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ヒガス

作者: muku

「世の中は理不尽なことばかり」


俺たちの先人である社会人の方々は皆口をそろえてその台詞をヘドロの様に吐き出す。

理不尽なことなんて、僕たち高校生にだってごく身近に、しかも毎日起こっているさ。

親がうるさかったり、教師がめんどくさかったり、缶ジュースを買うためのお金がなかったり。

でも、俺たちは甘えていただけだ。こんな恵まれた世界で、こんな平和な世界で。ただ自分が中心に世界が回っていると勘違いしていただけだったんだ。


***********************************************************************************************************


「なんで俺たちってこんな平凡な生活してるんだろうな。アニメみたいにさ空飛んだりとか、炎を操ってさ、神になりたいよな」

俺は虚無感を感じていた。毎日同じように高校生をして授業を受けて、友達ってやつらと戯れ合う生活に。

「そうだよなぁ、やっぱワシはチャリーたんのメタメタフォーゼの能力つかって女の子に悪戯しちゃいたい」

いまどき一人称にワシを使っており、見るからにデブオタといわれる容姿をしている俺の友人1号であるヒガス。

このヒガスは、魔法ショタ野郎チャリーたんと言うアニメキャラクターをこよなく崇拝しており、俺の救世主とも呼べる存在でもある。

しかし、残念ながらヒガスは一般人からデブオタと呼ばれる容姿と酷似しているためか、クラスの女子全員かつ男子を含むクラスメイトの大半から

悪い意味で一目置おかれる物として扱われていた。

また、ヒガスが崇拝するアニメキャラクターのチャリーたんが持つ能力であるメタメタフォーゼに対する補足説明だが、それは。

「ただ動物に変身するだけ」

「そうだとも、動物に変身するんだ、よくお分かりでヨシダくん」

ただの独り言だったんだけどな。ヒガスはチャリーたんの話になるといつも鼻息を荒げながら食いついてくる。

すまない。ヒガスの説明で興奮してしまい、本編から大きく脱線していたようだ。紹介が遅くなったが俺の名前はヨシダでありこの物語の主人公である。

設定については多く語らなくてもいいだろう。遠い惑星からやってきた古代人の末裔だ。

「ヒガスよ、俺たちはいつも同じ空を見上げ、そして神が定めた運命の線路に沿って生きているだけだ。」

俺のセンスあふれる台詞を聞いたヒガスは、文句があるのか俺の顔に向かって太い指を突っ立てながら反論してきた。

「お前には、才能があるんだがね、もったいないな。わかったワシが一ついいこと言ってあげよう。」

何がもったいないのかわからないが、こいつは上から目線で俺に助言しようとでも言うのか。何か能力でも使うつもりであろうヒガスは天井に向かって両手を突き上げ、指を小刻みに動かし始めた。

しばらくその奇妙な光景を嫌々見ていたが、急に風が強く吹き始めたかと思うと、それと同時にヒガスの小刻みに動いていた指は動きをとめ、全ての指がピンッと伸びた。

タダでさへ悪寒の走る光景であるのに、存在を確認できていなかったヒガスの細い目も大きく見開き、俺に恐怖すら感じさせた。

「こいつ、取りつかれてるでぇ」

大きな恐怖に圧倒されていた俺が、何か言うにもこれが精一杯だった。

神の声でも受信したのであろうか、ヒガスは俺に向かって閉ざされていた口を開きこう語った。

「みえるわぁ、みえるわぁ。あなたに災害が振りそそぐわぁ。やめてぇええ、そこだけはやめてぇえ、らめぇええ」

不愉快だった。いいことを言ってやろうと豪語したにもかかわらず、言われたことは助言ではなく予言に近かく、災害がふりそそぐわぁ。と不幸ごとのみだし何故かオネェ言葉で言われた。最後のほうにいたってはどこかピンポイントに変なことされてるし。

「最後、どう考えてもお前が襲われてなかったか?そして、いいこと言うっていってたのに、なんで俺に災害が降り注ぐんだよ」

思わず俺は、ヒガスが変なことされちゃってる台詞につっこみ、俺におとずれるであろうバッドなエンドに不満をもらした。

「とりあえず、こっちの世界戻ってこい。休み時間終わったわ。」

この不愉快な光景に我慢が出来なくなった俺は、神と意識を共有してるであろうヒガスの顔面を、自慢である右の拳でめいいっぱい殴ってやった。

「ふぁ〜、もれちゃうよぉ・・・あ、ワシなんか言ってたっけ」

ヒガスは、先ほど起こったことを記憶しておらず、やはり何者かに取りつかれていたようだった。

一連の行動が、クラスメイトの目に止まらないはずはないのだが、こういうことは毎日いや、休み時間がくれば行われるので、クラスメイトも慣れたもので無関心であった。


*************************************************************************************


「今日もいつもと変わらない一日だったな」

何も変わらない同じ毎日に俺は虚無感を感じて一人小言を呟く。俺は遠い昔に地球に降り立った異星人の末裔だというのに何も起こらない。

「なんて思っていても、所詮アジア人ってわかってはいるんだけどな」

正直なところ、どこにでもいるアジア人ということは自覚している。親を見れば一目瞭然だ。俺にはアジア人の血以外通っていない。

「中二病か、なんだよそれ意味わかんねえ」

俺はよく、周りから中二病って言葉を浴びせられる。しかしながら俺自身中二病の意味はしらないし周りの奴等も教えてくれない。

ヒガスにいたっては眠れるショタ野郎と言われている。ショタって意味は知っているんだがな。

無駄な、考えにふけりながら、通う高校からの同じ帰り道を一人歩いている。これが俺の日課であり代わり映えのない毎日だ。

「何か、面白いこと起こらないのかよ」

俺が毎日の虚無感に対し不満をつぶやくとどこからか、女子の声で返事をしてきた。

「面白いことしたいなこっちに来なよ」

周りを見渡すが誰もいない細い路地であり人影なんてどこを探しても見つけることなんてできなかった。

「幻聴なのか。俺もとうとう末期だな」

幻聴が聞こえるほどに俺は、この毎日に虚無感を抱いていたのか、早く家に帰り寝ることにした。

歩く速度を上げ道をあるいていた。しかしちょうどマンホールの上に足を乗せた瞬間、そのマンホールは自動ドアの様に真っ二つに開き、俺を下水道に招き入れた。

「ぎょ・・・ぎゃあああ」

下水道に招きいれられてるであろう俺は、汚物まみれになってしまうことを受け入れようとしながらも、人生にお別れを告げる準備もしていた。

地上から地下までは結構な高さがあるだろうし、うまく着地も出来るはずもない、だから死は覚悟はするものだ。

しかし、俺の覚悟とは裏腹にいつまでたっても地面にぶつからない。暗闇中をひたすら下に落ちながら進み続けた。

すると下水道につながるであろう竪穴の奥からまばゆい光が差し込み、その光に吸い込まれる様に俺は落ち続けた。

そしてその光に突入し、外に出たと思えば、落ちたはずであった穴から飛び出て見事先ほど歩いていた路地にへたり込んだ。

不思議なことに落ちたはずのマンホールを見ても変化はなく下水道に続く道をしっかりふさいでいた。

「とりあえず、かえって寝る」

奇妙な体験をした俺だが、疲れて幻想を見たのだと思い今日はさっさと家に帰って寝ることにした。


********************************************************************************


定時なると同じ行動を繰り返し、俺を夢の国から現実世界に呼び戻すご立派な使命を遂行する目覚しくん。

嫌々ながらもその目覚しくんに従い目を覚ます。

また今日も代わり映えのない退屈な一日がはじまるな。いつもと同じように親が用意してくれた朝食を食べ、制服に着替え家をでようとした。

するといつもは何も言ってはこないオカンが何故かテストについてしつこく言及してきた。

「そういえば今日って実技のテストの日だったわよね?ちゃんと練習したの?昨日は帰ってくるなりすぐ寝ちゃってたけど」

「今日がテスト?テストなんてないし、ましてや実技なんて聞いたこともないわ」

今日がテストなんて聞いてもいなかった。ましてや実技のテストと言えば体育の授業くらいではないのか。それに今日は体育の授業なんてない。

「とりあえず、もう行くわ急がないと」

オカンの意味不明な会話に付き合うと遅刻してしまうのでとりあえず会話を切り家から出ることしにた。


同じ道のりをたどり登校する。いつもひとりで。なにもおもしろくはない。

学校に着きいつものように教室のドアを開けた。そこは昨日の俺の居た教室とは少し・・・いや大いに違った。

俺の目に飛び込んできた光景は、今までの経験したことのないもので、昨日まで普通だったクラスメイトが何故かカバンに触れることなく宙に浮かし移動させているではないか。

これだけでも、腰を抜かして床にへたりこんでしまうのだが、それだけでは済ませてはくれなかった。

昨日まで、悪い意味で一目置かれていたあのヒガスが教卓の上に座りながら、得意げに短い足を組み、手のひらに赤く丸いホワホワしたなにかを浮かせていた。

「これはまるで・・・炎」

度肝を抜かれた俺は、ただ東の手のひらに浮く物を炎として捕らえることしかできなかった。

俺の気の抜けた声に気づいたヒガスはいつものように俺に挨拶をした。

「ヌホ、よぉヨシダくん」

ヒガスは教卓から降り、手のひらで形成していた炎のような何かを消滅させ、俺に近づいていきた。

「よお、ヒガス。どうしたんだ手から炎なんか出しちゃって。新しいオモチャかお菓子か?」

「何いってんだよ、今日は実技テストの日だろ。周りみろよ皆真剣なんだよ、俺やお前はいいとしてもこいつらは必死に生きてんだよ!」

ヒガスが切れた。目を見開き切れた。正直なところ気持悪かった。そんなことはどうでもいいのだが、ヒガスの言われるままに教室を見回した。

するとカバンを宙に浮かすだけではなく、手を触れずにスプーンを曲げる者や、ヒガスのように手から炎のようなものを形成させる者、皆それぞれ違ったことをしていた。

またそいつらの顔は真剣であり、まるで定期テストの朝そのものであるピリピリした空気が教室には流れていた。

俺が昨日まで見てきた光景では決して見れない物であり、今まで抱いていた虚無感が満たされていく気がした。















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