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たった一人の魔法少女  作者: 天竺霽
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第四話 理科室の人体模型

「いやぁ、それにしても三人が無事で良かったね。ヒヤヒヤしたよ。」


保健室に入った三人は見事、七不思議の一つである『保健室のベッド』の現象を見ることが出来たのである。

実際に見たのは、南を除いた風岡と河内だけなのだが。

そしてその三人から一連の流れをジュンが聞き、メモを取っている状況である。


「でも本当に薬を置いていくんだね。親切だなぁ。」


「私もびっくりしたよ。ベッドで寝ていて何も感じなかったのに置かれているし。」


結局、南はお腹に置かれた頭痛薬を飲んだ。

毒薬や睡眠薬などが悪戯で入っていることはなかった。


「じゃあ、特にやり残したことが無さそうだから次の場所に行こうか。」


ジュンは十一人に告げると次の七不思議をどれにするか考えた。

彼らは今一階の下足室付近にある保健室前の廊下にいる。

ここから近いのは理科室と女子トイレだ。

ジュンはどちらに行くか迷ったが、理科室の七不思議の方が簡単そうに見えたため、理科室にした。


「今からすぐそこにある理科室に移動な。次は『理科室の人体模型』な。」



理科室に着くと七不思議に挑戦するメンバーをジャンケンで決めた。

保健室のベッドで参加した人は除外していた。


「「「さーいしょーはグー、じゃーんけーんポン!」」」


今回のメンバーはジュン、園歌、飯田(いいだ)に決定した。

ちなみに三人のうち二人は男子で幽霊などの類の物が怖い。


「マ、マジか、俺になっちゃったよ…。」


「まーまー、気楽にやっていこうよ。サポートするしさぁ。」


「もう僕無理…死ぬ…。」


顔を恐怖の色に染め上げている三人だがグズグズしていても仕方ない。

「早く行ってきて確かめてきてよ」と他の人は言うものの、やはり彼らにとっては怖い。


「もうこうしていても時間が無駄だからさ、早く行こうよ!」


「そ、そうだな。」


「はぁ………。」


なんとかして理科室に入ることが出来た。

またしても南京錠は何故か開いていた。

気のせいだと思っていても開いていることを不審に思うが、先に七不思議の方を終わらせる。


「入る前に一度確認するね。道具は持った?」


「ももも持ってるよ。」


「じゃあオッケーな。」


道具を持っている事を口と目で確認すると理科室に入っていった。


『理科室の人体模型』のやり方はこうだ。

普通に置いてある人体模型に近づき、そこで数分間待つと、目の部分が赤く光る。

さらに数分待つと、手が動く。

運が良ければ何かを話してくれるらしい。

しかし、ずっと待っていると足が動き出してこちらを襲って来る。

腕に自信がある者はいいが、喧嘩慣れしていない人や格闘技も何もかもやっていない人はやめておいた方が良い。

これによって過去の事例だが、命を落としかけた人がいる。

もし襲って来たのなら、理科室の外へ出る。

外へ出ると人体模型はドアの横の大きさで詰まって出られなくなる。

これを機に鍵を閉めるなどをしておけばまずドアを破って出て来ることはない。

ただ、『理科室の人体模型』をするにあたって一つの道具が必要となる。

それはこの教室の地図と懐中電灯だ。

人体模型の目が光っている間は光が殆どない。

あるのは目の光だけだ。

そして手が動いている間は理科室の部屋の形態が変わる。

どういった原理かは分からないが、何故か変わるらしい。

その時に地図もその形態によって気がつけば書き換えられている。


__俺、無事に生還出来るかな。不安になるわ。

ちなみに、『理科室の人体模型』は七不思議の中で一位二位を争うくらい危険な七不思議だ。

失敗すれば命はほぼない、生還出来たとしても恐怖心が残る。

肉体的ダメージか精神的ダメージか、どちらかが身体へ影響を及ぼす。


「やるしかないよ、やらないと何も始まらないよ。」


園歌は無表情で二人に話した。

少しだが、背中を押されて覚悟を決めたようだ。


「そうだな、終わらせればいいんだから。」


「うん。」


三人は人体模型が置いてある理科室の角のところへ近づいた。

そして数分間待った。

殆ど何の音が聞こえず風の音だけが唯一聞こえた。


ーーガッ


突如何かが動いた音がした。

音の音源を見ると、人体模型の目だ。

暗闇に閉ざされた中、人体模型の目が開いていて赤色の禍々しい双眼がこちらを見ている。


「ヒッ……!」


「ジュン、今は我慢して静かにして。」


二人が話していても人体模型はこちらをじっと見ている。

すると、意を決したように園歌は少し息を大きく吸い込んだ。


「あのっ!人体模型さんですよねっ!」


__え、こいつどうしたの。何話しかけてんの。

ジュンと飯田は園歌の行動に目を疑った。

七不思議上では人体模型が『話しかける』のだが、園歌が『話しかけた』。

人体模型は答えてくれないだろうと思っていた。


『そうじゃが、誰だい?お前たちは?』


何と答えてくれた。

あまりの展開に衝撃的で二人は口をパクパクするしか出来なかった。


「はい!私達は今この学校の七不思議を調べているグループですっ!」


『この学校の七不思議かい……そうかい、せいぜい頑張りたまえ。』


「ありがたきお言葉、感謝致します!」


園歌は丁寧にお辞儀をした。

ジュンと飯田も遅れてお辞儀をした。

しなければいけないような雰囲気になりそうだったからしたのだが。


『じゃが、七不思議を調べるのも程々にしておく方が良い。』


「何故ですか?」


『ワシら七不思議の中に…確かおっどあいの少女が居るはずはずじゃが、その小娘がな最近変な術を使いよるんじゃ。一度見たが攻撃的な術に見えたからの…ワシは術を受けたことは無いんじゃが…まあ老いぼれ人体模型の戯言だと思って聞き流しておくが良い。』


「は、はぁ。」


曖昧な返事を園歌は返したが、気にするそぶれもなく人体模型は話を続ける。


『ところで、今は何時か分かるかの?目が悪くて見えんのじゃよ。』


「あ、今ですね、えっと十一時半ですよ。」


『そうか、そろそろ隠れていた方がいいかの。さっかー部が帰ってくる足音が聞こえるからの。』


「そうなんですね、ご親切にありがとうございます!では一度退室しますね!また後でですねー。」


園歌は話し終えるとすぐに理科室を出て行こうとした。

だが教室の形態が変わっていることを思い出すとジュンが持っている地図を覗き込んだ。


ーーカギャ


再び何かが動いた音がした。

音源を見るとやはり人体模型だ。

だが足が元々置いてあった場所から離れている。

つまり__


「じ、人体模型が動いた…。」


『…やはり人を目の前にすると食欲が抑えられませんな。人肉は味が最高ですぞ。』


この人体模型が言っている言葉から園歌が閃いた。

同時に最悪の事態も想像した。


「人を食べる人体模型…?」


『若い方はやはり勘が良いですね。話が早くて助かりますよ__』


途中で言葉が途切れたが、人体模型がこちらに異常な速さで向かってきた。

新幹線並みの速さでは無いが、自動車くらいの速さで来ている。

走り方を見ると足は一切動かしておらず、足の瞬発力で速さを生み出しているようだ。

逃げている間に園歌は人体模型に肩を掴まれて痛めてしまった。

どうやら並大抵の力ではないようだ。

教室のドアを見つけ脱出することを意識してひたすら逃げ惑う。

助けて、助けて、助けて、助けて、嫌だ、ヤダヤダ、嫌だヤダ、死ぬのは嫌。

怖がりじゃない園歌もこの時は死を覚悟していた。


「どこ!出口どこ⁉︎」


「暗すぎて全然見えない!」


逃げているだけではいつか体力が尽きてそのまま喰べられてしまう。

__このままでは三人の命は保障されない。何をすべきか…。

__…そうだ、私がいるじゃないか。私が。

園歌は走りながら一つのアイデアを提案する。


「私があの人体模型とやりあうから二人は早く出口を探して!」


「はぁ?何言ってんだお前、他の奴が心配するだろうが!」


「これ以外方法は無いでしょう!こう見えても柔道八段だから!だから早く行って!」


これで納得してくれるだろうと園歌は思っているが、ジュンと飯田は反発する。


「ダメだ!こんな感じでお前は死にたいのか!」


「渋染らしくないなおい。何か他にも考えがあるだろうが!」


「…私はそんな死に方でいいよ。それに今は時間がないでしょう。このままだと皆殺しよ。」


「…。」


園歌の言い分に反論できず黙ってしまった。

__俺は、俺はどうすればいい。

ジュンも飯田も自分に聞いているが答えが出てこない。


「二人とも、とにかく今は逃げて。あとは任せて。」


園歌は二人に対して笑みを浮かべた。

緊急時だというのに人を安心させるような笑顔だった。


「悪ぃな…。」


ジュンと飯田はそれに何も返せず園歌の提案に賛成した。

提案通りに二人は出口を探した。

後方で何かがぶつかる音がするが我慢して足を走らせる。


「渋染…すまねえな…。」


探し続けて一分経った時、やっとドアを見つけた。

理科室に外に出れた時は生きた心地がしなかった。


「おい、一人足りない気がするんだがどうし__」


「渋染は人体模型と今戦ってる。」


「「えっ!」」


その場にいた全員が同じ反応をした。

「女子一人では可哀想」「友達を見捨てたとか最低」など聞こえるが話を続けた。


「あいつは俺たちに提案してあいつが一人で向かうって告げた。俺とこいつはもちろん反論した。反論したけど…言ったんだあいつは。それでも必死こいて立ち向かおうとしたんだ。」


「…それって罪滅ぼしのつもりで言ってるの?そうだったら話すのやめて。」


南がこちらを睨んでいる。

普段の太陽のような笑顔とは程遠い鋭い刃のような目をしている。

見られるだけで何も言い返せなくなる。


「違う、そのつもりは無いよ。」


何も言えなくなったジュンの代わりに飯田が口をはさんだ。


「ここに帰ってきたのは理由があるから帰ってきたんだ。渋染の指示で帰ってきたんじゃない。」


「そ、そうなの?」


「うん、ここにいる全員で、」


飯田は覚悟を決めてみんなに向き直った。

無謀な挑戦かもしれないが、やってみるしか無いと思った。






「人体模型と戦うんだ。」































書いているうちにいつもより長くなってしまいましたね。次回はこんなに長くはないですよ。

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