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表紙
双眼鏡の中で砂漠が震えた。砂塵が舞い上がったらしい。敵が来ると、ゴウケ少尉は確信した。隣で声が上がる。
「来ました!中央に敵戦車四両、距離五千、T-54らしい。右、4千5百にT-34が二両」
「本部に発信せよ。信号弾、あか、しろ!」
「了解。本部に通信。信号弾あか、信号弾しろ」
パン、パンと後ろで発射音が続いた。通信兵が怒鳴る声も聞こえる。
「小隊長。中央の敵戦車が停止しました!」
隣で砲隊鏡を覗く兵隊の声は悲鳴に近かった。押しのけて覗き込む。停止した戦車の砲塔が回っている。信号弾を視認したらしい。たいした練度だ。まさかソ連兵か。T-54の百ミリ砲は最大射程が一万六千メートルだ。五千なら当たるものと思わなければならない。悲鳴を上げるのも無理はない。
「通信完了!」
「撤収!逃げるぞ」
兵隊たちはあっという間に装備をまとめると、トラックに走った。ゴウケ少尉も、後を追う。