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8.ポンコツ和尚、雲雀

京司は雲雀が持ってきたシャープペンを二本の尻尾で握って操り、字を書き始めた。

まずは自分の名前「鉄血院ねこかにょ」と書いてみる。

いきなりそこそこ上手に書けていた。

「不気味なくらい器用な尻尾ですね。そんな動きをする尻尾見たことがありませんよ。この芸一本でテレビに出演できるんじゃないですか?」


-お、そうか?いやいや、実は我ながら自慢の尻尾なんだよ。へっへっへ。


そう言って黒猫は尻尾で変則的なシャーペン回しに挑戦し、初回で成功させた。

くるくるくる、ハシッ

パチパチと拍手する雲雀の笑顔をみて京司はふと嫌な予感がした。


-…ん?おい、まさか…お前が金のためなら何でもやるヤツだってのはわかってるが、さすがに俺をテレビ局に売ったりはしないだろうな?


疑いの目を向ける京司に雲雀は否定した。

「いやだなぁ。金のために何でもはやりませんよ。あなたは鉄血院ねこかにょで我が家の猫です。家族を売るようなことはしませんよ。」


-…家族ねぇ。いまいち俺は家族ってのがどうもなぁ…生前家族に殺された身としては…ってまぁいいわ。とりあえず英語からやってやろう。辞書と宿題を貸してくれ。


黒猫は目の前に置かれた英語の問題集を二本の尻尾でめくり、ふむふむと何度か頷いたあと、サラサラ解き始めた。


-ほんっとに全く手を付けてないんだな…。これくらい簡単だが、自分でやっといたほうが後々のためだと思うがなぁ。高校入試とか先の話と思ってたら痛い目見るぜ?


京司の再三の忠告に対して雲雀は笑顔で応えた。

「大丈夫です、大丈夫です。それについては腹案があります。その、お受験のときにですね。ちょいとお力を借りたいんですが。えへへへ」

雲雀のわざとらしく媚びるような笑い声を聞いて京司は察した。


-おいこら、俺をカンニングに利用しようたってそうはいかねぇぞ。絶対協力しないからな。今回だって里親探しの時間を作ってやるために渋々やってるんだ。

-第一、真面目にやってるほかの連中が馬鹿みてぇじゃねぇか。俺だって当時結構、頑張ったんだよ。そんなことばかりしてるとろくな大人になれんぞ。


自身、生前はろくな大人ではなかったくせに妙なところで真面目な京司であった。


「わかりましたよぅ、元々半分冗談です。てか私、またヤクザに正論で説教された。お坊さんなのに。」


-元ヤクザだよ。今の俺はただの猫だ。てめえは猫に説教されたんだよ。ダメ坊主め。俺のコブシが一撃必殺じゃなきゃ一発げんこつを落としてるところだ。

-おまえホントにしっかり者で通ってんのか?


「我ながら猫被るのがうまいとは思います。」


-そういうのって周りに意外とばれてんだぜ。・・・坊主がそんなすちゃらかでいいのかねぇ。周りに叱ってくれる大人はいないのかよ・・・


言いながら問題集を難なく解いていく京司であったが、書かれた文字を見て雲雀が声を上げた。

「ああっ、ストップ!ちょっと待ってください!これ筆記体じゃないですか!」


-ん、ああ。まだ習ってないのか?


「いいえ、私たちの世代はそもそも筆記体習わないんです。だから筆記体で宿題が提出されると、親などの年上の人間に手伝ってもらったことがばれちゃうんですよ。」


-なにィ!?書き直しかよ。めんどくせぇなぁ…。ブロック体って書くのに時間かかるんだよなぁ…。


ぶつくさ言いながら尻尾で消しゴムをかけてブロック体に書き直し始めた。

「さて、じゃあ私は数学しよ。分かんないところあったら教えてくださいね。」


-おう。まず自分でちゃんと考えて、わからないところがどこか、自分の中で整理してから質問するように。それをやらずに質問しても無駄だぞ。


と、すっかり先生モードの京司。

雲雀も数学の問題集を解き始めたが、10分に1回は子猫を撫でたりモフったりして遊んでいるのであまり問題集に集中していない。

結局雲雀はだらだら気味ではあるが9時から11時まで2時間ほど数学の問題集を解いていた。お世辞にも快調に進んだとは言い難い。

雲雀は一度も京司に質問しなかった。

一方、京司はその2時間で英語の宿題を完全に終わらせ、あくびをしながら猫伸びをしていた。

「おお、もう終わっちゃったんですか!元ヤクザの低学歴とか勘違いしててすいませんでした!感動しました!すごいです!」


-ふぁ~…。まぁな。中学レベル程度なら問題ない。もしかしたらなんか間違ってるかもしれないが、宿題ってそんなもんだろ。

-それよりそろそろ眠い。猫ベッドを用意してくれ。あ、あと皿にカリカリも多めに盛っといて。兄弟たちが気が向いたときに食うだろうから。


「はいはい、わかりましたよ。」

そう言って玄関へ2、3往復し、猫ベッドとドライフードを持ってくる雲雀。

「あ、そうそう。私、明日まで朝から檀家周りです。柏木さんが車出してくれて。・・・ついてきます?」

ざらざらとお皿にドライフードを盛りながら尋ねてきた。


-いんや、俺がついて行ってもなんの役にも立たねぇし、なんかめんどい。ここでのんびり宿題を進めといてやるよ。このペースだと2、3日で終わるだろ。

-おっと、あと冷蔵庫にスイカ切って入れといてくれ。おやつに食べるから。

-しかし、柏木さんもよく手伝ってくれるね。


「わかりました。・・・それから、おそらく明日父が帰ってくるとおもいます。父はあなたのことが見えるはずです。もし、帰ってきたら事情を説明しておいてくださいませんか。

多分、何も言わない、何も言えないと思いますが、万一グダグダ言うようなら脅したり、痛めつけたりして頂いて結構です。」


-ダメな親だってのはわかるが、それが親に向ける言葉かよ。そりゃ俺もお前ぐらいの時はいろいろ親ともやり合ったけどもよ。・・・ちっ、まぁいいや。わかったわかった、おやすみ。


何だかすっきりしない雰囲気で京司は猫ベッドに入り、兄弟猫もそれに倣うようにそれぞれ猫ベッドに入った。




あくる朝、連打されるチャイムの音で京司は目を覚ました。

子猫の尻尾でテレビのスイッチを入れながら、霊体だけで玄関に様子を伺いに行くと外に柏木がいた。

京司は柏木の頭に触れながら挨拶をした。


-おう、柏木さん。おはよう。今日も雲雀を連れて檀家回りしてくれるんだって?世話かけるねぇ。


「あ、おはようございます。黒猫さん。いや、もう今やねこかにょさんでしたか。ええ。ですがちょっと時間がおしてます。すぐに住職を連れてきてもらえますか?」


-わりぃな。多分まだ寝てるんじゃないかな。すぐ起こしてくるから車で待っててくれよ。


「起こす?もしかして、住職まだ寝てるんですか?一件目8時半からなんですが」

言われて猫の体でテレビの時刻表示を見る。8:07。


-ぐ、マジか。わかったわかった。急いで起こしてくる!・・・・ああ、もう、あのポンコツ和尚!


京司は霊体で家の中を飛び回って探索した。そういえば雲雀の部屋がどこなのか知らなかった。この家はかなり広い。屋敷と言ってもいいくらいだった。

たしか昨日はこちらのほうに宿題を取りに行ってたはずだと家の壁を無視して進み、入った一室でベッドに気持ちよさそうに眠っている雲雀を発見した。

机、本棚、ベッド。・・・そして女の子の部屋には不釣合いな大きな金庫。

生前でもこのサイズの金庫を見たのは「それなりの場所」でだけだった。


「・・・えへへ、お兄ちゃ・・・・たし、クラスにムカ・・やつらがいるの・・・いつらみんなボコボ・・してほしいん・・・えへへ・・・ダメ?」

京司の耳になんだかロクでもない寝言が飛び込んできた。無視して霊体で言葉をぶつける。


-おい、雲雀!起きろコラ!柏木さん迎えに来てんぞ!


起きる様子がないので、同時に子猫の体で部屋に襖の隙間から侵入し、ベッドに飛び乗って耳元でにゃーにゃーと鳴いてみた。

「・・・わぁい・・おにぃ・・・ありがと・・・」

まるで起きる気配がない。


-チッ、コイツ!これでどうだ!


京司は雲雀の鼻の穴を一方の尻尾でコチョコチョとくすぐりながら、もう一方の尻尾でほっぺたをたたき、とどめに耳たぶをかぷりと甘噛みした。


「・・・やっちゃえ、おに・・・そいつ・・・ぶっころ・・ゲ、ブ、ブハァッ!?ゲヘッゲヘェ・・ゲホ・・・」


盛大にむせて飛び起きる雲雀。


-やっと目を覚ましたか雲雀。一件目八時半からなんだろ?もう10分だぞ!柏木さん、待ってるぞ!急いで支度しろ!


え、とつぶやいて机の上に置いてあるデジタル時計を見る雲雀。頭の中で8:10分という現実からスケジュールを構築すること5秒。

雲雀は叫んだ。

「うわあああ!なんでこんな時間まで起こしてくれなかったんですか!」


-おまえ、何時に起こせとか一言も言ってなかったろ!


「ああ、せっかくいい夢見てたのに・・・!わかりましたから!着替えるので部屋から出て行ってください!」

京司はなんだか逆切れ気味の雲雀に追い出された。ものすごく釈然としなかった。


-・・・全く。なんで俺が朝っぱらからこんな世話を焼かなければならないのだ。しかも起こしてやったのに感謝されるどころか追い立てられる始末。いっそ、兄弟たちの里親が見つかったら旅にでも出るか?


京司は今後の身の振り方を考え、ぶつぶつつぶやきながら玄関に向かった。

ワゴン車の運転席にいる柏木の頭に触れながら遅れる旨を伝える。


-悪いな柏木さん。たった今起きて大急ぎで支度してる。多分最低でもあと5分はかかると思う。


「んー、そうですか。一件目はこの近くだし、飛ばせばそんなには遅れずに行けると思うんですが。」


-そうか。ホント迷惑かけるな。迷惑ついでにもう一つ頼みがあるんだが…。


「また、重労働ですか?もう…。勘弁してくださいよ。昨日の猫エサ運びのせいで、腕がだるいんです。たぶん明日あたり筋肉痛が来ますよこれ。」


-いや違うよ。今回は肉体労働じゃない。簡単な話だ。一緒に携帯ショップに行って、お前さんの名義でスマホを一台契約してくれねぇか?また礼ははずむからよ。


そこまで聞いて柏木は胡乱げな目をした。

「別にいいですけど・・・変な犯罪とかに使ったりしないでしょうね?手が後ろに回るのはごめんですよ?」


柏木の心配ももっともだと言える。ヤクザ相手に自分名義の携帯電話を貸し出すなど嫌な予感しかしない。


-信用ねぇな。そんなことはしないって。この体じゃ電話はできないけど、メールや簡単なネットやゲームくらいはできるからな。現代人としてはそういうのがないと不安なワケよ。


柏木はそういえばと山の中で一生懸命スマホをいじっている猫の姿を思い出した。まぁ今現在は猫なわけだしそこまで悪質なことはしないだろうと思って了承した。

「なるほど。わかりました。法に触れることを一切しないという条件付きですが、それでいいならいいですよ。さっそく今日ご一緒しますか。予定通りいけば3時くらいには終わる予定ですし。」


-お、話が早くて助かるわ。法に触れることはしない。約束する。ご迷惑は一切おかけしません!あ…今日は雲雀の宿題をやる予定だったんだが、まぁいいか。思い立ったが吉日というし。

-宿題の続きは帰ってからやるか。


京司の言葉に軽く驚く柏木。

「猫に宿題やらせるなんて…そして、やっちゃうなんて…あんまり聞かない話ですねぇ。」


-いろいろひでぇと思うだろ?スマホのほうは報酬は機種代込み、使用料1年分先払いで50万でいいか?1年たったらまた使用料払うってことで。


気前のいい申し出に微笑を浮かべる柏木。

「ええ、それで大丈夫です。しかし随分とはずんでくれるんですね。我ながら昨日からちょっともらいすぎかと思いますが。

そんなに大盤振る舞いして後でこまりませんか?」


柏木の心配ももっともだ。基本的に京司は無収入だ。無収入である以上、いずれ金はなくなる。今のペースで使っていればあっという間だろう。


-良いんだよ。どうせ俺が金使おうと思ってもなかなか自由にゃいかねぇんだ。昨日も言ったが、あんたへの詫びも込みだ。決して高いとはおもわねぇよ。


「そういうことならありがたく。…しかし住職遅いですね。移動時間を考えるとほんとギリギリですよ」

車内の時計はもう8:19分を指している。


-ちょっと兄弟たちに出かけることを伝えがてら雲雀の様子見てくる。


雲雀は僧衣に着替え終わって玄関で草履を履いているところだった。

「ごめん!ねこかにょ!スイカ切ってる時間なかった!」


-ああ、いいよ。やっぱ今日俺ついていくことにしたから。檀家回りが終わった後、柏木さんに名義借りてスマホ買ってもらうことになったんだ。封筒から50万柏木さんに渡してくれ。


「そうなんだ!わかった!後で渡しときます!」

急いで草履を履きながら答える雲雀を追い抜くように、玄関に躍り出る黒猫。

京司の霊体は入れ違いで家の中に入り、居間に向かった。

居間にいる兄弟猫たちに出かけるから庭から外に出ずに遊んでるように伝えるといつものように了解チックな思念が返ってくる。

雲雀と黒猫はそのまま柏木のワゴン車に飛び乗って、大急ぎで一軒目である農家に向かった。


本日の檀家回り一軒目。了戒家。

かつてはこのあたりの地主であったらしい旧家で、ちょくちょく鉄血院に旬の野菜をおすそ分けしてくれる家であった。

鉄血院は野菜の供給の大部分をこの家に頼っていた。

加えて雲雀は毎年お正月にここのおばあちゃんにお年玉をもらっている。

絶対に不義理をしてはならない相手への遅刻。

道中、車の中で必死で起死回生の言い訳を考えていた雲雀だったが結局無駄になった。

昨夜この家の事実上の長であり雲雀がお年玉をもらっている相手、了戒なたね(74)という女性が農地を見回りしてる時にイノシシに襲撃され重傷を負っていたのだ。

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