『ゴリラ令嬢』は紛れもなく褒め言葉ですけれども
ゴリラを御存じでしょうか?
南方の大陸で発見された毛深い野人です。
普通の人間とは見た目が違い、服を着ることもなく、また意思の疎通が大変困難なことから、野人と言われているのですね。
現在では見世物小屋などでゴリラを見ることもできるのですよ。
ただ野人ゴリラにも素晴らしいところがあるのです。
ゴリラの存在が探検隊に知られ、初めて捕らえられた時のこと。
捕らえられた三体は全て雌だったそうです。
辱められることを嫌ったのでしょうか?
探検隊に対してものすごく抵抗して、ついには三体とも殺さざるを得なかったのですって。
このエピソードから、ゴリラは貞淑の象徴と考えられるようになりました。
『ゴリラのような』というのは、女性にとっては最高の褒め言葉なのですよ。
わたしシールズ男爵の娘ハンノも、婚約者ブレナン・ウィント男爵令息から『ゴリラ令嬢』と呼ばれているのですが……。
「わざわざハンノが私を呼んだってことは、不満があるんでしょ?」
「キャシーは鋭いですね」
今日は親友のキャシー・モラン男爵令嬢を招待してお茶会なのですよ。
ブレナン様が馬術部の遠乗り合宿でいないということもあるのですけれど。
「ブレナン様とサーカスを見に行ったのです」
「ああ、そう言ってましたね。どうでした?」
「そこで初めてゴリラを見まして」
「へえ、いいですね。私も一度見てみたいわ」
「ブレナン様がわたしのこと、『ゴリラ令嬢』って言うのですよ」
「……褒められてるだけではないですか。惚気ですか?」
「違いますよ」
「何が問題なのかわからないのですけれど」
それはキャシーが実際のゴリラを見たことがないからだと思います。
ゴリラにいいイメージしかないのではないですかね?
「キャシーはドラミングって知ってます?」
「ドラミング? いいえ、知りませんけれど」
「ゴリラの性質の一つで、胸をバシバシ叩く行為のことなのですけれど」
「ゴリラってそんなことをするのですね。面白いではないですか」
「たまたまドラミングするところを見ることができたのです」
「いいなあ。それが?」
「……わたしも行うのですよ。ドラミングを」
「は?」
これだけじゃわからないですよね。
わたしは胸が小さいではないですか。
触ったり揉んだりすると胸が大きくなると聞きますので、わたしもバシバシやるということをキャシーに説明します。
「効果はあったの? ないわよね」
「見ただけで悟らないでくださいな」
「まったくハンノはバカなのですから」
「うっ……そのバカなことを、どうもブレナン様は当家の侍女から聞いていたらしく……」
「サーカスを見て以来、ハンノはブレナン様に『ゴリラ令嬢』と呼ばれるようになったと?」
「はい」
呆れた顔しなくていいじゃないですか。
わたしだってモヤモヤしているのですから。
「ハンノは可愛いですよ」
「……胸が?」
「拘りますねえ。くだらないことを気にしてるところが可愛いって言ってるの」
笑いごとではないのですが。
いえ、笑えるかもしれませんが、その笑いは乙女のか弱い部分を刺激するというか。
「どうするべきですかね?」
「そのままでいいと思いますけれど。だって自分の婚約者に『ゴリラ令嬢』と呼ばれているなんて誇らしいでしょう?」
「……ドラミングの件がなければ誇らしいですけれども」
「ハンノはブレナン様のことが好きなのですよね?」
「……もちろん好きです」
「ブレナン様だってハンノのことを絶対気に入ってますって」
「そうかしら?」
「そうよ。見ていればわかるわ」
キャシーに言われると少し安心です。
キャシーは恋愛に関してすごく敏感ですから。
彼は彼女が好きの嫌いのって、高確度で当てますものね。
「ブレナン様とハンノって、学校でもいつも裏庭のベンチでお弁当食べるじゃない?」
「晴れている日はそうですね」
「ピッタリくっつきたいのに、拳一つ分くらい隙間を開けるでしょ?」
「はい。よく見てますね」
「あの辺にじれったい愛とかぎこちない甘酸っぱさとかを感じて、私も御馳走様なのですよ」
「どこで食欲を満足させているのですか」
ウフフオホホと笑い合います。
でも客観的な状況を聞かせてもらうと、ブレナン様とわたしってうまくやれてるんだと思いますね。
キャシーの意見には感謝しなければいけません。
「ブレナン様、シャイなところあるじゃない?」
「ありますね」
「ハンノのことを素直に『ゴリラのような』って言えないだけよ。だからドラミングにかこつけてるだけ」
そんな気もしてきました。
今日キャシーを呼んでよかったわ。
「ハンノが気にしているなら、『わたしの胸を揉んでください。大きくしたいのです』って、ブレナン様に直接頼めばいいわ」
「頼みませんってば!」
「十中八九、ブレナン様の赤い顔を見ることができるわよ」
……恥ずかしがってるブレナン様ですか。
わたしもちょっと見たい気がしますね。
「いずれにしてもブレナン様とハンノは全然問題ないわ」
「ええ、キャシーありがとう」
「ラブラブしてるといいわ」
ウインクするキャシーは頼もしいです。
キャシーに恋愛や婚約の話が出ましたら、わたしは可能な限り力になりますからね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
こちら清坂 正吾さんの主催する『ゴリラパーティー』という企画の参加作品です。
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