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田中さんのご家族と  作者: みあ
和真さんのご家族と
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4月 念願のショッピング2

 一通りが終わる頃には、もう正午を回っていた。

 歩き疲れてへとへとな私に比べてほのちゃんが元気いっぱいなのは、年の差だろうか?

 好きなウィンドウショッピングで水を得た魚のように生き生きとしていたほのちゃんを思うと、単に場慣れしてないから私がより疲れただけのような気がする。

 だって、私もつい最近まで高校生だったし。うん。五年以上前は最近じゃないという異論は聞きたくない。

「お昼、どーします?」

「私はどこでもいいよ。ほのちゃんに希望がないなら空いてるところでいいんじゃない? フードコートの方が席が取りやすいかな」

 ここがいいあそこがいいと言ったところで、休日のショッピングモールの飲食店はどこでも込んでるだろう。

「うーん、わたしもどこでもいいんですけど……お店に入った方がゆっくりお話しできますよねえ」

 午後の作戦を練りたいですというほのちゃんに同意して、レストラン街を見て回る。そして、比較的空いていそうな和食の店で待つことにした。

 待っている間に、どこの店のあれがいいのこれがいいの、あるいはあっちとこっちで迷うと、ほのちゃんは真剣に私のために考えてくれる。

 当人は春夏にかけて使えそうなシフォンスカートの色に悩んでいるらしい。

「あの店パステルブルーのが、めっちゃかわいかったんですよねー!」

「そうだねえ」

 いろいろ試着した彼女は、他に着てみた白や黄色よりも薄い水色がお気に召したらしい。

 ずいぶん丈の短いスカートだったけど、ほのちゃんに抵抗はないらしい。高校生って怖いもの知らずだよね……私にはそんな時代なかったけど。

 年中ジーンズを愛用していれば、買うのは基本トップスだけで良かったんだもん。お小遣いをありったけ本につぎ込んでいたからなあ、学生時代。

 私にも同じスカートをおすすめしてきたほのちゃんには、私はそういう短いのは着れませんと断固として拒否しておいた。長年スカートに縁がないと、足の見える範囲が大きいのには抵抗があるよね。

 今着ないでいつ着るんですかってほのちゃんは不満なようだったけど、職場に着ていけそうなものじゃないといえば引っ込んだ。

「どれにしようかなあ。どれがいいと思います?」

「ど……どうかなあ」

 ほのちゃんがアドバイスしてくれたのと同じくらいは無理だけど、少しでもお返ししたいとは思った。

 でも、どれも似合っていた以外、何が言えるだろう。かわいい子は何着ても似合うんだよ。だからどれを選んでもいいんじゃないかというのが正直なところ。

 アドバイスできるような知識やセンスがあったら、そもそもほのちゃんを巻き込んで買い物に来ていない。

「水色のスカートは持っていないの?」

「ない訳じゃないんだけど……ロング丈なんですよねー」

「白や黄色もあるの?」

「白なら、もうちょっと夏向けのシフォンのがあったかな」

「だとしたら、持っていない黄色がいいんじゃない?」

「やっぱり、そうかなあ。色はパステルブルーが一番だったんだけど……」

 一応アドバイスをしてみたけど、ほのちゃんは悩ましそうだった。




 それからあまり待たないうちにお店の人がテーブル席に案内してくれた。

 ほのちゃんは悩んでいたのが嘘みたいに明るい顔でメニューを取り出している。

「どれにしよっかなあ。愛理ちゃんはどうします?」

「そうだなー。どうしよう。やっぱりデザート付きのレディース御膳かな?」

「あっ、いいですねえ。私もそうしようかなー」

 私はテーブルの端に置いてあるベルを押して、レディース御膳を二人前注文する。

「ご飯が届くまでに、愛理ちゃんが買うものを決めちゃいましょーか!」

 ほのちゃんは言うやいなや、カバンの中から手帳とペンを取り出した。フリーページをピリッと破って、すぐさまなにやら書き始める。

 四色使いのカラフルなペンを操って、何階のどのお店のあれやらこれやらとアイテムを書き始める。驚くべきはその記憶力だ――この子、大まかな料金まで覚えてる!

「すごいねえ、ほのちゃん」

 他人の買い物のためにそんなに記憶力を酷使するなんて。私なんか目星をつけた商品は覚えてても店の名前なんかは怪しい。

 よっぽど興味がなければアルファベット表記の店名なんて覚えきれないもの。

「こういうのには自信があるんです。できれば将来アパレル系の仕事に就きたくて」

「へえ」

「できれば服飾メーカーかなあ。ショップの店員なら、大学生になればバイトとかできますもんね」

 興味があるからこその記憶力かと納得したけど、それにしたって偉い。私が高校生の頃なんて、目先の受験のことしか頭になかったのに、この違いはなんだろう。

 やっぱり、年の離れたお兄さん――田中さんの影響なんだろうか。

 兄の道のりをしっかり見ていて、早めの将来設計をしているとか?

 理由はともあれ、きちんとしているなと感心してしまう。

「今から目指すものに向けて行動していけば、なれると思うよ」

「だといいなと思ってます」

 私の言葉ににこっと笑ったほのちゃんは、作成したメモを私に見せてくれる。

「モノにもよりますけど、十着程度あれば着回せると思います」

 ピンクのペンでおすすめのモノに丸印を付けてくれたほのちゃんは、中でも欠かせないというモノについては青でアンダーラインを引く。

「流行モノは寿命が短いのでプチプラでも十分です。だから、この辺りはあとでティーン向けの店を見て差し替えてもいいかも。色々あった方が遊べますし」

「遊ぶ……」

 このシャツとこのスカートを合わせてと、メモを指さしながら説明してくれるほのちゃんには悪いけど、何とかという店のストライプのシャツみたいな文字だけのメモから想像するのは困難だ。

「あー、ええとー」

 私の困惑を感じたらしいほのちゃんは、ちょっと悩んでからテーブルに備え付けの紙ナプキンを手に取った。

 広げた白い紙ナプキンに、これまたテーブル上のアンケート用紙のところから取り出したボールペンで彼女はぐりぐりと絵を描き始める。

 さっきのメモに番号を振ってから、同じ番号をつけた一つずつのイラストを描いていく。

「たとえばほら、この一と、二と四とか」

 さらには組み合わせ例を手早く記してくれる。それはまるで簡単なデザイン画のようで、よく特徴を捉えていてわかりやすい。

「センスがあるっていいなあ」

「そんなことないですよう」

 ほのちゃんはちらっと私を見上げて「ほとんど雑誌の受け売りですもん」と謙遜する。

「それこそそんなわけないよ。だって、雑誌のまんまのお店がこのモールに入ってるわけじゃないでしょ?」

「そりゃまあ、そうですねえ」

「似た服を見つけることができるのも、一種の才能だよね」

「そういうものかなあ」

「そういうもんです」

 断言すると、不思議そうな顔をしながらほのちゃんは作業に戻る。

 センスのいい人にセンスのない人の気持ちは分からないに違いないわ。でも私は今日しっかり学習した――ぱっと見のフィーリングで服を買ったりはしないことを。試着は必須だと。

 好みの服と似合う服は違うんだということと、似合っても着心地が悪いのを買うべきではないと理解した。これまでいいと思って買ったはずなのに死蔵している服があるのは、そういう理由だったのだ。

 忌憚なく「合う」とか「合わない」とかアドバイスしてくれるほのちゃんの言葉はありがたかったし、とても勉強になった。


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