最終話 たった一人の魔法少女
「えと…まずは私の正体について話すね。」
渚は一息つくと本題へ踏み込んだ。
渚自身も正体のことを話すのが初めてなので、かなり緊張する。
深呼吸を一度つき、園香の顔を真っ直ぐに見据えた。
「もう一度言うけれども…私は七不思議の一つ__『オッドアイの不思議な術を使う生徒』で、実際に力を使えばオッドアイになるし、術も使える。」
「ほほう…やっぱり噂通りなんだね、術を使えるとかオッドアイだとか。…実際に今ここで使えたりするの?」
渚は一瞬返答に迷い少し考えた後に答えを絞り出した。
「少しだけなら良いよ。でも先に警告しておきたいんだけど…私が術を使っている間はくしゃみとかしゃっくりとかしちゃダメだよ。術が切れて頭がクラクラしちゃうから…。」
「うん分かった。絶対耐えておくよ。」
渚はその反応に満足したかのように微笑み、頷いた。
渚は力を貯めるのを集中させるためせんぶり茶を飲んだ。
彼女自身が一番力を貯めるために効果的なお茶であり、何より一番好きなお茶である。
体にも良いとたまに番組で見るため、せんぶりファンの渚にとっては嬉しかったりする。
百ミリリットルのせんぶり茶を飲み干すと力を貯めるため集中し始めた。
集中している間は目を閉じるため何も見えない。
さらには皮膚の感覚が無くなり、音も何も聞こえなくなる。
孤独な時間を数分間味わうことになるのだが、彼女にとったらこの時間が本当に一人になれる楽しみの時間である。
目を完全に閉ざしている渚を見ながら園香は息を呑んだ。
あまりにもその目を閉じている顔が美しく見えたからだ。
自分は今の学年でもクラスの中でも、一番渚といた時間が長い。
そのため園香はもちろん渚の顔を見慣れていて特に「綺麗」や「凛々しい」などの感情は一切感じなかった。
直接話したりする機会が少ないからだろうか。
最近はとても一瞬見せた顔だけでも素直に「美しい」と思ってしまう。
__渚……なんだろう、ずっとこのまま眺めていたい。
そんな様子の園香に気づいたのか時間が終了したのか、当の本人の渚が両目をゆっくりと開けた。
両目が純黒の色__ではなく片目が紫色で左目が赤色に染まっていた。
まさしく、言葉通りオッドアイだ。
オッドアイになる前の渚とは明らかに周囲に雰囲気が違い、渚の目つきも鋭くなっている。
__これが…渚…。
その事実を目の当たりにしてただ絶句していた。
同時に、二つの感情が湧き上がってきた。
一つは、親友である渚の変化に『驚く』感情。
そしてもう一つは、渚に対して『嬉しい』感情。
今まで渚自身のことをたくさん伏せられてきた分、今回は自分がオッドアイで不思議な術を使う生徒であるとい示してくれた。
たった一つの隠し事でもそれを教えてくれる、それが嬉しい。
渚は力を貯めるときに朦朧としていた意識を目の覚醒とともに戻った。
今の視界には友達__ではなく『親友』がいる。
自分を受け入れてくれる『親友』がいる。
そう考えると不意に心が軽くなった。
渚は一度深呼吸をして心と精神を安定させた。
「園香、もうくしゃみとかしてもいいよ…。」
オッドアイになっている間は少し声が出しづらくなる。
大声を出そうとすると、声帯あたりがなぜか痛くなってしまう。
そのため相手に対して聞こえる声で、自分の喉を痛めないくらいの声を出している。
園香は安心したようにはーっと息を吐いた。
「…なんだか目だけ変わってるのに見た目は別人に見えるね。でもやっぱり渚は渚だよ。」
渚を見ながら園香は感想をこぼした。
妙に「渚は渚だよ」という言葉が胸に引っかかった。
「そ、そうかな……。」
「あとさ、その欲張りだと思うかもしれないけど…『術』ってやつを披露してくれないかな…?」
園香は目をキョロキョロさせながら遠慮気味に頼んだ。
目を合わせるとなんだか吸い込まれそうな気がしたからだ。
渚はコクッと頷いた。
「…フッ。」
渚が右手を前へ差し出し、中指を少し浮かせて小さく息を吐いた。
すると、光がみるみる集まっていき、何かの形を形成していく。
数秒後、普段よく見る氷が中指の上に出来ていた。
「おおっ…!」
水が無いのに氷ができるすごさに思わず声をもらした。
それだけでは終わらず、完成した氷の上に次々と新たな氷を形成していく。
渚が一通り形成し終わるとそ氷を麦茶が入っているコップへと手を使わず入れた。
「な、渚、これも術⁉︎」
「そうだよ…。」
ぽちゃんと音を立てて氷が入った。
一応ちゃんと氷は食べることも出来るらしい。
「渚すごいね、こんなことまで術を使えば出来るんだね…。」
「ま、まあね…。」
その後も「空気中の窒素を液体窒素に変える術」や、「ハンマーから鉄を抜き取る術」など様々な術を公開した。
渚曰く、基本的に使える術は限られていて生活に便利な術しか使えないそうだ。
人に危害を与えるには禁忌で、仮にもし犯してしまったのならばどうなるか知ったこっちゃないらしい。
「…園香。絶対に今日のこととか正体は言わないでね。」
「分かってるよ。言ったら渚が傷つくでしょ?こういう関係なんだから言う訳ないよ。もし思わず私が言ってたらその時は全力で引っ叩いてね。」
園香は「あはは」と笑い声を漏らした。
渚も思わず吹き出してしまった。
こうして二人で笑えあえたのはいつ以来だろうか。
もう随分と前のように感じる。
もう二度とこんな光景は見られないと思っていた。
この一瞬を、この瞬間を忘れたくない。
目の前のたった一人の魔法少女と、目の前の大事な大事な友達と。
短い間でしたが、『たった一人の魔法少女』を読んでくださりありがとうございます。
今回のお話で連載は終了致します。
園香と渚を中心とした友情物語。
初のローファンタジー小説なので少し手こずりましたがなんとか書き終えることができました。
最後になりましたが、本当にありがとうございました。