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ワンハンドレッドのおまじない

「川原さん、好きです。付き合ってください」


「川原さん、好きです。付き合ってください」


「川原さん、好きです。付き合ってください」



 僕は一人、告白の練習をしていた。このセリフを口にしたのはこれで78回目。目標の100回まで残り22回だ。


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


 僕にとって”100”という数字にはとても重要な意味がある。いわゆる、ジンクスというやつの一種なのだが。


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


 僕は本当に低能人間で、他の人と比べて出来が悪い。これは自他共に認める事実。普通の人が10分で解ける問題に丸一日をついやす。ボールを蹴ろうとすればボールにつまずいて転ぶ。一度にたくさんのことを覚えようとすると頭が混乱する……この要領と頭の悪さは生まれ持っての、ある意味僕の”才能”だった。


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


 そんなダメダメな僕だけど……いや、ダメダメな僕だからこそ、人よりもいっぱい練習をした。努力をした。誰よりもはやく始めて、誰よりも時間をかけて、みんなが遊んでいる間にも、練習をした。努力をした。……そうやって、何とかここまで脱落せずに生きてきた。


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


 そんなふうに人一倍努力をしながら生きているうちに、僕はあることに気がついた。そう、どんなことでも、『100回やると必ずうまくいく』ということに。


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


 テストの時も教科書の出題範囲のページを100回読んだら80点を取れた。体育の100メートル走の時も100回100メートルを走ったらクラスで8番目の記録を出すことができた。キライなトマトも100個食べたら食べられるようになった。


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


 とにかく、100回やれば、どんなことでも絶対にうまくいく。もしかしたら僕のこの人生自体、101回目なのかもしれない。そう思えるほど、僕は低能なダメ人間だけど、小さな成功をしっかりとこの手に掴んで生きてきた。


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


「川原さん好きです。付き合ってください」


 僕はそんなことを考えながら、ついに100回目の告白の言葉を発した。


「川原さん好きです。付き合ってください」


 空にはいつの間にか、夕日が浮かんでいた。





「あ、えっと……ごめんなさい」


 僕はフラレタ。


 でも、僕はちゃんと伝えられた。


 100回練習したから。一生懸命、努力したから。だから、告白自体は、失敗しなかったよ。


 ほらね、やっぱり『100回のジンクス』は間違っていなかった。どんなことでも100回やれば、101回目は絶対に成功するんだ。それはつまり、僕の人生にもはや失敗は存在しないということ。こんなに素晴らしいことはない。



 でも、この胸の苦しみは、きっと……

 


 100回経験しても消えてくれないんだろうなぁ


 

 そんなことを考えながら僕は泣いた。


 今日の夕日は、境界線がぼやけていて、キラキラと滲んでいて、すごく、キレイだった。

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