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田中さんのご家族と  作者: みあ
和真さんのご家族と
20/37

3月 ホワイトデーに科学館 3

 まゆちゃんは「あそびたいあそびたい」とごねたけれど、やっぱりおなかが空いているということだったので、プラネタリウムのあとに私たちは科学館を出て、昼食はそこから少しばかり歩いたところで見つけたイタリアンでとることにした。

 ソファ席に田中さんとまゆちゃんが並んで、ほのちゃんと私がその向かい側のイスに腰を下ろす。まゆちゃんは私が隣がいいのだと言ってくれたけど、田中さんは「あいりちゃんが目の前の方が、しっかりお話しできるだろ」と譲らない。

 それでまゆちゃんの隣を確保した田中さんは、今日もまゆちゃんのお世話をするのだろうなとほのぼのした。

 思い思いのメニューを頼んだ後で、まゆちゃんは肩から下げていたポシェットから何かを取り出した。

 それは前回、動物園の帰りにもらったまゆちゃんお手製のコマだった。以前もらったものとは色が違うけど、園児の作ったものとは思えないほど上手に折れている

「器用だよね、まゆちゃん。すごいねえ」

 誉めると隠しようもないドヤ顔でまゆちゃんは胸を張った。

「前にもらったのを見たら折れるかなと思ったんだけど、細かそうだし崩すと戻せない気がして結局無理だったなー。折り方、教えてくれるんだっけ?」

 はたと思い当たって尋ねると、まゆちゃんはにっこりとうなずいた。それから彼女はまたカバンからいそいそと、まっさらの折り紙を出す。

「おりかたおしえてあげるね!」

 まゆちゃんははきはきと私に宣言した。

 そこで私はおしぼりとお水のグラスを邪魔にならないようにテーブルの端に移動して、小さな先生の指導を受ける。

「いちばんそとがわをつくるよー」

 さて詳細はというと、言葉では説明しがたい。

 最初は風車を作るようにして、その羽の部分の内側を広げてつぶすように折ることを4か所繰り返す。その4つの角を、それぞれ鶴を折るようにして……と伝えれば、何となくイメージがつくだろうか。

 まゆちゃんの指導は「ここでー、こうやるの!」とか「こうやってこう!」といったように明確ではなかったけど、目の前でお手本を見せてもらえばまあなんとか、追いついていける。

 一番難しかったのは最初に手を着けた外側で、内側の二つは簡単なものだった。作り上げた3つのパーツを、これまたまゆちゃんの指示通りに組み上げると完成だった。

 中央の持ち手部分を回転させると、くるくるとよく回る。

「あいりちゃん、とってもじょうずだね!」

 まゆちゃんが楽しそうに誉めてくれる。

「まゆちゃんが上手に教えてくれたからだよ」

「かどっこがぴっとなってるのかっこいいよ。あいりちゃんがじょうずだからだよ」

「えー、あー、ありがとう?」

 小さい子に誉められるのなんてそう経験するものでないから違和感があったけど、この子はさすが田中さんの妹さんだなあと感心した。

 ご家庭の教育のたまものなんだろうか。きっと、誉めてのばすのが田中さんの家の方針なのだろう。

 田中さんは私の教育係ですから――どこがよくてどこがよくなかったか、それこそ何度も教えてもらった。まゆちゃんの言い方は、そういうときの田中さんにどことなく似ていた。

「じゃあそろそろ、折り紙はしまうんだぞ」

 まだ私と折り紙をしたいと唇をとがらせるまゆちゃんに対して、田中さんは冷静にそろそろ食事だと諭す。

「ほらまゆ、あれ頼んだミートスパじゃない?」

 ほのちゃんが後押しすると、まゆちゃんはしぶしぶそれに従った。彼女がポシェットにおとなしく折り紙をしまったところで、横から田中さんがおしぼりを差し出す。

「さっきふいたよ?」

「折り紙さわったろうが」

 田中さんは本当にマメで気が利く人だなと私は感心した。


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