兄の恋を応援したい 後編
一月二日は、年末から予定が決まっていた。
例年三が日のどこかで催される母の実家の新年会だ。四世代が集まる集まりは賑やかで騒がしい。
現役ではないけれどまだまだ元気な曾祖父母の顔も見れたし、二十歳をすぎ社会人となってもなお子供枠に入れられて、渡されたお年玉を断り損ねているおにーちゃんを見ると何となく笑えてくる。
持ち寄った料理と出前のおすしがならんだテーブルを見てまゆをはじめとしたちびっ子たちは「ごちそうだ!」と大喜び。
子供の中では私とお兄ちゃんが年長枠なので、自然と子供たちの面倒を見ることになる。大人たちは飲んで喋るのに夢中だもんね。
成人しているけどお兄ちゃんは、帰りに運転しなきゃいけないから飲めない。
案外楽しげに小学生のイトコとゲームの話なんかで盛り上がっているのでそれはそれで楽しそうだけど、それはどうなんだ兄よ。
最初は食べるのに夢中のちびっ子の面倒を見るのが大変だったけど、おなかが満たされた後はぱーっと空き部屋に遊びに行ってしまった。そこでようやく落ち着いて私は大人に混じって少し遅めのお昼ご飯を本格的に食べることにする。
「ありがとうねえ、ほのちゃん」
おばあちゃんたちがねぎらってくれて、後でケーキがあるからねと言ってくれるだけでテンションあがっちゃう。
これもあれもと盛りつけてくれるおかずを食べながら、学校の話とかしたあとで前日の話をしたのは付き合いのいいおにーちゃんがちびっ子たちに連れ去られた後だからだ。
昔おにーちゃんに迷惑をかけたから協力したいのにと言うつぶやきに、ひいおばあちゃんの目がきらっと光った気がした。
「和君はその人が好きなの?」
「うーん、気になる人くらいじゃないかなあと思うんだけど」
愛理ちゃんと言ってね、って。
私は昨日のことをさらに詳しく話した。
「あの人におねーちゃんになってもらったらいいなーって、私が勝手に思ってるんだけなんだけど」
「なるほどなるほど。よし、それなら――ばーちゃんに任せて」
「えっ」
「まゆちゃんに、あとで折り紙を教えてあげよう」
「ええ?」
目を丸くする私にひいおばあちゃんは茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
「まゆちゃんはその子に鶴の折り方を教えたんだろう? 新しいやり方を覚えたら、また教えたくなるかもしれないね」
「そんなにうまくいくかなあ?」
「さてねえ。冬休みの間、友達と会えないうちにその気になればいいんじゃないかい?」
それは誘導しろってこと?
そんなにうまく行くかなあと思ったんだけど、年の功というべきなのかなあ。
玄孫が見れたら最高だねぇとつぶやいてこどもたちのいる部屋の方へ行ったひいおばあちゃんはすっかりまゆをその気にして帰ってきた。
「あのね、まゆちゃん、今度またあいりちゃんに折り紙教えてあげるの!」
きらっきらの瞳で愛理ちゃんとお約束してきてとねだられたおにーちゃんはぐっと言葉に詰まっていた。
愛理ちゃんが昨日「鶴作れるの? すごいねえ、まゆちゃん」と持ち上げてくれて、真剣に作り方を聞いてくれたことがまゆの自信になっているらしく、ひいおばあちゃんに誘導された彼女のやる気は満々だ。
「ひいばーちゃんがコマの作り方教えてくれたんだあ。あいりちゃんにもコマの作り方教えてあげるの! きっとすごいって言ってくれるよ」
「まゆ、折り方覚えたの?」
何枚か折り紙を組み合わせて作るらしいコマを見せてもらっても、信じられなくて思わず尋ねると、
「うん。おねーちゃんにも教えてあげるね!」
にこにことまゆは目の前で折ってくれた。
よく短期間で覚えたし、細かい作業ができるもんだと私は感心した。私がまゆの頃、こんなに上手だっただろうか……絶対そんなことがないと言いきれるくらい上手だ。
別に今私が不器用だってわけじゃない。なのに私とあまり遜色のない出来映えの作品を仕上げるなんて、末恐ろしい子! よく見たらあらはあるけど、ぱっと見わからないとか器用だー。
お兄ちゃんは面倒くさいことは勘弁とばかりにそろーっとフェードアウトを狙っていたけど、当然同じ家に帰るわけで。
その上、次の日も休みで。
おうち大好きお兄ちゃんが家族との初詣以外出かけるはずもなく――。
次の日も朝からまゆにまとわりつかれて辟易としたお兄ちゃんが根負けして「愛理ちゃんも忙しいから、約束できるとは限らないぞ」と念押しした上でまゆを宥めることになっていた。
「あっ、じゃあ私も愛理に会いたいから、もし約束できたら一緒に行くね!」
「……そうだな」
まゆのまとわりつきが堪えたのか、お兄ちゃんは疲れた様子で文句一つ言わずうなずいた。
大丈夫、おにーちゃん任せて。貴方の妹は昔とは違って邪魔する気じゃないからね! むしろ今度は私がお邪魔なまゆを連れて暇つぶしだってするからね!
そんな本音はひた隠して――余計なことすんなとか言われそうだし――私はおにーちゃんに「ありがと」とにっこり笑って見せたのだった。
おしまい