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「なぁなぁなぁ、シリウスはんはどないな迷宮作ってん?」
関西弁なのか京都弁なのか大阪弁なのか、関東在住だった身近に西日本の知り合いとか居なかったぼくには判別が付かないオバハンみたいな言葉を駆使し、セクシーな大学生位に見える胸元の開いた豹柄ドレス姿の人が先程からグイグイ声かけて来る。
胸毛はないけどオッパイも無い。
どう見ても屈強な上腕二頭筋なら見える。
白金色の髪をゆるふわロールで胸元程で纏めてる。
青い瞳の黙っていれば素敵な中性的な顔立ちの美形。
いわゆるこの方も又性別迷子なオネエさん。
迷いの森系迷宮のダンジョンマスター、ローザリ・トリコロールさんは、仕草も行動もセクシー。
でも出る言葉は漫才師が良く使うなんちゃって関西弁風。
それはまだいい。
問題は、グイグイと根掘り葉掘り干渉しに来るのだ。
然程仲良い訳でもなく、付き合いも無い。
現世の事、死亡原因とか前世の詳しい 生き様なんて赤の他人にホイホイ話す馬鹿は居ない。
だがこの人は、いっそ潔く躊躇無くグイグイ来るのだ。
全てを晒せと。
こう言うオバハンは、ご近所にも昔1人は必ず居たな。
話した情報は、数日したら周辺に全て回る。
やれ誰々さんは彼氏ができたらしい。
三件隣の奥さん浮気バレたらしい。
角の旦那さん失業したそうよ。
又あそこの息子さんひきこってるらしいわ。
などなど、ワイドショーのパパラッチもかくやと言う巧みなオバハン情報網で、下手な事は喋れない。
嘘も本当も織り交ぜて、最悪近所歩けなくされる。
何がヤバいって、本人に悪気ゼロなのがヤバいのだ。
思い遣りや相手を察する事の出来ない唐変木な朴念仁。
色んな情報通なアテクシ凄いでしょ?
とか言う思考のタイプと連動させると無敵なのだ。
それ故に、無作為に無自覚に知らない敵も数多く作って居る事だろう。
きっと、隣人トラブルで死亡したんだろうなぁ。
と聞かなくても察した。
関わりたく無いと言うのが本音だ。
前世では相手に言えなくて、酷い目にあった。
今世では、後悔するのも嫌な思いするのも遠慮したいから本音でぶつかろう。
「…無遠慮な言葉で踏み込まれても困ります。
貴方の好奇心満たすためにここに居る訳じゃ無いので、関わらないでくれます?」
ぼくにしたら辛辣な言葉だった。
「あらぁ、今日はご機嫌斜めなんやねぇ。
又ヨロシクやね!」
しかし、オネエさんがその程度の忠告で懲りる事はなかった。
ウインク付きで、次の約束を勝手に取り付けて居る。
ぼくはスルーして放置して居た。
しかし、会う度に似たようなやり取りを繰り返す。
このローザリオネエさんはぼくの100歳後輩になる吸血鬼城系ダンジョンマスター女の子、ノワール・ヴァーミリオンちゃんが来るまで、全く懲りなかった。
まぁ後輩ちゃんは別の意味でとても女子らしく、イケメンに媚び媚びビッチ対応で。
「あのぉ、ノワール分からないことがあってぇ。
先輩にぃ教えてもらったらって、えへへ。」
「ノワールここに来たら寂しくてぇ。
だからぁ、お兄ちゃんって言っても良い?」
などど砂吐きそうな手慣れた感じに彼等とやり取りしてます。
数人はスルー。
数人は陥落して取り巻きになって居る。
頼られるとデレデレする男子は、傍目でもこいつチョロいと思うからなぁ。
で、同性やオネエさんや下に見た相手には別の意味でヤバかった。
「うわっキモっ!変態さん近寄らないで、目が穢れちゃう。」
「って言うかぁ、近くで息しないでくれますぅ?
キモいんでぇ。」
「私ぃ、根掘り葉掘りプライバシー聞いて来るゴミ嫌いなんですぅ。」
「情報通なマウント取りたいんですかぁ?
あはっ!おっかしい!
キモいのにマウント取ったって意味あんの?」
凄い、温度差と毒吐き凄い。
何故かそんなノワールには懐かれました。
中性的な顔立ちが素敵と言われました。
アレ?ローザリオネエさんも中性的な気が…。
と聞いたら、顔は好みだからこそ許せなかったとブツブツつぶやいて居た。
んん?
それって、むしろ意識しまくりなんじゃあ?
気の所為かな?
あ、ぼく自身は距離感を持って関わってます。
「シリウスお姉様、今度私の家に泊まりに来て欲しいな。」
とか時折愛らしく誘われます。
でも、なんて言うか…身の危険(性的な意味で)をそこはかとなく感じて、未だにお泊まり女子会してません。
捕食者の目を感じたんです、よ?
好みならもしかしたら性別気にしないタイプなのか?
イヤでもローザリオネエさんには凄い噛み付いていたような気がするし、ホント気の所為かな?
ノワールちゃんが来てからというもの、ローザリオネエさんはぼくに根掘り葉掘り突撃しに来なくなりました。
むしろどんより落ち込む日が増えて居るような気がする。
その代わり、ノワールちゃんが居ない日に遭遇した日。
ポツポツと昔のしくじった顛末を話し始めました。
よく居るご近所のオバハン、ではなく。
厳格な家の女装に憧れる少年だった前世のローザリは、親に隠れて女装して別の県で徘徊したり。
コスプレイベントにこっそり参加して居たらしい。
前世のローザリも女装するとかなりの美少女になったとかで、やっていて家の抑圧からも解放され楽しかったのだろう。
だが、ある日ストーキングされて襲われかけ。
あわやと言う時に男とバレ理不尽に罵られた。
しかも、たまたまなのか護衛されていたのか。
助けられた後家族に女装がバレて、古い厳格な家故に家を追い出されてしまう。
そして、その後別のストーカーに殺された。
今世で色々積極的に動いていたのは、何もしないで家の言いなりだった前世へのおかしな反動だったそうだ。
だが狭い世界しか知らなかったローザリは、極端な行動に出ていたとノワールに気付かされ、現在に至ると言う。
元々育ちも頭も良い真面目なタイプだったのか、マトモな思考になったら後は早かった。
まぁノワールちゃんの言ってる事は、見事に毒まみれだったけどね!
それから、ローザリオネエさんは女装をピタリと辞めた。
もしかしたら自宅ではやってるのかもしれないが、疑似空間ではすっかりやらなくなった。
長かった髪はショートヘアーに切り揃え、エルフの民族衣装みたいな白と緑を基調にした法衣を着て居る。
ぶっちゃけ女装の時より洗練されて色香が凄い。
会話もあのしつこさが消え、柔らかな物腰でできるイケメン男子その物な立ち居振る舞い。
多分前世で培った所作だとでも言うのか、全く無理が無い。
それから100年せず、早めに魂の浄化を完了させてローザリさんは転生して行ってしまった。
そう、条件は人それぞれっぽいが早めの魂浄化でダンジョンマスター卒業が出来ると知った出来事でも有ったのだ。
後日談として、ノワールちゃんはイケメンローザリさんに無自覚に惚れていた。
それに気付かされて告白する間も無く転生されてしまった。
いや、ローザリさんがダンジョンマスターの時は自覚していなかったのだろう。
だから長い事ローザリさんが居なくなってから、酷い事を言ってしまったと謝罪出来なかった事を後に後悔するようになるのだが、それは相談されることも無かったのでぼくの預かり知らない馬に蹴られる案件だ。
その200年後、ファーブラのとある国で愛らしい女の子が誕生する。
後に縫製業界で世界に長く君臨する事になる服の革命者。
ヒヨコ・ブランドのオーナー。
ヒーリエ・ムーンダスト。
コルセットのいらないドレス。
身体の形を無理なく美しく整え、圧迫しない下着。
糸の染め色の増加とたくさんの種類の織物機の作成。
新たなデザインの服や小物。
着替えの楽な男性用礼服。
長持ちする布・手触りの良い布などなど、多岐にわたり発展させて行ったらしい。
まぁ、これも又聞きなんですけどね!
なんでヒーリエさんがローザリオネエさんと判明したのか。
あのエセ大阪弁か難波の商人風関西弁な言語をしゃべるファーブラの人は、方言としてもガチで少ない。
転生者以外使用者が居ないから、即バレだった。
それから更に600年程後に、双子としてローザリとノワールが誕生するのだが、それも又ぼくの預かり知らぬ案件です。
と言うかまぁ、どう考えても時期的に既にぼくも転生してるだろうから分からないかな。
とか思って居たのだが、どうもこの双子。ぼくの子供になる。
ぼく自身は男に転生し、妻に病で先立たれた直後で旅の商人をしていた30手前のナイスガイです。
なので血の繋がりは無く、瀕死の10歳位で女子双子な孤児を助けて拾ったら昔馴染みだったというオチまで付いた。
この出逢いは偶然なのか、はたまた神様の仕込みなのかは不明。
まさに、神のみぞ知る。
尚、ぼくら三人は前世もダンジョンマスターしていた記憶も既に無い。
まさにファーブラの普通の人間として生きて居た。
後に、2人が何故かファーブラで結婚できる15歳になったら猛烈アピールしてきて、ちゃっかりぼくの嫁に収まるのは別の話。