1月 ランチを友人と
愛理視点です。
そこそこ長くなる予定です。
「たまたま出会った教育係先輩とショッピングぅー?」
好きな店をハシゴした後、ランチに入った店で注文を終えてから。
向かいに座った友人の園原紀子に元旦に何があったか簡単に説明すると、そんな風に素っ頓狂な声を上げた。
「なんでまた、そんなことに」
「なんでだろうね」
聞かれてもどうとも答えにくいことって、あるよねー。
「なんだっけ、年の差がヤバい兄妹とか言ってたね?」
「そう。たぶん十ずつ違うんじゃないかな。私の二つ上、女子高生、園児だもん」
「うーわー、なんてレアい」
「あっ、黙っててって言われてたんだけど――まあ、紀子と先輩が会うことなんてないだろうしいいか」
こくりと紀子はそれにうなずいた。
「えー、そんな兄妹って存在するの?」
「実在するみたいだね。聞かなかったらまるきり親子づれにしか見えなかったよ」
「はー。私もそれ見てみたかったなあ。あの日風邪さえ引いてなければ!」
紀子は夜更かしした自分を悔いてなにかもごもご言っている。
「いや、たぶん、紀子がフツーに来ていたら先輩たちが来る前に移動してたから、会わなかったんじゃない?」
「でも同じ建物にいればすれ違うくらいしたかもじゃん!」
「まあそりゃそーだけど」
すれ違っても、たぶん話に夢中で田中さんのことには気付かなかったと思うな。
連れにドタキャンされたから帰ろうと思っていると伝えたら誘ってもらえたのだと言えば、なんだそれはと紀子はうめく。
「誘った先輩も先輩なんだろうけど、ついてくあんたも相当だわ」
「誘ってくれたのは人見知りしないかわいーチビッコちゃんで、愛嬌のある女子高生ちゃんがノリノリでそれに乗っかってきただけ、なんだけどね」
「あー、そうなの? それ、実は先輩は嫌がってたパターンなんじゃない?」
「本気で言ってるとは思えなかったけど、妹たちがこう言ってるから一緒にどうって先輩に言われたら断りにくいよね」
「いつもの愛理ならさらっと断りそうだと思うけどなあ」
「友人相手と、職場の先輩相手だったら話は違うって。先輩でも相手にもよるけど」
紀子はそりゃそうだと笑う。
「愛理のトコの自意識過剰先輩は話しに聞いてるだけでヤバイもんね!」
お互い社会人になってから職場の話もするようになった。
守秘義務があるような仕事にはそんなに関わっていないけどなんとなく仕事の内容について口にするのははばかられるので、職場にいるあんなヒトこんなヒト、みたいな話がメイン。
だからこそ私の職場の問題児、昨年度入社の先輩のことは――入社当時から散々愚痴ったので紀子はよーく知っている。
さすがに名前を詳らかにする気にはなれなかったので、自意識過剰先輩とあだ名を付けて、「なんだその人あり得ないわ!」と彼女に笑い飛ばしてもらうのが救いでもあった。
入社二年目の先輩は、出来る男を気取っているけどまだまだペーペーだし雑務をおろそかにして後輩である私に押し付けてくるようなところがあって、とにかく最悪。
紀子曰くの「教育係先輩」と「苦労性先輩」――というのは、自意識過剰先輩の指導を担当した方だ――のフォローがなければ、きっとめげていたと思う。
元旦に見かけたのがあの自意識過剰野郎だったなら、気付かれる前に退散してたわよ。
あの日出会ったのが職場で一番関わりのある田中さんだったからこそ、紀子にドタキャンされて暇だったからついて行ったんだから。
「で、オフに教育係先輩と過ごしてどーでした? イケメン系なんでしょ? いいなあ」
「いや、先輩とどうこうというよりは、女子高生に服選んでもらった」
「は?」
「話の流れでおしゃれに自信がないといったらそんなことに」
「何で?」
「ノリはがよくてセンスのいい女子高生でねー。いい買い物したなと思ったわ。金銭的にも余裕が出てきたから、つい散財しちゃった」
はあとため息をもらした紀子が私を観察する。
「いつもと感じが違うと思ったら、その女子高生ちゃんの見立てってことか」
「散財って言っても、案内してくれたのが女子高生だからどれもプチプラだけどね」
「あんたが一度に諭吉様を何人も手放すくらい服買わないのは知ってる」
学生時代はお金なかったしさ。そこで趣味にお金を突っ込んじゃうと、おしゃれとかどうしても、ね?
そんなの言い訳だって? それもまあ、自覚はある。
似たもの同士の紀子にはその辺よくわかるだろう。
就職して前より金銭的には余裕ができたし、趣味には時間が割けなくなってきたし、今こそおしゃれに目覚めるべき時だと何となく思ってはいるんだよ。
ただ、今更おしゃれ指南してくれそうな知り合いなんていないんだよね。親友はおしゃれに関しては似たもの同士の紀子だし。
田中さんの妹であるほのちゃんに見立ててもらえたのはいい機会だった。
問題は、田中さんが買い物中に末の妹のまゆちゃんの相手を一人でしてくれてたことだよね。本当に良かったんだろうかと、あれだけは未だにドキドキしている。
その後、何故か次のお誘いがあったから――まゆちゃんの我が儘だそうだけど――大丈夫だと思いたいけど。
でも、よくよく考えてみるとあれは断った方が良かったのかなと、今では思わなくもない。
しかも、約束の日が休日とはいえバレンタインデーって、なんなんだろうね!
勢いで決めちゃったはいいけど、何でそんな日にしたんだろう。それこそノリとか勢いなんだけどさあ。
・先日、連載再開前に過去投稿分の矛盾点を修正しています。
・修正箇所は田中母の初産年齢、愛理と和真の年齢差など。内容については大きな変更はありません。
・週一か、二週に一度くらいの投稿を目標にしています。よろしくお願いします。




