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第1話 こんなふつーの男が中二病をこじらせてたら……

 魔法、それはこの世で最も尊い技術。俺は魔法の儀式を行っていた。


 仕事から帰ったのが深夜の11時。1週間前、昼休みに何げなくよった古ぼけた古本屋に入った時のこと。


 この表紙は……! 古より伝わる「秘密結社ガーランド」の魔術の書! 俺は値段をみて驚愕した。55,555円!

 俺の趣味に使える額が給料から高熱費、家賃、食費諸々引いてギリギリ使える額……。

 しばらく外食を控えて納豆ご飯ともやしの1か月を過ごせば買えないことはない額だ……。

 魔術書の表紙のマークは間違いなく、秘密結社ガーランドの紋章。


 その時店主から声をかけられた。

「それ、いつまでも売れないから3割引きでいいよ、いひひひ」

 なんとも不思議で不気味な印象の初老の親父だった。だが、そんな不気味さが俺の中二心に火をつけた。なにより、割引額が魅力的だった。


(あるじ)、これをいただこう」


 店主の親父の目がわずかに光、口の端がニヤリと上がるのを見逃さなかった。これは本物に間違いない、そう確信した。


 この1週間は毎日終電までの残業を早く切り上げるべく、仕事のペースをあげて、午後11時までには帰宅するよう努力していた。すべては、魔術書にかかれていた、深夜0時に間に合わせるためだ。


 魔術書を買い、家に帰り本を開いてビックリした。

「なんだよこれ! JavaScripit(ジャバスクリプト)の教本じゃねーかよ!」

 プログラマーとして働いていたが、webプログラミングをやったことはなく、OSのアプリケーション開発が主な仕事だったから、JavaScriptを使うことは滅多になかった。だが、一目で俺ですらそれとわかった。


「騙された……。」


 ページを絶望の目でパラパラとめくる。大金を払って買ったのが、プログラミングの教本だったなんて、ククククこの俺を誑かすとは、あの店主いい度胸をしている。


 とその時、あるページが目にはいった。そこには、奇妙な文様が描かれている。これは魔方陣?! 俺はそのページが気になり、もう一度最初のページからめくりだした。そこには、プログラムのコードこそ書かれていはいるものの、日本語の解説などは1行たりとも書かれていなかった。


「変な本だな。ふつーこういった本には日本語なんかで説明があって、プログラムが載っているものなのに……。」

 そこにはプログラムコードだけ書かれている。それにこの不気味な雰囲気の魔方陣……。


 その魔術書と勝手に思い込み買った本をもう1度丹念にめくっていく。魔方陣のページの次のページには見たこともない文字で文章がかかれている。くぅー、俺の中二心をここまでくすぐるか!


 パソコンを立ち上げ、その文字を打ち込んでみた。キリル文字に似ているような感じがしたので、真似をして打ち込んでいき、検索サイトで最初の1行をかろうじて入力してみた。


「これでよし」


 そう独りちて、検索ボタンをクリックした。


 画面が検索サイトから変わり、黒が基調で文字が赤く書かれているページが表示された。

 そこにも妙な文字がかかれていた。今度は自動翻訳サイトを開き、文字をコピー&ペーストして翻訳ボタンを押してみた。


 すると、途中途中日本語の文字が表示され、ほかの部分は虫食いのように謎の文字が表示されている。きっと、翻訳できなかったんだろう。しかも見たことがない文字だな、これこそ本物の呪文か何かに違いない、そう思うとワクワクがとまらなかった。


 虫食いの日本語をなんとか読み解いていくと、直感が俺の頭に走った。


「これは魔法の儀式……に違いない!」


 半分本気、半分疑わしく思いながらそのページをプリントアウトしようとした。だが、何故かプリントアウトされてきたのは、さっきの本と同じ魔方陣だけだった。


「なんだ、ついにプリンターがいかれたか?」

 

 そう思いながらも、パソコンの文字をもう1度丹念に読んでみた。もちろん日本語の文字のところだけだ。いかに中二病の俺でも読めないものは読めない。だが、そんなシチュエーションが逆に心を躍らせる。


「フフフウフ……ククク……ウハッハハハハハ! わかったぞ……何となく……」

 落胆しかかる心になんとか気合をいれて、文字を拾っていくと、こんな感じのことが書かれいている。


『3種の神…を床にえがきし……0時…によりエンコードザンプ…えるべし』

『3種の…器は、ヒト…シオ…ケツエ…7……』


 ここまでは何とか読める。俺の脳内で魔法の儀式の映像が浮かんだような気がした。

 よし、0時というのは深夜のことだろう、明日からさっそく儀式を行うとしよう!


 それから早く帰り、魔方陣を描き、儀式を行ってみた。

「とりあえず用意した、ヒト……と塩と……血液か……


 人を生贄にするわけにはいかない。いかに中二病をこじらせている俺でも社会道徳からはずれたことはできない。代わりに100均で人に似ている人形を買い、塩は家にあった食塩を、血液は……この儀式のためにはやむをえまい、俺の血を使ってやってみることにした。


 魔方陣を床に書くと大家に怒られ退去するときに、とんでもない額の修繕費用をとられそうだったので、プリントアウトした紙の上で行うことにした。


 ……中二病の俺だって金は惜しい……ク、アラブの石油王と友達になれなかった、我が人生が悔やまれる……。


 準備が整い、あとは血を垂らすだけとなった。かといって、痛いのは嫌だ。ざっくりと映画なんかのように腕に刃物をつきたてブシャーと血をかけたいところだが、安全カミソリで恐る恐る指先をちょっとだけ切ってみた。


「イテ……。こんなちょびっとでも結構痛いものだな……」

 ちょこんと指先にできた血の塊を魔方陣にペタリとつけた。


「さぁこい! 我が魔力を生贄としてささげる! 我に力を! 我に最高の魔力を!  エンコードザンプ!」


 静まりかえった、深夜の部屋で俺は絶叫した。シーンと深夜独時の静けさが部屋に戻る。


「なんだよ……おかしいな、手順通りやったはずなのに……ひょっとして俺は踊らされて……クククこの俺を謀るとは大したものだ!」


 そう自分に浸っていた時だ。パソコンのスイッチが勝手に入り、ディスプレイにあの魔方陣が現れた。そんなはずは……異様な出来事に驚き恐れながら、ディスプレイに目がくぎ付けとなった。



 その時だった。画面から怪しい光があふれ俺の体を包み込んだ。すると体が宙に浮く感覚に襲われ、そのままディスプレイに身体が吸い込まれていく!


「うわぁぁぁぁ、なんだ?!」


 そう絶叫し、あたりを見回すと無数の腕が俺を掴み、俺をディスプレイに描かれた魔方陣へと引きずり込んだ。


 俺は意識を失ったのか、そこからの記憶はない。

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