声をあげながら落ちていくのが見えた。
そして、落ちた怪鳥は燃え上がる大きな炎の塊となった。
「た、助かった……」
だが、両手が焼けるように熱い。あの炎の塊は俺の手から出た? ふぁいあーぼーる?
まてまて、いかに俺が中二病でもそんな設定はない。
そんな手からファイアーボールがでるはずがない。
なにか火矢のようなもので誰かが助けてくれたんだろう。って誰が?
辺りを見回しても人の姿なんてない。まだ夢の中なのか? でも、実際に手のひらがヒリヒリとやけどをしたように痛む。
「うー、手が焼ける……」
と、その時、目の前の草むらがガサガサという音とともに揺れた。
小動物でもいるのか? それとも小鳥かな。
いや、さっきの巨大な鳥みたいな化け物がいるんだ、とギュッと身体が緊張する。
草むらのガサガサとした動きは右に動き、また左に動く。なにやらこちらを伺っているようにも思える。
不安に襲われたまらず声を上げた。
「だ、誰かいるのか?! で、出てこい!」
そう叫んで手元の石を投げつけようとした時、ひょっこりと子供が現れた。
なんだ、子供かよ……。それにしては妙な帽子を被っているな。
それに服装もやたらと派手だ。
緑と赤がボタンのあたりから色分けしている。
ズボンも妙な恰好だし、色はけばけばしい感じの紫色。親の趣味を疑うよ……。
ん、それにしてはちょっと小さすぎないか?
小さくなった俺の腰くらいの大きさなのに、やたらと顔が大きく感じるし、顔はおっさん???
こ、これはひょっとして小さなおじさんって都市伝説のやつか?!
ふと、頭をよぎったのは目を覚ましてからのここ1,2時間のこと。
へんな姿の一角牛に、空飛ぶ怪鳥、それから小さなおじさん……。
俺は変な世界、いわゆる異世界へ飛ばされたっていうのか?!
あの真っ暗闇の中でみた少女との会話。
それから落下する感覚を思い出していた。時空の裂け目から落ちてしまったというのか?
それなら時空のおっさんが、助けてくれるはず!
「おじさん、時空のおっさんなんでしょ?! 早く助けてくれよ。間違えて来ちゃったんだ、時空の裂け目から……」
するのその小さなおじさんは、俺の側へやってきてジャージの裾を触りだした。その目は好奇心に満ちている。そして俺をぐいぐいと引っ張るような仕草で、おじさんの現れた草むらへと誘導しようとしているように感じた。
「あっちになにかあるんですか?!」
時空の割れ目から落ちた人たちの話をネットで読んだことがある。
時空のおじさんが時空の割れ目をふさいで、元の世界へ返してくれるという話を。
きっと、このおじさん……のような人についていけば帰れるんだ。
俺は腰を上げ、小さな時空のおじさんに引かれるまま、あとを続いた。
30分は森の中を歩いただろうか。その間もおじさんは俺のズボンを握りしめてぐいぐいと道案内をしていく。
最初は心強い、と思ったが、だんだんと深い森の中へと向かっていくので不安になってきた。
おじさんは鼻歌のようなものを歌っている。
ま、まぁ、これ以上めんどくさいことにはならないだろう。すんなり帰れるに違いない。部屋に戻ったら、まずはベッドでゆっくりと眠って……。
そんなことを考えていたら、おじさんは俺の裾から手を放して走り出した。
「ちょ、まってよ!」
慌てて追いかける。おじさんは小さいわりに足が速い。
ちょこちょこと走る先に目をやると、そこには多くの小さいおじさんたち、いや正確にはおじさんのように見える人と、小さな女性のような人々、それにさらに小さな子供のような人たちがそろっていた。
まるで俺を待ち構えていたかのようにして。