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過去1


「ねぇ、ねえったら!」


なんだ?

あぁ、シアか。


「ん、なんだ?」


「なんだ、じゃないでしょう?もうっ。今日はデートの約束してたじゃない。いつまで経っても待ち合わせ場所に来ないんだから!だから迎えに行く、って言ったでしょう?」


……デート?

……待ち、合わせ?


やばい、今日は蒼の月の光の曜か。

あっちと時間が違うからなぁ、気をつけないと。


「すまんすまん。」


「お詫びにケーキ、奢って貰いますからねっ」


くっくっく。

頭の上にぷんぷんって文字が見えるようだ。


いちいち行動が可愛いんだよな、コイツ。

見ていて飽きない。



…………………………。

ずっと一緒にいれたら、そういつも考えている。


所詮は机上の空論、か。


「それじゃあ、行くか。」


「ひゃあっ、何するの!」


「抱き上げてるだけですけど?お前は相変わらず軽いな。ちゃんと食っているのか?よし、今日は何でも買ってやるよ。」


少しでも、コイツと過ごせる時間を作れるように……。


「やった!ってこんなことで誤魔化されないんだから!」


「バレちゃったか。誤魔化されてくれよ。」



このゲームの世界は美しい。

それはもう、現実の世界と区別がつかないほどに。

この世界の人々は生きている。

ほかのプレイヤー共はどうかは知らないが、俺はNPCに、彼女に、シアに、ユーレシアに惚れているんだ。


最初は、戸惑った。

現実では、妹しか大事ではなかった。

そんななか、唯一、俺の枠の中に入ってきたシア。


コイツのためなら、この世界を守ってもいい。

俺は、コイツのために全身全霊を込め、この世界を守るだろう。


コイツのいる世界は、コイツが俺の隣にいる間は、俺の世界は輝いている。











「なあ、もし俺が突然いなくなったらどうする?」


俺はいつの日かこの世界から消える。

これは変わりのない事実だ。


「ふふっ。どうしたの、突然。」


「なあ、答えてくれよ。」


俺はいいんだ。

この世界に来れなくなったって。

絶望するだろう。

気が狂いそうになるだろう。

人を愛せなくなるだろう。


だが、シアに会えないのなら、人形のように生きるのも悪くない。

心を保っていても、擦り切れていくだけなのだから。

ただ、唯一の家族である妹、舞彩を養うために、俺がいつ死んでもいいように金を貯めるだけだ。

それが、きっと生きがいとなってくれるだろう。

舞彩が成人したら自分がどうなるかはわからないが。




しかし……




シアは……耐えられないだろう。

アイツは普段は俺がいなくても何でもないように振る舞っているが、ひと度俺が遠征に行くと何も出来なくなると、ピナリカが教えてくれた。

あいつの言うことは信用できる。シアの、シアにだけ従う侍女。アイツはシアの為にならないことは絶対しない。それでシア以外がどれだけ不幸になろうが気にしないやつだ。ただ、それがシアの耳に入るとシアが落ち込むからしないだけで。そんなアイツが俺に伝えてきた。それだけでどれだけ不味い事かわかる。


シア、お前の事だけが心配だよ。

シア、俺の最愛。


「そうねー。世界を壊してでも貴方を探すわ。でも、私だけが探すのは不公平よ?貴方も私を探してね。ふふっ。」


そう、笑ってキミは言う。


「分かったよ。俺のお姫様。だが、しばらくしても見つからなかったら、お前も自分の幸せを探せ。」


そして、俺の事なんて忘れてしまえ。


「いいか、約束だ。」


「なによ。ずーっと待ってるわよ。」


「それでも約束だ。」


それが、お前の為になる。


「何か隠したような言い方ね、でもいいわ。約束する。でも、私が貴方を探すのを諦めたらね?諦めたら、ほかの人にも目を向けるわ。」


ああ、それでいい。



「すまなかったな。突然こんなこと言って。」


「いいわ。でも早く行きましょう?ケーキが売り切れてしまうわ。私、Saikaの新作ケーキが食べたいの。ピナに教えてもらったのよ。」


「ああいいぞ。いくらでも買ってやる。行こうか。」


















この時、俺はシアの言葉の真意に気づいてなかったんだ。

諦めたら……という意味に。




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