プロローグ
私は、小さな頃から不思議なものがよく見え易い性質だった。
忙しなく動き回る小さな羽の生えた子供、大きな言葉を話す蟻、もじゃもじゃの毛だらけの老人みたいな小人、家の外で泣き叫ぶ薄汚れた…けれど、どことなく綺麗な少女たち。
それは私にとって目に見えて実在する身近な存在だったのだ。
「良き隣人は見られることを嫌うから決して見えてることを悟られてはいけないよ。
見える子だとバレたら目を潰されるか、彼らの子供と取り替えられてしまうからね」
母は、見えるはずのないものが見えるとよくいう私をそう言って窘めていた。
お伽話に影響をされ過ぎていることを不安に思ったのかもしれない。
ある程度の年齢までは、他の子も母にも私みたいにお隣さんが見えるものだとばかり思っていた。
私が12歳になった年のサウィンのお祭りのとき、親友のイザベラに良き隣人たちの話しをしたら「まだ妖精なんて子供だまし信じてるの?」と笑われてしまったことがきっかけだった。
お隣さん…つまり、妖精は他の人には本当に見えていない存在だと知った。
そして、すぐそこに息づいている良き隣人たちのことが見えるということは、無難に生きるためには誰にも言ってはいけないということを、幼いながらも私は理解したのだった。




