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僕
僕と彼女との経緯を話すとするならば、それは奇跡にも近い劇的なものだった。
当時彼女はまだ未成年で、震災の影響からか心も閉ざしてしまっていた。
僕の問いかけにも無反応で、食事も碌に手を付けず、部屋の端で膝を抱えたまま動かない。
僕の慰めの言葉も、温かい食事も、何もかもが煩わしそうな憂い顔で、日がな一日物思いにふけっていた。
あれから5年、彼女は相変わらず自閉的で華奢なまま、仏頂面でソファに座っている。
ただあの頃と違うのは、表面的な社交性をもったこと、時折笑顔を見せるようになったこと…
…そして、二人分の料理をするようになったことだった。
この幸福感に相反して僕の感情は複雑だ。
だからこそ過去を振り返ろうと思う。
なぜこうなってしまったのか、と。