表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17番を継ぐ日まで ―消えた天才の成長譚―  作者: 道雪ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/20

光景

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

その光景は、今でも俺の瞳の裏側に焼き付いている。


カクテル光線に照らされた、緑の芝と土のコントラスト。


30000人を超える大観衆が詰めかけた、東京ファルコンズの本拠地「東京新宿フィールド」。


地鳴りのような歓声が、まだ小さな俺の体を衝撃となって震わせていた。


マウンドに立つ俺の視線の先には、ファルコンズのユニフォームを纏い、背番号『17』を背負った父・誠一郎がホームベースの後ろでどっしりと構えている。


バッターボックスには、父の親友であり、宿敵でもある大阪ブラックパンサーズ、「代打の神様」村松選手。


今日はお父さんの引退試合。


俺はセレモニーピッチのピッチャーとして、憧れ続けてきたこのマウンドに立っていた。


小学校1年生から野球を始めた。


全ては、このマウンドで投げるお父さんのようになりたくて。


何百回、何千回と動画を見返し、鏡の前で真似し続けた。


しなやかで躍動感のあるフォーム。


4年生になった今、ようやく形になってきた俺の全てを、今ここで出すんだ。


「プレイ!!」


審判の鋭いコールが響く。


深く息を吸い込み、両腕をまっすぐ頭上へ掲げた。


胸を張り、左足を高く上げる。軸がブレないように、溜めた力を一気に前方へ解き放つ。


体が開かないようギリギリまで我慢して――。


指先にかかる感触。お父さんに教わったリリースポイント。


――スパンッ!!


小気味いい快音が静寂を切り裂いた。


村松選手のバットが空を切り、白球は父のミットの真ん中に吸い込まれる。


「ストライク!!」


地響きのような歓声が沸き起こった。


村松選手とがっちり握手を交わした父が、満面の笑みでこちらへ歩いてくる。


「最高の球だったぞ、隼人。……大きくなったな」


そう言って抱きしめてくれた腕は、少しだけ震えているように感じられた。


その後、俺はお母さんとお揃いの背番号『17』のユニフォームを着て、スタンドから試合を見守った。


そして、7回表、2死。


球場内に特別なアナウンスが響き渡る。


『ピッチャー、河野に代わりまして――橘。ピッチャー、橘。背番号、17』


今日一番の、割れんばかりの歓声。


専用の登場曲が流れ、ゆっくりとマウンドへ向かう父の背中。


何度も見たはずのその姿が、なぜか少し遠く感じる。


「お母さん、お父さんってやっぱり、世界一カッコいいね」


「……そうだよ。隼人のお父さんは、世界一カッコいいんだよ」


お母さんの言葉に頷きながら、俺はメガホンを握りしめた。


マウンドで投球練習をする父は、いつも以上に気合が入っているように見えた。


練習が終わり、父は一度グラブを外すと、その平裏部をそっと撫でた。


そこには、父の信念である『勇気』、そして俺の名前である『隼人』の文字が刺繍されている。


父が投球前に、必ず行うルーティンだ。


バッターは村松選手。


 2人はマウンドと打席で視線を交わし、一瞬だけ、戦友としての笑みを浮かべた。


「プレイ!!」


ワインドアップから繰り出される、何度も目に焼き付けたあのフォーム。


内角低め、糸を引くようなストレート。


――スパンッ!


「ットライーーク!!」


球速表示は133キロ。


かつて155キロを誇った「ファルコンズのエース」の球ではない。


度重なる肘の怪我。


去年の再手術。復活を懸けた今シーズンだったが、その剛腕が元通りになることはなかった。


それでも、父は痛みを押し殺し、持てる全ての技術と魂を右手のミットに叩き込む。


2球目、外角低めいっぱいのストレート。


村松選手のバットが再び空を切る。


打席の村松選手が、泣いているように見えた。


キャッチャーの下山さんが大きくミットを構える。父が深く頷く。


ああ、これで、最後なんだ。


子供ながらに、終わりが来ることを悟った。


最後の一球。


魂を削り出すように投じられた白球は、内角ぎりぎりに突き刺さった。


――スパンッ!!


「ストラックアウト!!」


三振。


球場全体が「橘!!」という絶叫に近いコールに包める。


マウンドへ駆け寄った村松選手と父が、人目も憚らず抱き合って泣いていた。


それを見て、俺の目からも涙が溢れた。


悲しいのか、悔しいのか、それとも誇らしいのか。


自分でも分からない感情が、涙となって止まらなかった。


試合は3対1でファルコンズが勝利し、試合後に引退セレモニーが行われた。


父の泣き顔なんて、一度も見たことがなかった。


けれど、スピーチをする父の声は震え、ファンやチームメイト、スタッフへの感謝を伝える背中は、今までで一番大きく見えた。


「――いつか、息子の隼人がファルコンズの背番号17をつけ、このマウンドで活躍する日が来ることを、楽しみにしています」


父のその言葉を聞いた瞬間、俺の中の「夢」は、明確な「目標」へと変わった。


セレモニーの最後、父と手を繋いでフィールドを1週したとき、ファンの人たちの顔がよく見えた。


泣きながら「ありがとう」と叫ぶ人、応援タオルを掲げる人。


俺は知ったんだ。


俺の憧れた人は、こんなにも多くの人に愛され、勇気を与えてけきた偉大な男だったんだと。


「待ってて、お父さん。俺、絶対にお父さんの背番号を継ぐから」


ブックマーク、リアクション、評価をしていただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ