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Double bind  作者: 佐々木研
灰色のオセロー
135/148

序盤は本のように

 まずいことになったわ。

 こんなところに知り合いがいるなんて…

 撫子は私と話したがっていた。

 昔話に花を咲かせたいのは私も同じ。

 けれど、状況はそうも言っていられない。

 …。

 アイツは殺人鬼。

 私の存在が明るみになることを極端に嫌う。

 私に危害が加えられると感じただけでも人を殺すような…

 そんな人間の前に、私の知人が現れたらどうなる?

 多分、口封じのために殺されるでしょう。

 アイツは私に一定の信頼を寄せているみたいだけれど、撫子にはそれがない。

 私がどれだけ信用に足ると言っても、漏洩する危険がある以上、何も策を弄しないなんてことないはず。

 …死なせたくない。

 親友と言うほどの間柄でもなかった。

 撫子には友達が沢山いて、私はただその中の1人。

 彼女にとってかけがえのない存在でもないし、私だって今日まで、撫子のことなんて忘れていた。

 そんな程度の相手だけれど…

 「…できないわよ」

 見殺しになんて…

 「ん?何が?」

 アイツが間抜けな表情で私を見る。

 その顔が油断できないということは、嫌と言うほど理解していた。

 …。

 「何でもないわ。前を見て運転して」

 冷静に、冷静に…



 『メール届いたよ~!てかSNSやってないのぉ?』

 『やってないわ。…時間、大丈夫なの?』

 『今、休憩中~。なぎちゃんは部屋?』

 『買い物中よ。折角の旅行だもの』

 『そうなんだぁ。あっ!ウサギのお饅頭とかけっこー人気だよ?ネコのクッキーもおいしいんだぁ』

 『ありがと。買って帰るわ。…撫子は休みとかないの?』

 『明々後日が休みなんだぁ。なぎちゃんは帰っちゃうんでしょ?』

 『えぇ。時間を作るのは難しいかしら?』

 『夜か朝なら大丈夫!なぎちゃんは?』

 『早朝なら都合がいいのだけれど…。忙しそうなら遠慮するわ』

 『全然っ!!明日の朝でもいーい?遅番なの』

 『構わないわ。詳しい時間とか集合場所は撫子に任せる』

 『おっけー!彼氏さんによろしく~』

 『…彼氏?』

 『宿泊者名簿見たんだぁ。橘蓮さんってなぎちゃんの彼氏でしょ?』

 『…誰にも言わないでよね?』

 『分かってる分かってる。明日、詳しく聞かせてよねっ』



 「最近の子は携帯が友達みたいだ」

 スマートフォンをいじっていた私に、アイツが寂しげに呟いた。

 …。

 「いいお土産がないか調べていたのよ。アンタどうせ、そういうのはなんにも知らないのでしょう?」

 そう伝えると、アイツは不思議そうに私を見ていた。

 …絶対、怪しんでいる。

 そもそも、アイツが寂しがるなんておかしい。

 普段は何も言ってこないくせに、今日に限って釘を刺すなんてあり得ないわ。

 …。

 「お土産?誰にあげるの?」

 「アンタの知人に、よ。私が誰にあげるって言うの?」

 これでスマートフォンを使っていても不審ではないでしょう。

 撫子へ返信に頭を割く。

 「いや、そうかもしれないけどさ。僕だって渡す相手なんていないよ?」

 …寂しい奴ね。

 「こういうのは日頃お世話になっている人に渡すのよ。アンタ、怪我したときに沢山の人に迷惑をかけたのでしょう?そういう人にあげなさいよ。親御さんにも」

 そんなことを私が言う筋合いはないけれど、あえて提案することで私が『アイツのために行動している』ように演出できる。

 悪い手じゃあないわ。

 「…」

 アイツはまだ懐疑的。

 でも、まだ私が『旧友と偶然出会った』という事実に繋がる根拠にはなっていないはず。

 まだ、少し怪しいくらいの認識しかないでしょう。

 「…そうだね。たまにはなぎに従おうか。お勧めは?」

 「えぇっと、確か…」

 撫子のメールに書かれていた商品を指差す。

 


 買ったお土産は3つ。

 一つは郵送するようで、のし紙で包んで、店員と手続きをしている。

 …。

 今日はあと、洋服を買いに行って昼食を済ませて旅館に帰るだけ。

 夜は旅館でゆっくりと過ごして、アイツが寝ている朝方にこっそりと抜け出して撫子に会う。

 …撫子にはなんて言えばいいのかしら?

 「私の保護者が殺人鬼だから気を付けて」なんて言えないし、「アイツと会わないで」も少し無理がある気がする。

 込み入った説明をする羽目になりそうね…

 知れば知るほど、撫子には危険が付きまとってしまう。

 …最善手は何?

 どう振る舞うのが正解?

 …。

 考えなさい。

 チェスではアイツに勝てるのだから…

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