カンニング
「これより、風雅様対義雅様の世継ぎ決定戦を行います。」
と司会の男性が言うと、カメラのフラッシュが一斉に光る。
義雅は緊張していなかった。
計画は恐ろしい程、上手くいっている。
そして、兄を見た。
微かに足が震えているのが見えた。
知らないんだな。お題の内容を。
兄さんは正直なんだよ。
だから負けるんだ。
嫌いじゃなかったけど、俺の邪魔をするから。
表舞台に縁のない場所でせいぜい楽しんでくれ。
ニヤリと笑う。
「お題を発表します。」その時司会の声が聞こえた。
「シュミレーションゲームです。」
え?ゲームという声が記者席の方から聞こえる。
「ゲームといいましても、危機的状況においてどちらが適切な判断をするか見極めるという物です。」
「では早速第1問を発表します。」
「風雅様 2勝 義雅様 8勝
よって世継ぎは義雅様に決定しました。」
司会の声が部屋中に響き渡る。
その声に合わせて、義雅はあいさつをする。まず父に。そして家臣団に。最後に記者席に向かって。
そしてインタビューの時間となり、記者の質問に答える。
「世継ぎになれたご感想は?」
「今もまだ信じられない気持ちでいっぱいです。(1ヶ月前からこうなることは決まってましたけどね)」
「この勝負どういう気持ちで臨みましたか?」
「今までの自分の知識をフル活用して、悔いの残らないようにと思ってました。
(暗記した答えを忘れないことだけを思ってましたけどね。)」
「これで世継ぎということになりますが、これからの抱負を。」
「まだまだ至らないことも多いというか、ばかりなので、しっかり勉強して、県民の為に尽くしていきたいです。(将軍になるにきまってるだろう。聞くまでもない。)
そして、義雅はさわやかな笑顔で「ありがとうございました」と記者たちに向け言い、部屋を出ようとした。
と、その時、何とも言えない表情でインタビューを受けていた兄が見えた。
が、見なかったことにした。
良心がチクリと痛んだ。
痛いというよりも、こそばい感じだった。
だが心を鬼にしなくては。
あの時そう誓ったのだから。
今から半年前、父に弟を紹介され、世継ぎの話を拒否された日、
義雅は竹中に泣きついた。
「頼むもう1週間だけチャンスをくれ。」
生まれて初めて土下座というものをしながら。
「ならば問う。1週間延ばせばできるのか?」
義雅は少し頷くのを躊躇した。
その瞬間を見逃さず、竹中は責める。
「ほら。即答できなかっただろ。
分かってるんだろ。自分で。
まっ。そりゃそうだ。俺がわざと出来るわけない課題をやらせていたんだから。」
竹中はしれっと大事なことを言う。
「えー。それってドラマとか漫画とかでよくある、あれですよね。
つまり、俺を助けてくれるという事ですよね。ヤッホー。」
興奮のあまり、竹中に早口でまくしたてる。
「お前、飲みこみ早すぎだろ。」
「そうですか?」
「態度も急に豹変させるな。お前ただただ、うざいな。」
「そうですか?」
「そうですよ。今から仲間を呼ぶ。ちょっとだまっとれ。」
「仲間?」
「そうだ、俺が集めた。各方面のプロ達だ。」
「どんな人たちですか?」
「今からここに来る。黙って待っておけ。」




