週末の浮かれたムードに一人だけど
世間は浮ついている。
再来週のクリスマスに向けて街は色恋沙汰の雰囲気を醸していた。
…。
今まで考えたことぐらいあるけれど、あまり浮つくことはなかったわね…
家も貧しくてそれどころじゃなかったってのはあるけれど、こう暇な時間が多いとそんな気分にもなってくる。
…はぁ。
きっとアイツと過ごすんだろうなぁ。
アイツから渡された封筒には五千円札が20枚以上入っていた。
理由を尋ねてもアイツは「価値は変わらないでしょ?」と言って深く説明しようとはしなかった。
…まぁ、どうでもいいけれど。
そこから6枚ほど抜き取って家を出る。
本格的に寒くなって、いつもソファで寝ているアイツは遂に根を上げた。
『掛け布団がないと流石に眠れない』と溢したアイツが、私に「好きな柄の布団を買ってきていいよ」と言い出した。
きっと『古いやつを自分が使うから自分の好みの布団を買っていいよ』と言う意味で言ったんだろう。
…段々、アイツのことが分かってきたような気がする。
気付けばそこにすら、嫌悪感がほとんど湧かなくなっていた。
家具屋で毛布や掛布団の柄を選んでいると、店員が私に声をかけてきた。
「お好みのものは見つかりましたか?」
ゴマをするような態度の店員…
話しかけられるのは苦手だけれど、私は布団に関して何も知らない。
…はぁ。
「なるべく暖かい掛布団を探しているのですが、どれかいいものはありますか?」
「コチラなんかは中の羽毛の量が多く、冬でも快適に過ごすことができますよ」
店員は私に予算を尋ねると、すぐさま商品を見繕って説明をしはじめた。
「女性は冷え性な方も多いですから、そうなるとこちらもおススメです」
差し出されたものはどれも高く、伝えた予算額を僅かに上回っている。
…高い。
そこらへんに並んでいる商品の倍以上する。
何でこんな高いのかを尋ねると、素材が良いとか、軽くて運びやすいだとか、手入れが簡単だとか、専門的なことをのべつ幕なしに話し出した。
確かにいいものなのだろうけれど…
「…いかがですか?」
店員が笑顔で尋ねる。
「家まで運んで欲しいのですけれど、送料はどれくらいになりますか?」
場合によっては運べなくなってしまう。
「お買い上げいただければ、こちらで負担いたしましょう。…サービスですよ?」
…恩着せがましいわね。
それ込みの値段だろうに…
…。
どうしたものか。
こんな高いものを買ってもいいのだろうか?
この間も冬服とコートを買ったばかりだし、なんだか贅沢ばかりしている気がする。
…。
まぁ、いいか。
「分かりました。ではこれで」
勧められた中から最も温かいと言われたものを指さす。
「お買い上げありがとうございます。…カバーの色は何色に致しましょう?」
営業スマイルの店員が言う。
そうね…
「…青でお願いします」
白は汚れが目立ちそうだし、ね…
「…橘、さん?」
マンションの扉を開けると、そこには中年女性が立っていた。
…橘?
あぁ。
今の私のことか。
「…はい、そうですけれど…。…どちら様ですか?」
たまにマンションの住人とすれ違うけれど、この人は初めて見るわね。
「大家なんですが…。あなたは?」
…まずい。
大家さんだったのか。
「…えーっと」
思考が頭を巡る。
こう言う時、アイツは確か…
「…妹です。進学の関係で兄の家に一緒に住んでいるのですが…。…やはり挨拶に伺った方がよろしかったでしょうか?」
適当に言葉を並べる。
「あぁ、そうだったの。…別にご近所さんからの苦情もないから構わないわよ。…本当は駄目なんだけどね」
大家さんは近所のおばさんみたいに手首を振ってそう言った。
「あんまり橘さんと似てないのねぇ。てっきり彼女だと思っちゃったわ」
…。
「何か御用でしたか?」
「あぁ、そうそう!荷物が届いているんだけどポストに入らないから私が預かっていたの。…知らせも見ていないようだったから訪ねたのよ」
…あぁ。
あの時の毛布ね。
「すみません。今すぐ取りに行きます」
「そう?じゃあお願いするわね」
部屋に鍵をかけて、大家さんとエレベーターに乗る。
「…別に同棲してても私は何も言わないわよ?若いんですもの。色々あるわ」
大家さんは私が嘘を言っているのが分かったようで、そんなことを言ってきた。
「…えっ?」
「当たってた?」
噂好きのおばさんみたいな表情で私に追及する。
「何年もこの仕事をしてるもの。皆まで言わなくても分かるわ」
勘違いしたまま話が進む。
「最近あの子、大変そうだったから心配してたけど、…余計なお世話だったわね」
…ん?
何の話かしら?
「お隣さんが殺されちゃって犯人に疑われてたでしょ?やっぱり違ったみたいだけど…。…大変だったんじゃない?」
…。
えっ?