一方その頃
アイツと初めて会ったのは高1の新人戦。
偏差値の高いガリ勉高校が書かれたビブスを着たアイツは、周りから浮いていた。
興味本位で話しかけてくる奴等をそつなく捌く橘に、漠然と腹が立ったのを憶えている。
…鼻につく奴。
社交性があってスポーツもできて、おまけに頭もいい。
…だからこそ、テニスだけは負けたくなかった。
新人戦の決勝。
橘は遂にここまで勝ち残った。
アイツがベスト16なら俺は8まで、アイツがベスト8なら俺は4…
その意地が積もりに積もって、決勝戦は俺と橘の対戦となった。
泥臭く勝利を掴んで勝ち上がる俺とは対照的に、アイツは涼しい顔で勝ち進む。
率直に言って癪だった。
飄々とした顔で、余裕の表情で、すかした面で…
…単純に鼻を明かしたかった。
その横顔にボールを打ち込んでやる位には思ってたな…
アイツのプレーは洗練されていた。
それを橘と打ち合って初めて理解する。
サーブは正確無比で、際どいコースを的確についてきた。
ボレーは判断力が重要であるにも関わらず、当たり前のように平然とこなす。
ストロークは単純であるが故に熟練度が現れ、何万何十万と素振りを続けていたであろう修練が伺えた。
スマッシュは…
…正直、舐めていた。
俺とはテニスに対する認識が違う。
覚悟から、決意から。
橘と俺では格が違っていた。
橘は凄い奴だよ、実際。
アイツにあてられてズルズルと努力して、俺はインターハイで優勝できた。
名門大にも進学できたし、あり得ないほど人望も得られた。
尊敬と言うほど信仰はしてねーが、感謝くらいはしてる。
…だが。
「釈然としねー」
揃いも揃って皆、橘橘ってうるせーっての。
「新学期になったら憶えてろよ…」
スマホを投げ捨ててカラオケボックスに戻る。
「桜井君おそーい」
「雅!お前もそろそろ歌えっ!」
うっせーな。
「さっさと曲入れろぉ!俺様の美声に酔いな!」
机に脚を乗せる。
「なにそれ、ださぁ~」
「気持ちワリー」
「センスがねーなぁ」
…。
うるせー、ほっとけ。