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5.里親探しのお願い

倉庫裏の粗末な母猫の墓標にお経を上げ終わり、二人と一匹は表に停めてあるワゴン車の中でクーラーを効かせて涼んでいた。

黒猫は助手席に香箱座りですっかりくつろいでいる。


-お二方、この度はただの野良猫へのご供養、誠にありがとうございました。母も喜んでいることでしょう。改めてお礼を言わせていただきやす。


京司は頭を下げた。黒猫も一緒に頭を下げた。先ほど脅してきたときは打って変わって丁寧な物腰。

雲雀も一仕事終えた充実感を表に出しながら返した。

「いえいえ。命に人であるか、野良猫であるかは関係ありません。御仏の元への旅立ちをお手伝いするのは僧として当然の行為です。」

柏木はどこか腑に落ちない感じでぶつぶつとつぶやいていた。

「7万円もぼったくっといてよく言いますよね・・・うちだってそんなに楽じゃないんですよ・・・」


-すまんなハゲ。あとでちょっと割のいい仕事を紹介してやるから勘弁してくれや。


ヘケケと笑いながら放たれた無神経な言葉に柏木がかみついた。

「僕、ハゲじゃないけどどうかと思うなー。その最近のハゲを笑いものにする風潮。どうかと思うなー。僕ハゲじゃないから関係ないけどね。人としてね。

人よりちょっと髪の毛が少ないだけで何も悪いことしてない一生懸命生きてる人間を馬鹿にする風潮、どうかと思うなぁ!!」

涙目で怒りの炎を上げる柏木に京司は気圧される。

それまで宙を泳いでいた子猫の尻尾がくるくると丸まった。


-お、おう、悪かった。もう言わん。すまんかった。ほら、スタなんとか細胞がきっとお前の毛根を救ってくれるさ。再生医療とか今後発展したら、きっと発毛の分野にも・・・・


うろ覚えの知識でいい加減に慰める京司を見て雲雀はクスクス笑う。

「大丈夫ですよ、柏木さん。ハゲが好きっていう女の人もいますから。」

目をむいて、柏木が食いついてきた。

「誰?それ誰?どこの人?若い人?」

「いや、どこって・・・そういう話を聞いたことがあるような気がしただけで・・・」


・・・・この話はもうよそう。不m・・・いや、誰も得をしない。そんなことよりもう一つ頼みがあるんだ。


柏木が泣きそうになっていたので話題を変えながら切り出す。

-実はな、俺、兄弟猫が4匹いるんだよ。

-いずれ劣らぬ鼻血モンのかわいい子猫ちゃんだ。俺みたいな化け猫じゃあねぇ。ぶっちゃけて言うとそいつらを獣医に見せたうえで、できるだけ信頼できる里親に預けたい。

-野良じゃあまり長生きできねぇからな。最後まで責任もって飼ってくれるなら人間様にお願いしたほうがいいと思ってな。

-というわけでお二方、手を貸しちゃあくれねぇか?無論、報酬は出す。一匹里親を決めてくれたら、決めてくれた方に20万円。

-多く決めてくれた方には追加で20万円払おう。成績が二人とも二匹の場合は10万円ずつ払う。合計100万円の大盤振る舞いよ。どうだ?


ああ、それから経費については相談してくれ、と京司は柏木の頭を撫でながら締めくくった。


「その100万円って殺した胡桃川さんの口座から引き出したものでしょう?」

咎めるように雲雀が言うが、京司は平然としている。


-そうだよ。そのとおりだ。別にいいだろ?被害者が慰謝料もらって何が悪い?

-俺としては何も後ろめたいことはないよ。頂いた額は600万円程度。故意性のない交通事故での死亡時の保険金の相場と比べても安すぎるってもんよ。

-さっきお嬢ちゃんは言ったよな?人であるか、猫であるかは関係ないと。偶発的な交通事故で人が死んでまぁだいたい5千万。一億いくこともある。

-俺のおっかさんが明確な殺意を持った人間に殺されて600万円ってのは、むしろちょいと安いと思わないかい?

-その金使って子供の未来切り開こうってんだ。

-まぁたしかに俺は真っ黒かもしれんが、それにしたって兄弟たちには罪はない。

-彼らはただ単に、目の前で母親を殺された被害者さ。

-それを救うのもまた善意の第三者だ。

-救済に一肌ぬいでくれよ。な、この通りだ。


黒猫がころりん、と転がっておなかを見せ、にゃーと媚びた。

「ッッッ、そんなので騙されませんから!」

口元を押さえて後ろを向く雲雀。どうやらニヤけ顔が抑えられないようだ。

「七ツ釜さんの話に一理ある気もするけど、ちゃんとお金払ってくれるの?報酬を多く提示して騙すなんてヤクザの常套手段じゃないの?」

先ほどから不機嫌な柏木が疑わし気に尋ねてきた。


-そこは信じてくれ。何しろ俺にゃあ他に金の使い道がないんだ。猫が金を銜えて店に行っても買い物できないだろ。そもそもこの辺に店なんかないしな。文字通り猫に小判ってやつさ。

-ま、それにどう言い繕ったところで嬢ちゃんの言う通り、殺して奪った金だ。わかってる。悪銭だよ。ぱっと使いたいってのも少なからずあるんだ。


それとな、と京司は付け加えた。


-七ツ釜は前世の名前だ。もう名乗ることを許されねぇ・・・・今の俺はただの野良猫ですわ。とりあえず黒猫さんとでも呼んでくれ。


「ふむぅ・・・・わかりました、黒猫さん。とりあえずご兄弟に罪がない、というところは間違いないでしょう。とりあえず猫ちゃん達を見せてもらえませんか?」


-わかった。オイ、ハg・・・・・柏木さん、車を出して送電塔の方に向かってくれ。

京司は柏木の頭に肘を乗せて支持を出した。


「今・・・・・・・・・まぁいいや。ハイハイ、わかりましたよ、黒猫さん。子猫さんたちは上にいるの?」

サイドブレーキを下ろし、ギアをパーキングからドライブに入れながら柏木が尋ねてきた。


-ああ、そうだ。ここからそれほど離れちゃいない。2,3分上ったところから、車を降りてちょっと山の中に入ると沢がある。その傍にテントを張ってるんだ。

-兄弟たちはそこで毎日食べて寝て運動会してるよ。


「了解。近くまできたら教えてください。」

柏木はワゴン車を発進させ、砂利道を登っていく。

「・・・もう11時過ぎですか。私、このあと,午後から5件回らないといけないんですよ」

雲雀がスマートフォンの画面を見ながら呟いた。


-ん?ああ、今お盆か。お寺は書き入れ時だよな。そうか、実家の手伝いやってる嬢ちゃんはえらいねぇ。俺なんざ中学のころは家の稼業に嫌気がさして仕方がなくてよ。

-毎日、親父とケンカしてたわ。


「手伝いというか、実質ウチで動いてるの私だけなんですよね。お父さんは適当に1、2件回ったらどうせ雀荘行って、頂いたお金ほとんど無くしてきちゃいますから。」


-そりゃあいけねえな。・・・親父さん、麻雀好きなのかい?


京司が問うと、雲雀はしょんぼりと答えた。

「ええ、しょっちゅう雀荘に行っては負けて帰ってきます。生活費もまともに家に入れてくれませんし、おつとめもほとんど果たしてませんよ。

そんなお父さんに愛想をつかして、私が小学校のころにお母さんは出て行っちゃいました。」

だから自分で稼がないと、と少し寂しそうに笑った。


-・・・・似たような話は山ほど聞いたことがある。だが、当事者がグレてないってのは嬢ちゃんが初めてだ。強いな嬢ちゃん。


京司の言葉に運転中の柏木が応えた。

「そうですよ。住職はこの辺じゃあダメ親父に不釣合いなしっかり者の女の子って有名です。あと霊障に対応できるお坊さんとしても、ね。

率直に言いますと、今回胡桃川君が死亡後に歩き回ったとかそういう怪談っぽい話が警察内で持ち上がってたので、この盆のお忙しい中、

住職にお願いしたんですよ。」


-ああ、そういうことか。・・・しかし、典型的なダメ親父だな。

-生前やってた商売ってよ、そういうやつばっか相手するから分かるんだわ。その手のヤツは死ぬまで周りに迷惑かけて生きていく。

-無論例外はあるが、十中八九更生なんてしやしねぇ。ま、諦めて嬢ちゃんは嬢ちゃんの人生を謳歌しなよ。苦しくなったら無理せず周りの大人に相談しろ。

-里親探しを頑張ってくれたら俺が一気に解決してやってもいい。特別にタダで働いてやるよ。


黒猫がかぱっと口を開けた。本人は笑って元気づけてるつもりらしかった。

どうせその解決方法はきっとろくでもないものに違いないと考えた雲雀は即座に断る。

「ご心配なく。これでも色々吹っ切れてます。・・・大丈夫です。」


-そうかい?・・・ま、あまり溜め込まないようにな。

-っと。柏木さん、その辺で止めてくれ。そこから山の中に入るんだ。


二人と一匹は車を降り、道を外れて山に入る。盛り上がった山肌を迂回するとすぐにテントが見えた。

中を覗くと子猫たちはテントの中でお昼寝中であった。4匹は一塊になって眠っている。

「かっかわいい!なにこれ可愛すぎです!」


-おう、うちの兄弟どもが可愛いのは当然だ。というわけで、さっき話した里親探し、お願いできないか?


京司の頼みに雲雀は即答する。

「わかりました。一度獣医さんにも見せたほうがいいでしょうし。ささ、一旦、うちに連れて帰りましょう。これだけ可愛ければ必ず見つかるはずです。」

そして、ちょっと触ってもいいですかと問うや否や返事も待たずに眠っている子猫たちをニヘニヘと幸せそうにいじりはじめた。

京司も今後の見通しがついたとホッとしていた。


-そうか。ありがとよ。マジで助かったわ。おい、そこに封筒あんだろ。そこそこ。その猫エサの山の隣。そんなかに現ナマが640万以上入ってる。例の金だ。

-お二方とも、そこから万札10枚ずつ持ってってくれ。そいつは手付プラス経費だ。報酬とは別だよ。

-あと・・・・この大量の猫エサも持って行ってもいいか?里親になってくれた人に渡したいのよ。あ、置く場所ある?


封筒からちゅーちゅーたこかいなと、きっちり10万円を頂戴しつつ、ご満悦の様子で雲雀は答えた。

「大丈夫ですよ。これくらいは余裕で置けます。・・・・はい、こっちの10万円は柏木さんの分です。」


-よし・・・・で、柏木さん、お願いがあるんだが・・・・この猫エサとテント、車で嬢ちゃんの家まで運んでくんない?


「うえぇぇ、このクソ暑い中、ここからワゴン車までこの量の猫エサとテントを持っていくんですか?・・・・黒猫さん、ちょっと勘弁してください。

これはここに置いておいてもう一度ホームセンターで買いなおしたらどうですか?」

京司の依頼に柏木はかなり難色を示した。

夏真っ盛りのこの時期、起伏のある地面を歩いてこんなものを持ち運んでいたら汗だくになるのは火を見るより明らかだ。


-ただでとは言わねぇよ。報酬は100万。

-少々きついだろうが、実働は一時間もないだろ。その程度の仕事の報酬としちゃなかなかだと思わねぇか?

-まぁ、ぶっちゃけこれはお前さんの部下を殺した詫びの意味もある。現場に慣れた人間が一人、突然いなくなりゃお前さんもちょいと困ってるはずだ。

-俺は親を殺しやがった胡桃川に対しちゃあこれっぽっちも悪いとは思っちゃいないが、労働力としての胡桃川を失った柏木さんに対しては気の毒に思ってるんだぜ?これでも。

-その辺の埋め合わせも含めてってことさ。

-な?・・・・・ほら、そこに置いてあるウィスキーと日本酒もつけるからさ。

-さらに俺に対する貸一つってことでどうだ?なんかあったら俺でよきゃ力になるからさ。な?


出処は死んだ従業員の貯金とはいえ、破格の報酬。

しかもさらに追加で酒と自らへの貸しを提示してきた。

結局柏木は折れる。

柏木としても、断ってしまって京司の機嫌を損なうのがすこし怖かったというのもあった。

何しろ、相手は人ひとり殺めているのだ。


「・・・わかりましたよ。まぁ、最近運動不足だったし頑張るとしますか。」

ありがてぇそれじゃあ頼んだぜとだけ礼を言うと、黒猫は封の開いたまま転がっている猫用ドライフードの袋に顔を突っ込んでガリガリと食事を始める。

柏木はさっそく猫エサの運びだしを開始した。

雲雀は眠っている子猫を撫でたり、スマートフォンで写真を撮ったりしている。カシャカシャとシャッター音がする。


-お、そうだ。スマホちょっと俺にも貸してくれよ。使えるか試してみてぇんだ。


言いながら黒い子猫がキャットフードの袋から顔を出した。

「え、どうするんですか?」

とてとてと黒猫は雲雀に近づき、スマホを二本の尻尾で器用に奪い取る。

一本の尻尾でくるりと尻尾を巻いて固定し、もう一本の尻尾で画面をフリックし始めた。


-お、できるできる。いや、反応してよかったわ。そうだ嬢ちゃん、兄弟と一緒の写真撮ってやろうか?ほらほらピースして。いぇーいって感じで。


「え、あ、はい。・・・・いぇーい」

カシャ。

写真撮影を皮切りに京司と雲雀はスマホで遊び始めた。

新型のスマホはどうだとか、金は出すから俺の代わりに一台契約してくれだとか話に花が咲いている。

汗だくになりながら黙々と猫エサを運ぶ柏木の視線が時折冷たい。

時刻は12時を回ろうとしていた。

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