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田中さんのご家族と  作者: みあ
和真さんのご家族と

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6月 その好意はいかほどか 2

 ランチ後もそれなりに楽しく過ごしたけど、紀子にしては真面目な感じで忠告してくれた言葉はずっと頭の片隅に残ったままだった。

 時間が経てば経つほど紀子相手に蒸し返してああだこうだいう気にはなれなかったけど、のどの奥に引っかかった魚の骨のようにいつまでも引っかかって取れない。

 彼女が言うように私は――田中さんが、好き、なのだろうか?

 一日を楽しみ、親友と別れたあとの帰り道。私はついに自問した。

 まあ、好きなのだろう。好きか嫌いか二択で言うのならば、間違いなく。何度考えても覆らないそこまでは断言できる。

 だけどその好意が、尊敬に由来するそれか、紀子の言うように恋愛にまで至る何かなのかは判然としなかった。

 彼氏いない歴と年齢を同じくすること二十年強、誰かに告白したこともなければされたこともない――もちろんつい一ヶ月ほど前、田中さんにされたそれを除いては、だけど。

 そもそもが、特別誰かを好きだと思ったことさえない。

 熱烈な恋に落ちるなんて事象が自分に起こることなんて考えたことがなかったくらいだ。

 だけど、確かに紀子の言うとおりに、これまでの私ならば単なる職場の先輩――しかも異性の――とプライベートで度々遊ぶようなことをしなかったはずだった。

 だけどそうなったのは田中さんと二人きりでなかったという要因が大きい。はじめの一回は偶然の邂逅。二度めはお世話になっていた先輩への義理で、それがまた続いたのは――話の流れからなんとなく決定したことで。

 回数を重ねることになったのは、田中さんがと言うよりは妹ちゃんたちの存在が大きかったように思う。たぶんだけど、それが一対一でのことなら、はじめっから誘いに乗らなかったはずだ。

 それは私の方もそうだし、きっと「妹のわがままに付き合う必要はない」と度々口にしていた田中さんにしてもそうだろう。

 だから私と田中さんの間に恋情なんて、かけらも存在しようがない。

 そんな風に結論は出たのに、紀子の忠告が頭をもたげた。

 彼女は中学校から一緒で、さほど交友関係の広くない私の唯一親友と言っていい。気が合って何でも言い合えて、お互いのことを熟知している。

 あんた絶対、教育係先輩のこと、好きでしょ――そんな彼女が、そうきっぱりと言い切った。たぶんは、恋愛的な意味合いで。

 紀子が言うからにはそうなんだろうか?

 ぐるぐると考えてしまう私の思考を読んだかのように、寝る前くらいに紀子からきたメッセージはこう。

「愛理が教育係先輩以上に気にしてた男の人なんて、これまでいなかったんだからね。妹ちゃんも可愛かったのかもしれないけど、かわいさを語る以上に妹を気遣う先輩のことをべた褒めをしていた自分を自覚すべき。

 正直シスコンを恋人にするのはどうかと思うけど」

 自覚を促すつもりなのか、それを牽制したいのかよくわからない内容に苦笑を覚えながら、私は紀子相手にそんなに田中さんをべた褒めしていただろうかと首をひねった。




 田中さんは、社会人になりたての頃から私の指導をしてくれた人だ。

 基本優しく、時に厳しく。私が独り立ちできるように順序立てて教えてくれたと思う。

 不満が全くなかったと言えばさすがに嘘になるけれど、それを補ってあまりあるほどお世話になった。

 うん。

 私は確かに、紀子に対して田中さんを誉めることしかしなかっただろう。田中さんに対する小さな不満を口にするよりも、「一コ上の先輩が存在からしてムカつく」と大きな不満を口にしたことの方が多い。

 年上の人をそこまで言うのはどうよと最初は顔をしかめていた紀子も、私の文句が重なるにつけ同情してくれるようになった。

 今では自意識過剰先輩とあだ名を付けられてしまった人は、男尊女卑思考甚だしく、だからか後輩女子の私に対する当たりがことさらキツかった。

 この共働き時代の世の中で人を腰掛け扱いするなんて頭が古いとしか思えない。女子としては枯れた部類に入る私にそれを言っちゃうところからすると、人を見る目もなさそうだ。

 変におしゃれをすると文句を言われそうだしセンスに自信もないから地味を貫いていれば、そのことについても色気がないと言われたこともあった。

 色気を出しても出さなくてもどちらにしろ文句を言われるならと、まるで制服のようにシャツとスカートを身につける日々は楽ではあったし、それが上司たちの好評価につながったことだけは感謝してもいいかもしれなかった。

 少しばかり釈然としないものを感じはしたけどね。

 思い出せる中で一番大きな田中さんへの不満である「直接の指導役なのにいまいち距離を感じてしまう」という点については、そのうち田中さんだけの問題ではないことを理解していた。

 会社の伝統として入社三年目が指導役としてムチの役割をする分、飴としてフォローに回る役割は入社二年目の人間があたるという暗黙の取り決めがあると知ったからだ。

 飴役の自意識過剰先輩がその役割を果たさない分、ムチ役の田中さんは親切にしてくれたと思う。飴役が口うるさい分、充分に優しくしてくれた。

 深く分け入ろうとしなかったのはきっと、そうすればよりうるさくなる存在を理解してのことだろう。本来厳しくすべきなのだという思いもあったのだろうけど。

 仕事のえり好みをし、忠告も右から左の自意識過剰な人のフォローも行いながら、私にも気遣いつつの指導だったなんて、ホントすごいことだと思うんだよね。

 今年はうちの部署には新卒が入らなかったから下っ端のままの私も本来ならば今年はフォロー役で、来年には指導役に回る年になる。来年の自分が去年の田中さんのように出来るか、今はまだ自信が持てそうにないもの。

 そんな風に考えるくらいだから、紀子に対しても田中さんを誉めるようなことをいくらでも言っただろう。

 社会人になったということが一番の話題の種だったし、業務内容を口に上らせるよりは職場の人の話をした方がまだしも許されそうだった。

 指導役は一番身近な職場の人だ。次いで新人を見下してかかる自意識過剰先輩と、時折「気にすることはないから」とフォローしてくれる苦労性先輩が同じくらいの関わり量。

 仕事については基本的に指導役の田中さんを挟んでのやりとりがほとんどで、ほかの諸先輩方とは言うほどの交流はなかったから話の内容が限定されるのは仕方がないことだと思う。

 愚痴ばかりはどうかと考えてたから、自然と話は田中さんのことばかりになっていたのだとしてもなんの不思議もないというのが私が出した結論だった。

今週中に完結予定です。

あと少しお付き合いください。

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