老人、深夜のファミレスにて一人苦悩する。共鳴。
不思議な光景だった。
まるでそこだけが額縁から取り外した象徴的な絵のようにも見えた。
深夜のファミレスは閑散としていた。
僕と女の子の2人組、そしてその老人だけ…
テーブルに並ぶ異常な数のデザート。
デザートの森に囲まれてその老人は文字通り苦悩していた。
眉間には宿命的なしわを寄せ頬杖をついて、ときおり唸るような声をあげていた。
女の子の2人組にはまるであの老人が見えてないかのようだった。
僕よりも近くにいるのにあの異常な数のデザートにも全く気にもとめずに取り留めのない会話をしてときどき笑い声をあげていた。
あの老人はいったい何に苦悩しているのだろうか。
ウィーンウィーン。
耳の奥の方で何かが鳴った気がした。
ウィーンウィーン。
目の前がぼんやりとしてきた。
意識が遠のいていく。
バタン。
僕は大きなボールの中で牛乳とバターと卵と一緒に混ぜ合わされる夢を見た。
僕はあの老人と共鳴している。いや僕だけじゃない、深夜のファミレスでは実に様々なものが共鳴しあっていた。
老人、2人組、デザート、フリードリンク、そして僕。
老人は僕らのもつ苦悩そのものだった。
僕には2人組の笑い声の中にある苦悩が手にとるようにわかった。
深夜のファミレスは僕らという材料を手繰り寄せいったいどんな料理を作るつもりなのだろうか。 そして老人の苦悩はいったいどこへ向かうのか。僕らにはたぶんそれはわからないだろう。
それが分かる時には僕らはもう誰かの胃のなかで自らの存在の消滅を待つだけなのだから…
ウィーンウィーン。