今日役立つ眠たい眠たい理想で
なぎは『具合が悪い』と言い出して布団を被ってしまった。
確かに顔色は真っ青だったが、日頃から血色がいい顔色でもないからな…
しばらくは静かだった寝室も、30分も経つと小さい寝息が聞こえ始めた。
…。
やはり、昨夜は寝ていなかったのか…
携帯を開く。
『06:08』
あと一時間もすれば朝食の時間だ。
仲居の入室で机の上には続々と朝食が運ばれ始めた。
目の前には2人分の食事が並ぶ。
なぎを起こした方がいいのだろうか…
妙齢の仲居が業務的に頭を下げて退室した。
…。
一人で食べるか。
今日は忙しくなるのだから…
食事を終えて身支度を始める。
寝室は相変わらず静かなままだった。
…まだ、3時間位は眠るだろう。
眠りが浅い子だが、あの調子ならまだ目覚めない。
なるべく見つからないように迅速に動かなければ…
「失礼しまぁ~す」
返事も待たずに若い仲居が入ってきた。
先ほどの仲居と打って変わって不調法な若い仲居…
年齢はなぎと同じなんだろう。
耳が出るほどの短髪で、背も僕より少し低い程度。
この子が…
「大分残っちゃってますけどぉ、下げていいですかぁ?」
彼女が襷をかけ直しながら、僕と寝室を交互に見た。
品定めをしているかのような眼差し…
「…すみません。残して置いて頂くことは出来ますか?」
片付けようと手を伸ばした彼女を止める。
もしかしたらなぎが起きてくるかもしれないからな…
「蝿帳でも差して置いて頂けると助かります」
「はぁい。それではアメニティ交換の時にまたお願いしま~す」
間の抜けた声で返事する彼女は、どことなく嬉しそうに見えた。
…。
『今朝、なぎと話していた』仲居が僕を見詰めていた。
腰を落として作業していた手を止めて、微笑むように顔を上げている。
「…何か?」
「あぁっ、ごめんなさい…」
彼女は大袈裟に謝ると、寝室に目線を逸らして、また口を開いた。