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怠惰な美食家の日常

「はぁ……面倒だ」


 高校生、青春真っ盛りの少年は呟く。隣には幼馴染みの美少女がいると言うにも関わらずだ。


 彼のため息の原因は学校。いや、食事と睡眠以外の全般だと言えるだろう。


 極度の面倒くさがり屋。

 良いと言われると、一日中。24時間寝ていられる男なのである。


 そんな彼も隣で歩く幼馴染みには弱い。彼女が居なければ、ご飯が食べられないのだ。


「もう! シャキシャキ歩く! ごはん作ってあげないよ」


 するとどうだろうか? 0.1秒もしない間に彼は、背筋は真っ直ぐ。足取り軽く。表情豊かに歩き出したでは無いか。彼のご飯に対する執着は常軌を逸している。まぁ、面倒くさがりさも常軌を逸しているが。


 基本、料理を作らないと動かない。一人で暮らしているが、部屋には広すぎる台所とキングサイズのベットしか置かれていない。


 彼女はそんな彼を半眼で呆れたように見つめる。


「まったく……。何時もそうしておいてくれると、嬉しいんだけど」


「ふ、それは無理な相談だね」


 はあ、と幼馴染みにまで彼のため息が移ってしまった。なぜそんなにも自信たっぷりなのか、とても面倒くさい。

 しかし、やめるにやめられない事情もあった。


 彼女の父が働く会社は、彼の親が社長を務めているのだ。しかも、お前に任せた。とまで言われている。もし、同じ学校でなければ……。悔やんでも悔やみきれない。


 これでは、無下に突き放すことも出来やしない。


(うぅ……。私の青春を返せっ! なんで父さんは社長宅の横に家なんて建てたのよ!)


 まあ、越してきたのは社長の方なのだが。彼女はそれを知らないらしい。


 考えている内に、彼はまた何時ものだらしない風体に戻っていた。


「こら!!」


 一喝するとまた、シャキっとする。


「はあぁ……。まったくもって……まったくもって面倒だね」


「それはこっちの台詞よ」


 このようなやり取りはお互いの教室に入るまで続いた。



 学校でも、彼のだらしない生活は継続される。いや、幼馴染みが居ないぶん、もっとだらけているだろう。

 彼女とはクラスが違うのだ。


 授業中はずっと寝ている。初めは教員も注意をしていたが、入学して初めの試験ですべて満点、と言う驚異的な頭の良さを見せつけ、それからは何も言われなくなった。


 何も言われなくなってから、当然に生徒から「何故あいつだけ」という声も上がったが、じゃあ全教科満点とってみろ。という教師の反論で、抗議の声は消えた。


 だから一限から四限まで、ずっと寝ている。だから彼の起きている時間は、お昼休みだけだといえる。


 四限終了のチャイムが鳴ると同時に目を覚まし、机の横にかけられた弁当袋から弁当を取り出す。


 普通、チャックを開けると匂いで何か判るものだが、彼はそれを良しとしない。

 流石は社長の息子。どこかの国から取り寄せた完全に匂いの漏れない弁当箱を買っていた。弁当は何か判らないと言うワクワクも美味しさの一つ。これは彼の持論だ。


「ふふふ、今日のご飯は〜。なんだろな〜」


 中学の時の給食なんて、低レベルなものには、ほんの少しも食指は動かなかったが、高校生になってからは幼馴染みが作ってきてくれるのだ。流石に料亭の味には届かないものの、そこらの定食屋よりは美味しい。


 これが目的で、高校に行っているといっても過言ではない。


「おお……。今日はドライカレーか」


 ご飯の時以外は殆ど開かれない瞳がカッと開いた。


 保温性の高い容器に入れられたカレーのルゥの食欲誘うスパイスが彼の鼻腔を刺激する。付け合せのらっきょうも、良い。

 一度舌舐めずりして、ドライカレーをご飯にかける。


(ふむ、確かにカレーを弁当に。とおもった時は冷えて固まるから止めとくか、となるものだがドライカレーならその問題もクリア出来る。やはり出来るなあいつ)


 弁当にドライカレーの発想は無かったと、一人笑う。


 ドライカレーにはひき肉、ピーマン、トマト、人参、玉ねぎ。定番な食材が入っていた。


「さて。どうかな?」


 一口、食べる。

 やはり初めは口いっぱいに広がるスパイスの刺激の強い風味。市販のものだが、それもまたいい。少し、独自のスパイスを使ったカレーを食べ過ぎていた。

 次に襲って来るのは野菜のシャキシャキした歯ごたえ。恐らく、バターで炒めたのだあろう。仄かにバターの甘さがある。ひき肉の脂と混ざり、これまた旨味を増している。



 最後に付け合せのらっきょうを食べ、口をスッキリさせてから、お茶を飲み干した。緑茶だったが、らっきょうを食べた後の口には合った。


「はあぁぁぁぁ。うまい」


 何時もとは違うため息を吐き出し、次の一口へ移る。美味しさとカレーの食欲増進効果も相まってか、直ぐに食べ終わってしまった。


「ご馳走様でした」


 両手を合わせて、至福の時を終えた彼はまた眠りに就く。カーテンから漏れる光が心地よい。



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