第二話 潜入開始
ワイワイ、ガヤガヤと男女の声が入り混じる。
これから肝試しに行くというのに怖さがあまり見えない。
そんな中、唐突に誰かが声をあげた。
「あのさー、全員で同じ行動してもスリルが無いからさ、何人かで分かれようぜ。」
ライン上でジュンと名乗っている男子生徒だ。
少し話し合いをした結果、十二人の男女は三グループに分かれることになった。
それぞれAグループ、Bグループ、Cグループに分裂し男子二人、女子二人のチームが出来上がった。
ワクワクと期待に胸を膨らませている人や恐怖に押しつぶされそうな人。
沢山の感情が彼らの中に渦巻く。
園歌はどちらかというとワクワクでとても楽しみな様子だ。
「ん〜、幽霊と会えたらいいなぁ〜、怪奇現象起きたらいいなぁ〜。」
夜の学校を携帯電話の写真に撮りながら呟いた。
若干物騒な発言だが周囲は特に気にしなかった。
「それじゃあ、五分ずつずれながら出発な。まず俺のグループから行くぞ。」
始めにジュンが率いるAグループが先発した。
だが、正門に入った時に校舎四階の窓に人影が一瞬だけ見えた。
背筋が少し凍った気がしたが迷わず進んだ。
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校舎に入ると辺りはしんとしていた。
響き渡る音は自分たちが歩いている靴音だけ。
コンコン、コンコンと響き渡る。
僅かに風の音も混ざっていて風が髪の毛を靡かせた。
「なあ、校舎に入ったのはいいけどさこれからどうするよ。康太、何処か行きたい場所ある?」
康太と呼ばれた男子は少し考えた。
「そうだなぁ、確か七不思議で保健室のベットってあったよね?そこに行__」
ーーガタッ
前方の方で何の前触れもなく音がした。
椅子が動いたような音だ。
「…なに今の音。もしかして幽霊?」
不安混じりの声がジュンから発せられた。
他の三人も不安になる。
「と、ともかくさ、先に進もうぜ…。」
自分では強がってみたものの、恐怖心で心が埋め尽くされていた。
怖い、帰りたい、助けて。
内心で言葉が共鳴するが、自分が言い出して提案したのでそう簡単には帰りたくない。
少しずつ、少しずつ足を重々しく運ばせていく。
その頃、BグループはAグループが出発してから五分たったので正門に入って肝試しが始まった。
Bグループは他のグループと比較すると、怖いもの知らずの人が全員いるため、サクサクと進みそうだ。
Bグループを先導しておるのは園歌だ。
「よぉっし、みんな行っくぞー!」
楽しみで仕方がない満面の笑みを浮かべながらまずは下駄箱へ向かって行った。
下駄箱に入り、校舎の中へ入って行った。
「この後のルートはどうするー?私は保健室の方に行ってみたいけどなー。」
園歌が保健室の方へ行くルートを提案した。
その案に全員が賛成し保健室へ行くことになった。
早く進みたい気持ちが足を通じついつい早足になってしまう。
すると前方の方に人影が見えた。
「おおおぉ!もしやもしやこれはこれは幽霊ではありませんでしょうかああぁ!いよいよ、いよいよとこのような存在に期待していた俺の願いが叶う__!」
悲鳴や恐怖の声、ではなく期待と希望が入り混じった声だ。
声の主は園歌の隣にいるクラスライン上で浦岡と名乗っている生徒だ。
言うまでもないが、幽霊や怪奇現象は全然行ける人だ。
「ちょっとうるさいでしょ浦岡、逃げちゃうでしょうが。」
尖り声を出したのは同じグループの南という女子生徒だ。
人影がいるところを写真に収めようとしている。
しかし、南が異変を感じた。
写真と撮ってみて画面を拡大してみると、四人の人影が見えた。
「…あのさ、私気付いちゃったんだけどさ。」
「どうしたの南ちゃん。」
すると南は無言で携帯電話を差し出した。
そしてまさかの事実を口に出した。
「あのさ、四人の人影が見えるけどさ、先に行ったAグループの人達じゃないの?」
そう言われるとそうかもしれない。
何しろ四人も人影が拡大した写真に見えている。
開始五分でAグループが全然進んでいない事に気付いたBグループは絶句した。
「全然Aグループ進んでないね…。」
このままAグループに追いつかず、ずっと後を追うような状態になると面白みが無くなるので、仕方なくAグループと合流することになった。
Bグループは早足で距離をどんどん詰めて追いついた。
少し驚かそうと園歌は突然、大声を出した。
「ほいさ!辿り着ー」
「ぎゃああぁぁぁぁぁ!!」
Aグループ全員の悲鳴が一丸となって廊下に響き渡る。
「お、おおお、おおお化けだだ、だだ、だ、だだ!」
Aグループのメンバーの一人の康太がお化けを追い払おうと懐中電灯を振り回す。
真っ青な顔になって今にも泣きそうだ。
「だいじょーぶだって、私だよ私、渋染園歌よ。」
「な、ななな何だよ…よ、よかった…。」
相手の正体が自分の知っている人だと分かっていても、急に驚かされたため恐怖を隠せなかった。
一度、落ち着いて深呼吸をしてから南と園歌がなぜこのような状況になったか手短に説明した。
「……というわけで、Aグループの皆様に辿り着いたという事。だから合流するね。」
流れ的に合流することになったAグループとBグループ。
合計八人で肝試しを再開した。
やはり不安の色を隠せない人と期待の笑みがこぼれ落ちる人と様々なのだが。
その頃CグループはBグループが出発してから五分経過したため肝試しを開始した。
ちなみにCグループのリーダーは河内という男子生徒だ。
このグループは他のグループと比べられないくらい怖いものに慣れていない人が多い。
というか全員だ。
「みっ、みんなさぁ、つつ、付いてきてる?お、俺の後ろに。」
「お、おおう。付いてきてるぜ。ぜっ、全員揃ってるる、しな。」
常に周囲を警戒しながら少しずつ足を進ませる。
ただ、全員前方のみを見ているため後方や右方、左方の安全は確保していない。
そのため……
ーガタッ
「うわあああああぁぁぁぁぁ!」
「きゃあああぁぁぁぁぁ!」
体がドアに当たっただけでこの有様だ。
彼等からしたら正体不明の音のためダッシュでその場からすぐに走り去った。
だが、その走った先には八人の人影が見えた。
「ひ、ひひひぃぃぃぃぃ!おおお、おお化けだ、だだあああぁ!」
本当の正体は、先に行ったAグループとBグループなのだが、それに気づかずまた何処かに走り去ってしまった。
背後から聞こえた謎の悲鳴に気付いたのか、Aグループの一員のジュンが後ろを振り向く。
そこには四人の人影が見える。
もしかして、とジュンが考えた。
「おい、あいつらCグループじゃねえか?」
「…本当だ、四人の人影が見えるしそうかもしれないね。」
「折角居るんだし、もう合流しよっか。」
結果的には全員で肝試しをするということに決まった。
とりあえず、Cグループのメンバーを捕まえて事情を軽く説明して合流した。
Cグループのメンバーの面々は皆、心細かったのか安心したような笑顔を浮かべた。
「じゃあ肝試しスタートな。」
ジュンと園歌が仕切る事になり再び再開した。