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プロローグ

-プロローグ-

やくざの末路とその述懐


「そういうことだ。京司。死んで詫びろ」


それが極道者として尊敬する実の親父が俺に最後にかけた言葉だった。

どうしてこうなった…

わかってる。

我ながらひどい下手をうったもんだ…


俺の名前は七ツ釜京司。

関東に12代続き、伝統としきたりを重んじる地域密着型のやくざ屋さんの跡取りだ。

小さいころから周囲はヤクザな大人たちばかり。教えてくれるのはケンカの仕方などロクでもないことばかり。

親父に「これからのヤクザは学がないとどうにもならん。」と強く言われてなんとか大学こそ出たものの、ヤクザな環境で武闘派ヤクザとして

育って今まで生きてきた。


事の発端は1ヶ月前。都内にある親父の愛人のマンションが襲撃され、その場にいたものが皆殺しにされた。

うちの組の若頭1人と若い者1人、馴染みの商売相手「小鹿工房」の幹部1人とその構成員1人、それと親父の愛人が1人。

以上5名、ひどい姿で血の海に沈んでいるのをのんきに差し入れ持って訪れた親父が発見した。


ちなみに「小鹿工房」はなんだか可愛い雑貨屋みたいな字面だが、日本国内に自前の工場を持つ武器商人である。

ざっくり言うと、一昔前に食い詰めたとある刀鍛冶屋がヤクザ屋さんから海外製銃器の修理の依頼を受け、銃器の部品を作ったりしてノウハウを蓄積し、

倒産した国内の工場から工作機械を手に入れ、今では海外有名兵器メーカーの売れ筋銃器を寸分たがわず複製するようになった。

オリジナルよりも品質が高いと評判で、しかもパッと見で見分けがつかない。何かの弾みでサツに押収されてもアシがつき難い。

オリジナルより値が張る高級品だ。


5人は油断していたのか、酔っていたのか、相手が手練れだったのか。あるいはその全部か。

ろくに抵抗した様子もなかった。

信頼できる商売相手は背中を滅多刺しにされ、将来を期待された若頭は首をかき切られ、もう若くもないが親父と付き合いの長い愛人は腹を刺されて血まみれで白目をむいていた。

親父は怒り、泣きながら胃の中のものを全て吐いたという。

奪われたのは人命だけではない。

現金1億5千万と同額相当の小鹿工房謹製の銃器と弾薬。

それだけにとどまらず、部屋の金目の物も持ち去り、死体からも遠慮なく金品を剥いでいた。

いろいろと血なまぐさいこともある業界だが、ここまでの事件はここ最近聞いたことがないレベルだった。

基本的には切った張ったなんて滅多にない。そんなことしょっちゅうあったら疲れるし、いくらなんでも挙げられる。


もちろんだがこの一件は警察には届けていない。

死んだ人間に対しておおっぴらに葬式を出すこともできず、死体は組のやり方で処理された。

親父と「小鹿工房」の代表は怒り狂い、合計300人以上の構成員とその持ちうる情報網を総動員して襲撃者の特定に当たらせた。

俺も率先して走り回った。

俺は若頭にも愛人さんにもいろいろ世話してもらった義理があった。

やったやつをなんとしても捕まえろとの親父の命令だが言われるまでもない。

絶対に許さないつもりだった。

「善良な市民にご協力願って」マンションの防犯カメラや近くのコンビニの防犯カメラの動画データを洗いざらい調べ、

事件のあったと思われる時間帯にマンションに出入りした人間をすべてチェックし、そこに写っていた襲撃者を特定した。

ここまで事件から実に2日。警察も舌を巻く捜査スピードだ。

犯人と目されたのはある潰れたホストクラブの店長兼元ホストを中心とした3人のグループ。

防犯カメラに写っていたこいつらで間違いないと言う結論に達した。

確かに以前からいろいろと問題の多い連中だったのだが、ここまでやるとは誰も思ってなかった。

しかし、「捜査」は難航する。

交友関係を中心に1ヶ月ほど捜索したが杳として行方が知れなかった。

海外にでも逃げ切られたかと思ったが、結局連中のほうから尻尾を出した。

愚かにも商品を市場に流そうとしたのだ。小鹿工房製のブツは市場でも有名だ。

パッと見では見分けがつかないが、もちろん商品を扱うプロなど、見る者が見れば分かる。

当然市場のほうにも手を回していたのでこれはうちの知るところとなり、すぐに九州の地方都市で3人は御用となった。

捕獲時、すでに金は5千万程使い込まれており、その知らせを聞いて親父はさらに激怒した。

親父と俺、それから「小鹿工房」の代表はそれぞれ手下を連れてその地方都市へ移動し、尋問を開始した。

「小鹿工房」の拠点の地下室で連中はそれはそれは凄惨な拷問にかけられた。

如何に殺さずに、如何に苦しめるか。そういうことが目的の拷問だった。

減った金の行方や犯行動機、なんてついでに過ぎない。

この拷問は親父なりの大事なものを失った埋め合わせなのかもしれない。

代表さんも簡単には殺さないつもりのようだった。

椅子に拘束され、水責めを受け、火であぶられ、爪をはがされた後、指を軒並み落とされて、連中が「もういっそ殺して欲しさに」しゃべったことには、

件のマンションに多額の現金と商品があると知ったのはあるキャバ嬢から聞いたのだという。

「でたらめ言うなコラ。なんでそんなキャバスケがうちの事情知ってんだ。もぅちょい後のお楽しみにしておこうと思ってたが、

さっきの焼きごてをてめぇのケツの穴にぶち込んでやろうか?」

「う、そじゃ…ないです…そっちの人、京司さんでしょ?」

…え、俺?

「なんで俺の名前を知ってる?」

「そりゃ知ってるよ。結構長い…こと後をつけてたし…あんたから…聞いたって。華奈は。2億近い現金…あるって」

「…」

華奈…え、華奈?…そのキャバ嬢の源氏名を聞いて俺は愕然とした。

俺の顔馴染みのキャバ嬢だ…

あ、確かに行きつけのキャバクラでなじみのキャバ嬢に自分が極道であることと銃器の取引の件、現金ををキャバ嬢にしゃべったことがあった・・・・

「え~そういうのってやっぱり夜の港とかで取引してるんですか?」

そう言ってくすくす笑いながらキャバ嬢は話に乗ってきた。

酒の席でいつもの顔なじみのキャバ嬢にちょいと刺激的な話題を提供しただけのつもりだったが、結果的にこれが命取りになっていた。

さすがに俺も酒の席とはいえ具体的な場所、時間はぼかして話したが、キャバ嬢はこの話を目の前の色男に御注進したらしい。

元ホストさんたちは3人全員、大なり小なり返せる当てのない借金を抱えていて、一か八か極道相手に押し込みを働く覚悟を決めたそうだ。

そしてこの色男は仲間を使い、俺に動きを悟られぬよう注意深く、そして根気強くこちらの素性を調べ、尾行し、取引のあるであろうマンションを突き止めた。

場所がわかると今度は徹底的に張っていたらしい。

オートロック前で号室を特定し、宅配便を装って玄関を開けさせ、押し込み、皆殺しにした。意外と簡単だった、と色男は力なく笑った。

今度は親父が俺に向きなおり、閻魔を思わせる声で聞いてきた。

「…しゃべったのか?」

「…」

俺のうかつな発言が元で死んでしまった身内への申し訳なさ。自分がしたことへの後悔。

なにより親父への恐怖で肯定の言葉も否定の言葉も出てこなかった。

俺は叱られている子供のように下を向いて黙っていた。

気がついたら親父に腹を蹴り抜かれていた。

「てめぇは!うちの稼業を!何だと思ってんだ!」

激痛。息ができずそのまま崩れ落ち、倒れる。床に這いつくばったところで顔面を蹴られた。

おおおおおおおお…痛ってぇ…。

しでかしたことへの後悔と親父への恐怖で、情けないことにこらえきれず涙がこぼれてきた。


「七ツ釜さん、どうするんですか?今回の件、どう決着つけます?」と小鹿工房の代表が俺を見下ろしながら、そして親父を責めるように言った。

「…こいつには償わせる。その上で今回の損害についてはうちで補償する。…ご迷惑をおかけしました。」

「うちの人間、お宅の息子さんのせいで二人も死んでるですよ?どう償わせるの?こっちのチンピラ共ばらしても一円にもなりゃしねぇんですよ?」

「申し訳ない。金銭的な面でそれは小鹿工房さんに補償する。50億。うちにできる精一杯だ。金以外ではコイツの命で勘弁願いたい。」


…俺の命?


「本気ですか?それこそ息子さんの命なんかもらってもウチは…いや…わかりました。こんなことがありましたが、

今後も七ツ釜さんのところとはお取引を続けさせて頂きたいとうちも思っております。…その条件で今後一切禍根無く。」

そうか。そうだよな。今回は相手もある話だ。今後のこともある。息子だからと言って甘い処分じゃ下も相手も納得いかねぇだろうしな。

しかたねぇ…

早速ふん縛られて色男の隣に用意されたパイプ椅子に座らせられる。


「そういうことだ。京司、死んで詫びろ」

「いや、しかし社長、若も、若は!」

「黙ってろ!今回はうちだけの問題じゃネェんだよ!」

「では!あたしの命で!あたしが死んでお詫びしますけぇ!何卒!若は」

「ケンさんを殺して下手うったモンが生きてちゃスジがとおらねぇだろうがよ!」

うちの幹部の任侠じいさんが悲しい顔をして自分の命でこの場を収めようとするが、オヤジは聞き入れない。


あぁ…まぁ…しかたねぇか…


あ…いや、やっぱイヤだ!死にたくねぇ!死にたくなんかねぇよ!

「ちょぃ、オヤジ!俺はわざとやったんじゃねぇ!次の仕事で今回の失敗を」

タァン

言葉の続きは銃声でかき消された。

親父は拳銃を抜きざま、一番右の椅子に座らされている男の頭に突き付け、至近距離から頭を撃ち抜いた。

タァン

続けざまにその左の男の頭にもう一発。

・・・・親父、簡単に殺すつもりはないんじゃなかったのか?そう言おうとして親父の悲痛な表情に気がついた。

これはもう何を言っても無駄だろう。


隣の色男が口からダラダラ血を流しながら、それでもニヤニヤ笑って俺を見ている。

「カハ。ざまぁみろや。ちょっとスッとしたわ。いい土産がで」

タァン

黙らせるように親父が色男の頭を弾く。

「このクズがァ!」

そう言ってすでに死んでいるであろう色男を椅子ごと蹴り倒す。

「ああああああぁ!」

叫びながら蹴り倒してさらに蹴り続ける。色男の顔はすでに原型をとどめていないが親父はまだ蹴りつづけていた。

そして大きく肩で息をしながらゆっくりとこちらに向き直り拳銃を俺に向ける。

最後の瞬間、親父のぐしゃぐしゃに泣いて鼻水まで垂らした顔が目に入った。


タァン


かくして俺は実の親父に殺された。


七 ツ 釜  京 司


昭和61年(1986年)6月5日生

昭和67年(1992年)4月 都立○×小学校入学

平成 5年(1999年)3月 同校卒業

平成 5年(1999年)4月 都立○×中学校入学

平成 8年(2002年)3月 同校卒業

平成 8年(2002年)4月 私立○×高等学校入学

平成11年(2005年)3月 同校卒業

平成11年(2005年)4月 私立○×大学 経済学部 経済学科入学

平成15年(2009年)3月 同校同学部卒業 専攻:経済学史

平成17年(2010年)8月 七ツ釜興産株式会社入社

平成21年(2014年)3月22日死去。享年27歳


噂には聞いてたが人間の死ってのは突然やってくるものなんだな。

まさか今日死ぬとは思ってなかったわ。


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