目指すのはメロウなエンディング
なぎは部屋にいなかった。
部屋は散らかっていて、買ってあげた携帯も投げっぱなし。
足元には脱ぎ散らかされた浴衣。
昨日買った服のタグはゴミ箱に入れられてすらいない。
…。
なぎは几帳面な子だ。
こんなだらしないことはしない。
…何処に行った?
また誘拐されたのだろうか?
受付になぎの容姿を伝えると、行方はすぐに判明した。
『桂撫子』
仲居見習いだと言う彼女と共に歩いてる姿が目撃されていたようだ。
…。
まぁ、想像の範疇だな。
二人の居場所を尋ねる。
旅館の三階。
スタッフオンリーと書かれた風情のない看板を超えて階段を上がると、喧騒とも聞こえる物音は次第に大きくなった。
音に釣られて奥に進む。
「…イツ…会うと…あくの…るの!」
なぎの声…
…ここにいたのか。
階段下の小部屋の扉は開かれたままだった。
中には二人の少女。
奥にいた彼女と目が合う。
「もう遅い、かも…」
桂はそう言って僕を指差した。
なぎが両手を広げて僕を睨んでいる。
細い腕と体で桂を庇うかのような態勢を取り、僕の問いかけにも答えなかった。
「…何しに来たのよ」
敵意を剥き出しにしている。
何って…
「…なぎがいなくなってたからさ、探してたんだよ」
笑顔を向ける。
「…」
なぎは黙ったまま動かない。
「ねぇねぇなぎちゃん。これってどういう状況?」
なぎの肩を叩いて戸惑っていた桂が尋ねる。
「…」
それでもなぎは口を開かない。
…はぁ。
どうするかな…
数十秒の睨み合いが続き、遂になぎが肩を緩めた。
ゆっくりと立ち上がる。
「…そうね」
なぎがそう言って僕の腕を引いた。
自分の胸にもっていき、そのまま腕を組む。
「さ。早く行きましょ?」
鋭い目で僕を見上げた。
「ん?うん、いいけどさ…」
奥にいた桂に目をやる。
このままでいいのだろうか…
「どこを見ているのよ?」
なぎが腕を手繰り寄せた。
肘関節と肋骨が擦れる音がする。
「行くわよ」
なぎは桂に一瞥もくれず、速足で僕の腕を引いて歩いた。