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Double bind  作者: 佐々木研
危篤から死ぬまで
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こんなに月が青い夜は

 傾いた電柱には××町~番地と書かれた標識。

 どうやら変更した目的地に到着したようだ。

 辺りは津波で薙ぎ払われたようで、かろうじて立っている電灯は機能していなく、月明かりでぼんやりと輪郭が分かる程度の明るさ。

 携帯の充電はもつか?

 時刻を確認する。

 …2時間ほどは捜索する時間がありそうだ。


 時頼聞こえるうめき声を頼りに、声色の高い方を優先して瓦礫を探る。

 …ここら辺にもそれなりに生存者が残っているな。

 途中、僕を見つけて助けを求める声が聞こえた。

 …。

 もっと心に余裕があるときに声をかけて欲しいものだ。



 …五度目のはずれを引いた。

 今回は飛び出た足を頼りにサルベージしてみたが、頭はつぶれ、両腕はあらぬ方向を向いていて、明らかに死んでいた。

 きれいな足だったのに…。

 瓦礫を上げると同時に鉄と生臭さが混ざったような匂いにおそわれる。

 死臭とはこのような匂いがするのか…。

 次は匂いを嗅いでから探そう。


 

 もう何度目の瓦礫上げだろう?

 一人目は少年、二人目は30~40歳の女性、三人目は小太りの不細工…

 なかなか目当てのものが見つからない。

 時刻を確認する。

 …。

 あと、探すことができても三人ほどだろう。

 携帯のライトであたりを照らし、周りを確認する。

 近くには外観の同じマンションが並んでいるのが見えた。

 …ここら辺は団地か。

 人口が密集しているし、住居者も若い人が多いだろう。

 …多分、ラストチャンスだ。



 マンションに近づくにつれ、その外観ははっきりと見え始めた。

 付近は先ほどの民家を散策していた以上の瓦礫が積もっている。

 多分、津波でぎりぎり耐えた棟がその後の余震等により倒壊したのだろう。

 瓦礫の山を歩きマンションに向かう途中、ふと踏んだ瓦礫に違和感をおぼえた。

 木ともコンクリートとも言えないほどの柔らかい感覚。

 先ほど、溺死体を踏んだ時と似ている。

 足元を照らし注意深く確認すると、瓦礫の隙間に女性らしき人の後頭部が見えた。

 隙間を縫って腕を入れ、女性の顔を触る。

 …温かい。

 まだ生きている。

 …。

 周りの瓦礫を払い、両腕が女性の両脇を抱えられる程度まで掘る。

 これで引き抜けそうだ。

 足場を整え、女性の体を支え、勢いよく引っ張りあげる。

 女性は思いのほか簡単に引き上がり、その勢いで後ろにのけぞってしまった。

 腰を打ち付けてしまう。

 痛みに怯んでいると、力なくのしかかる女性の長髪が顔にかかった。

 …顔が近い。

 汗臭さと仄かな甘ったるい匂いがする。

 恐る恐る長い髪をはらうと同時に、月にかかった雲が晴れ、女性の輪郭があらわになった。

 柳の葉の様な眉、反り返る長いまつげ。

 おおよその人間が美人と評する顔がそこにはあった。

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