運命の廊下
「世継ぎを決めなおししてもらえないか?」
気持ちの高揚を抑えて言う。
「お前は何を言ってるのか?」
「つまり、僕を世継ぎにしてくれというか、世継ぎになれる権利をくれということです。」
心臓が早鐘のように打っている。
自分でもこんなに緊張するとは思ってもいなかった。
これが人生をかけるという事か。
その事の重大性をこの場で改めて思い知った。
だがもう引き返せない。
「もちろん、第2条は、分かっています。それでも、それでも、なりたいんです。将軍に。」
「だが、家臣に示しがつかない。もし、私が世継ぎを変更したら、前例を認めることになり
家内で、いや、日本中で家督争いが起きることとなる。
お前は、たかが第2条だと思ってるかもしれないが、第2条のおかげで新徳川家が政権を450年間も
握っていたんだ。」
晴雅は心の中で、3男であるが故になりたかった将軍に、なれなかった自分と義雅を重ねていた。
だが、心を鬼にしなくてはならない。
子どもを愛しすぎたが故に家という最も大事なものを失くした例なんぞ古今東西どこにでもある。
そして、非情にも言った。
「あきらめろ。それが運命なんだ。」
この話が成功する確率が少ないという事は義雅も知っていた。
だが、面と向かって言われると、衝撃は想像以上だった。
運命か。
そう言ったらお終いだと、思った。
父さんはそれで、将軍の夢を諦めたのだろうが、俺はそうはなりたくないと思った。
俺はそんなもんじゃない。
運命なんて変えて見せる。
絶対に。
「父さん、また今度。」俯いて話す。
父さんの顔をみたら、負け犬根性が移りそうな気がしたからだ。
「たかが運命なんかに俺は負けない。絶対に。」
そう言って部屋を出た。京介は外にはいなかった。
長い長い廊下には義雅1人だけしかいなかった。
無性に廊下を走りたかった。