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たった一人の魔法少女  作者: 天竺霽
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第六話 七つ目の七不思議

ひさびさに更新しました

「オッドアイ…で生徒っぽい…。」


目の前の立つ少女の容姿を目を凝らしてみると、ここの西泉中学校の女子生徒が着る制服を着ている。

少女の顔を見ると、凍ったように冷たい表情をしている。

人形のように浮世離れした存在がいる。

その事実を唐突に突きつけられたが何故か怖いから逃げようという気にはならなかった。


__誰かに似ている


飯田や南を含むその場にいる全員が打ち合わせているかのように同時に感じた。

かなり見覚えのある顔だが名前を思い出すことが出来ない。

声からも考えてみるがなかなか思い当たる節がない。

__誰だ…誰だろう思い出せない。

彼らの思いをよそに少女は話を続ける。


「私が倒す…だから……遠くへ避難して……。」


相手の反応を見ようともせずに踵を返すとすぐに理科室の扉へ手をかけた。

そのままわざと音を立てて激しく扉を開けた。





「…ウグッ!」


体が勢いよく床に打ちつけられた。

体に対する衝撃が大きくどこかがボキッという音が聞こえたが気にせずに腕を立てて立ち上がった。

園香が敵と戦い続けて早五分。

戦闘に自信がある園香でも未知の生物相手では不安が勝り戦況は不利になっていた。


『小娘ではワシを満足させられん…じゃが遊び相手には十分良いのう』


敵は足の力を思いっきり使いその場から園香のもとへ突き進んだ。

避けようとし右へ避けたが間に合わず、左肩を掠ってしまった。

敵__人体模型は相手が人間の女子であろうと一瞬も容赦はしていなかった。

追撃に追撃を重ね、相手が繰り出してくる技をするりとかわし、さらに追撃を重ねる。

これが人体模型の戦い方だ。

もし相手が普通の人間であれば園香は今頃優位に立っていて最終的には勝つだろう。

しかし相手も相手だ。

一位二位を争うぐらい危険な学校の七不思議の化け物を相手にしている。

戦いすら初のため、勝算は見込めない。

__私一人でもなんとかならないのなら…明日には新聞の紙面に載るわね。

この後、つまり自分が負けた後のことを考えつつも戦闘に意識を向ける。

__でもこんな正体不明の化け物相手に…どう攻略するのよ…


『もしかしてこの程度でお前さんは終わりか?』


「…ッ。」


否定も肯定もせずだんまりを決め込む。

人体模型はこれを肯定を受け取り最終段階へ入った。


『それなら…あとはお前さんを討つだけじゃ。』


人体模型の両手から何か細長いものがスッと生えてきた。

刀のように鋭く、人体模型の目の光で反射されてギラギラと輝いている。

人体模型は剣の構えをとるとそのまま__


ッガシャン!


大きな音が少女と人体模型の空気を切り裂く。

自分は無傷のため人体模型に攻撃されたわけではないようだ。

だが何の音がなった。

音の源と思われるところを見るとそこには__


「…なぎ……違う、誰?」


視界に人の姿が目に飛び込んできた。

その人はなぜか渚を思わせる顔立ちをしており、思わず二度見するほど瓜二つである。

__渚…じゃない、じゃあ誰?

呆気に取られていた一瞬の隙を狙おうと人体模型は園香の元へと先ほどと同じ要領で近づいた。

人体模型が園香の目の前まで迫っていたが本人は呆気に取られていたため間に合わなかった。

__あっ、死ぬ…!

右手に握った刃物が心臓に刺さろうとした瞬間、園香はその場に倒れた。


が、意識はあった。


どうやら刺されていないようだ。

頭を少し強く打っているためジンジンと痛みが響く。


「__」


なんと、先ほどまで扉のそばにいた謎の少女がいつの間にか人体模型と戦っている。

人間離れした凄まじい速さと勢いで人体模型へと攻撃を繰り出していく。

今度は形勢が逆転し、少女が優勢になっている。

一目瞭然だ。

少女は回し蹴りを披露するとそのままの流れで右アッパーを放った。

人体模型は二つの攻撃を喰らったが、ほぼダメージが無いように見える。

__あれ…よく見ると両目の色が違う…

__ってことはオッドアイ…七不思議…

一瞬だけ見えた少女の双眸を見ると色がそれぞれ違って見えた。

もしかしたら、部屋が暗いので見間違えをしているのではと思ったがそうでもない。

はっきりとわかるほど濃淡があり、電灯にようにまるで光り輝いているからだ。

先ほどまで戦っていた七不思議の一つ・人体模型が、同じく七不思議の一つのオッドアイの生徒が目の前で戦っていることに未だ信じられずに目を疑うしかない。

だが、ここまで考えていてもやはり渚とどこか似ている。

横顔を見ると、いつも本を読んでいる真剣な表情に見える。

背中を見ると、あの隣に自分が写っている写真を思い浮かべられる。

正面顔を見ると…やはり渚だ。

内心で今戦ってくれているオッドアイの生徒がおそらく渚だろうと考えがまとまると、すぐに応戦した。


「__ずっと戦わせてゴメンね渚!」


「全然いい…って…私は渚じゃない……ただの七不思議…。」


「いーじゃんいーじゃん、それより一番私がよく眼鏡外してる顔見てるんだから。」


戦闘中に関わらず、少女にニィッといたずらな笑顔を見せた。

__園香…ちゃん…

少女__渚は思わず口に出しそうになった言葉を喉に閉じ込めた。

ここで今まで不明であった七不思議の正体が渚だとバレると色々と後処理がありそうに思えるから口を割りたくない。

それに、不思議な術を使うということで七不思議の名が通っているため術を使えると期待され、挙げ句の果てに披露しろなどと言われたら骨折程度では済まないダメージを相手に負わせてしまう。

実際、術を使えることに違いは無いのだが。

渚はすうっと息を吸うと両手を胸の前で合わせ手の細胞に力を込めた。


『ほう…お前さんは確か『不思議な術を使うオッドアイの生徒』じゃのう…その不思議な術とやらを披露してくれるのか?』


「……あなたの想像に……任せるわ……。」


徐々に手の間に球形の形に光が集まる。

瞬間的に勢いを増すとバスケットボールのような大きさにまで光が集まった。

そのまま顔を上げると七不思議の一つとして彼女へ告げた。


「……あなたはここで見たことを……幻だと思ってください……あなたに幸福が訪れます…。」


幸福が訪れますなどと嘘をついたが、これでもしないと園香は誰か渚以外の仲が良い人に話してしまうからだ。

__そう…これでいいの。門外不出にさせて私のことを忘れてしまえばいいの。

__「水上渚」と「不思議な術を使うオッドアイの生徒」は別であって同一人物ではない。全くの別人格。

自分自身に言い聞かせるように心の中で呟いた。


「…いや。」


「……え?」


園香は渚に向き直った。

目にはいつもの明るい光と真剣な光が混ざっていた。


「いやだよ…渚のこと、もっと知りたいしもっと仲良くなりたい。もっともっともっと、お互いにことを語り合えるくらいに仲を深めたい。それなのに……なんで今まで変な距離感だったのかな…。」


その目に思わず目を背けてしまうが話は止まない。

人体模型は攻撃をやめ何故か園香の言葉に耳を傾けている。


「私さ、幼稚園の頃とか小学校の頃とか渚と一緒にいて楽しいなって思ったよ。気づけばお互いに手を繋いでる。そんな感じ、いやそれ以上の仲だったよね。でもね、違うの。いつ頃からか分からない。そもそも時期なんて無かったかもしれないけど…何か見えない障壁があったの。それも目の前に。」


園香は小さく目を伏せると自分の拳をグッと握った。

__見えない障壁…?何を言ってるの、私がただ、園香の邪魔にならないように避けていただけ。


「私がもっと早めに気づいて行動を起こせば今みたいに変な距離感にはならなかったんだけど……こうなっている今でも変だよ。なんだか渚は色々と自分で抱え込みすぎているみたい。」


自分で色々と抱え込みすぎている。

その言葉に心臓が何かから解放された気になった。


「だからさ、今からでもいいの。渚のこと色々教えてよ。どんなことでも良い。しょーもないことでも些細なことでも良いよ。事象を私と共有しあってさ、あの頃みたいに純粋に楽しく仲良く過ごそうよ。手を伸ばさなくても手が届く位置にいようよ。」


__目から熱い液が零れ落ちた。

涙だ、自分は泣いているのか。

そう気づいた瞬間には次々に溢れ出てきた。

拭き取ろうと思うが今は光を集めて保っているため両手が離せない。

そんな意思を読み取ってか、園香が手を渚の頰へと伸ばしてきて涙を拭き取った。


「渚は今まで通り笑ってる方が似合うよ。」


ふふっと園香は笑った。

たった一瞬笑っただけなのに数十秒のように長い時間に思えた。

この笑顔を壊したくない。

この笑顔の持ち主ともっと仲良くなりたい。


__この笑顔を守りたい。


そう心に決め込むと渚の頰にある園香の手の温かみが一層増した。
























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