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7.猫とスイカとなつやすみの宿題

「それじゃあ、うちはうちで里親探し頑張ります。引き取っても良いって人が見つかったら連絡しますね。」

玄関に大量の猫エサを下ろした後、柏木はそう言い残して去っていった。

雲雀は柏木を見送った後、さて、と子猫たちに向き直って言う。

「どうやら猫ちゃん達にはノミがついてるようですね。猫ちゃん達にはこれからお風呂に入ってもらいます。…ねこかにょ。あなたもですよ。拒否権はありません。

これはあなたに頼まれた里親探しの一環です。ほら、ノミまみれの猫ちゃんを里子に出すわけにはいかないでしょ?」


-…わかったよ。一応、山で暮らしてる時も一度ノミ取りスプレーしたんだけどなぁ。しかたねぇ、兄弟達を集める。こちらの目的に気が付かれる前に捕まえてくれ。


雲雀は黄色いTシャツとジャージに着替えて、京司に集合させられた子猫たちを手際よく捕獲して風呂場へ連行し次々子猫を洗っていった。

風呂場でにゃーにゃー鳴いて暴れまわる子猫をぬるま湯のシャワーで洗い、タオルでできるだけ水分を拭き取ってから最後にノミ取りスプレーを吹き付けて解放する。

30分も経たないうちに猫洗いの儀は完了した。

その後、やや遅くなった夕食をとり、猫たちと雲雀は居間でテレビをつけてのんびりしている。

黒猫は雲雀に小さく切ってもらったスイカをかじっていた。


-うめぇな。このスイカ。よく冷えてる。いや、久しぶりに人間の食べ物食った気がするわ。このところキャットフードばかりでよ。その前はバッタやセミ食ってたし。

-仕方ないとはいえ、なんだか心まで猫になった気分だったんだわ。

-しかし、猫がスイカなんか食べても大丈夫なのかね?食っちまってから聞くことじゃねぇけどよ。


「スイカはあまりたくさんでなければ猫が食べても問題ないそうです。さっきネットで調べました。今朝採ったばかりのスイカらしいですよ。檀家さんに頂いたんです。」

木製の座椅子に腰かけてテレビを見ていた雲雀が京司に向き直って言った。

スイカの赤い部分をほとんど食べて、黒猫はテーブルの上に乗る。


-まぁいいか。俺もどこか行く当てがあるわけでもなし。この寺にねぐら構えるのも悪かねぇ。クーラーあるし。話相手いるし。

-どのみち兄弟たちがしっかりした人間にもらわれるのを見届けるまではここを動くつもりはねぇ。

-それだけは母猫との約束でな。何を犠牲にしても果たさなきゃならねぇ。

-とりあえずはよろしく頼むぜ。雲雀。


もう一方の「ネズミを食べる」という約束は完全に反故にしている事実は置いておいて、京司はそう決意を述べた。

振り回していた長い尻尾に茶トラの兄弟がじゃれついている。


「ええ、里親探しはしっかり頑張らせてもらいます。何しろ大金がかかってますからね。まずはこの近所の方々にお声をかける予定です。インターネットの

里親募集サイトで写真を載せて、という手段もあるのですが、そちらはご近所で里親が見つからなかった時にしましょう。多少なりとも顔見知りのほうが

ねこかにょも安心でしょ?」

雲雀は子猫同士のじゃれ合いを楽しそうに見ていた。


-おお、その方向で頼むわ。…っておいやめろ。俺の尻尾で遊ぶな。兄弟、テーブルの上で遊んじゃダメだ。よそ様の家にもらわれたときそんなんじゃ怒られるぞ。


「そう思うなら猫リーダーであるねこかにょがまず範を示すべきではないですか?テーブルから降りてください。ていうか、暴れて私の麦茶こぼさないで下さいよ?」

言いながら雲雀は避難させるように麦茶の入ったグラスを手に取り一口飲んだ。


-わかったよ。…あ、そうだ。嬢ちゃんにちょっと見てもらいたいものがあるんだった。


そう言って京司は上着のポケットから光球を取り出した。

「それは、もしかて霊核!?…どうしたんですか?それ。まさか胡桃川さんを殺めたときに…」


-違うって。黒い悪霊に襲われた話はしたよな?あいつをボコったあと、現場にこいつが残ってた。いま霊核って言ったか?これがなんなのか知ってるのか?


「ああ、迷い仏の…そうですか。」

雲雀はふぅむと考えこむように視線をグラスに落とした。

「ぶっちゃけて言うとそれ、成仏しそこなった霊魂の核で、しばしば魔物のエサになりうる、ちょっと危険なシロモノです。」


「普通、生き物が死んじゃうとその霊魂は細かく空気に溶けます。そして世界を巡ってまた新しい命を象るんです。生まれ、死に、また生まれる。

これが本来の正しい流れ、と今は亡き先々代住職であるお爺ちゃんから教えてもらいました。」


ですが、と京司に向きなおって雲雀は続けた。

「その流れから外れちゃうことも例外として起こりえます。生き物、多くは人間が絶望や怒り、恨みや悲しみや後悔、時には歪んだ愛によって、成仏し損ねることがあるんです。

生前の強烈な思念が成仏を邪魔するのですよ。そうやって発生するのが迷い仏です。いろいろと呼び方がありますが、ねこかにょが黒い悪霊と言ってるモノです。」


-ほう…愛からもねぇ。なんかわかる気もするねぇ。


「ですが、覚えておいて欲しいのです。迷い仏も元は人間であり、本心は彼らも成仏したがってるんです。でも彼ら自身、もはや成仏の仕方はわからいないし、誰かに聞くこともできない。

そもそも殆どの人には認識すらされないんです。

だからこそ数少ない自分を認識できる者には必死についていきます。ねこかにょはついて来られたの初めてかもしれませんが、私なんか何度付いて来られたか数え切れませんよ。」


-へぇ~。雲雀はついて来られたらどうしてんだ?


「もちろん丁重に御供養いたしますよ。僧たる者の務めです。誰かさんみたいにボコったりしません。焼香してお経あげて、無念を聞いてあげて成仏のお手伝いをします。お金にはなりませんけど、

放っておいたらいつまでも私に取り憑いたままですから。しかしながら、殆どの迷い仏はビジュアル的に怖いだけで、そこまで実害があるわけでもありません。99.9%の迷い仏は

人を呪い殺したりもできません。精々、霊の声が聞こえちゃう人に≪寒い≫だとか≪苦しい≫だとか恨み言を聞かせるぐらいです。人によってはそれで参っちゃうこともありますけどね。」


「それで、ここからが問題なんですが、俗に魔物と呼ばれる人外の存在がいるんです。こっちは迷い仏と違って人間にとって完全に害悪です。」


-悪霊どころか、そんなものまで実在しているのか…。


「いまいち自覚がないようですね。ねこかにょ、ざっくり言うとあなたも魔物にカテゴライズされると思いますよ。

魔物、悪鬼、妖怪、悪魔。

これも呼び方はいろいろありますけど、積極的に人をろくでもないやり方で殺害して迷い仏を生み出し、その霊核を食べちゃう連中です。

霊核を食べ続けた魔物はどんどん強大になっていき、さらに多くの迷い仏を量産し、もっと多くの霊核を食べようとします。

歴史上、魔物が霊核を食らって成長し、国難となった事件が何度もあったんです。全て何とか退治されましたけどね。」

被害は大きかったみたいです、と雲雀は締めくくった。


-なんだそりゃ。俺はわざわざ人様にご迷惑をかけて悪霊を生み出そうなんて考えてもいねぇよ。何度も言うが、胡桃川の件は飽くまで正当防衛だしヤツを迷わせてもいないぜ。


全くもって心外だとばかりに京司が反論する。

「その点はある程度は信頼してますが…とにかく、忠告しておきます。それを食べたりしてはいけませんよ。ひとつふたつ食べてどうにかなるとは思えませんが、それを食べ続けて、

あなたが見過ごせないほど強大な魔物となった時、退治しようとする動きが出ないとも限りません。」


-誰が退治するってんだよ?お前さんか?


「違いますよ。私にはねこかにょの退治は無理です。私なんて所詮ちょっと霊感があるだけの寺生まれのTさんの一人にすぎませんよ。

公安調査庁だったかな?そこにそういう部署があるんです。

迷い仏の成仏もやっちゃうので私の商売敵なんです。

一度、霊障のご相談を受けて現地に行ったら先に荒っぽいやり方で解決されてたことがあります。滅多に四国に来ることはないみたいですが…

胡桃川さんの件ではうまくカタが付きましたけど、これが続くと怪しまれて連中の耳に入らないともかぎりません。

嗅ぎ付けられるとねこかにょは退治されるかもしれませんし、私も魔物に協力して対価を受け取ったとして何らかのペナルティーを受ける可能性だってあるんです。私としても目立ちたくはありません。」


-なるほど。わかったわかった。とりあえず食べるのはよしておく。まぁ、なんかの役に立つかもしれないからこの霊核とやらは引き続き持っとくわ。


「そうですね。捨ててしまって他の魔物に食べられるのもなんですから。厳重に保管をお願いします。」


ふと思い出して京司は尋ねた。


-そういや親父さんは?今更だが了解も得ずに猫とか勝手に家に入れて大丈夫なのか?


京司の質問に雲雀はあからさまに不機嫌そうな顔をした。

「多分まとまったお金を手に入れてるので今夜は帰ってきませんよ。多分徹夜で麻雀でしょう。勝ったり負けたりしながらどんどんお金を減らしていくんです。

最終的にはすっからかんになります。すっからかんになった父親に発言権なんかありません。」

どうやら雲雀の父は完全に娘に舐められているようだった。


「そんなことより、恥を忍んでねこかにょにお願いがあります。…夏休みの宿題を手伝ってください。夏休み入ってから忙しくて1ページも手を付けてないのです。」

このとおりと雲雀は黒猫に手を合わせた。


-え、全く手を付けてないのか?おいおい、もう夏休みは半分過ぎてんじゃねぇのか?まぁ、俺にも学生時代似たような覚えがあるが…


「いくら学のなさそうな元ヤクザの猫とはいえ、生前中学くらいは卒業したんでしょ?なんとかお願いしますよぅ。」

ついに雲雀は子猫相手に土下座までし始めた。


-コイツ・・・失礼な言いようだな。こう見えて俺は大学までは出てるよ。そういうのは自分でやらないと力がつかないだろうが。

-苦手なら苦手なりに取り組まねぇと後でマジで泣きをみるぜ?


正論を叩き付けられても雲雀のお願い攻勢は止まらなかった。

「おお、なんと!大卒様でいらっしゃいましたか!これはとんだご無礼を!ならば中学の夏休みの宿題なぞゴミのようなものでしょう!

そのお力で何卒私の宿題を蹴散らしてやってはいただけませんか!?

この宿題が片付けば私はもっと里親探しに時間を割くことができます。そうすればお互い幸せになれると思いませんか?」

奇妙な笑みを浮かべながら揉み手をして拝み倒す雲雀。

仕方がないといった面持ちで京司はついに承諾した。


-わかったよ。俺も尻尾でペン持って字の練習をしようかと思わないでもなかったところだ。

-数学、社会、理科、英語は手伝ってやるが、読書感想文は自分でやるんだぞ。シャープペンとノートを持ってきてくれ。


「ハッ、誠にありがとうございます!直ちに持ってまいります!しばしお待ちを!」

雲雀はすぐさま立ち上がり、自室にノートをとりに走って行った。

と、思ったらすぐに戻ってきて

「あ、そうそう。今回は特別大サービスで名付け料、タダで結構ですから!」

と言ってまた走っていった。

恩着せがましい。「鉄血院ねこかにょ」の名付け料って500円じゃねぇか。

居間に残った京司はそう思いながら、スイカの皮にわずかに残った赤身を舌で削り取るように舐め、ため息をついた。


-…やれやれ、なんだか妙な妹ができたような感じだ。

「…ふふ、まるでお兄ちゃんができたみたい。」

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