03 出会いと検査 (仮)
壇上に一人の男が登る。
短く切られた赤い髪。鍛えられた肉体は衣服の下からもその強靱さを物語る。
天賦の才と積み上げられた努力によってなされた、強者としての自覚、覇気、圧倒的なまでの生命力に溢れた男であった。
男の名は『ガンドルフ・フレイ・アドラヌス』……
ヘルクレス帝国の伯爵家の嫡男であり、騎士へと入団する以前より頭角を現した男。
彼はまだ新兵…否。まだ兵にもなれていない見習い騎士であるのにその気迫は熟練の騎士と並ぶ程のものである。
アドラヌス家の領地にて多くの魔物を斃したことが知られている。
魔物─今は多くは語らないが、人ではないモノが魔力によって変異したモノである。その多くは獣や蟲を大きくしたような見た目のモノが多く、そのあり方は千差万別である─。
「我らは新たな騎士となるべく、この国を護る盾となり剣となるべくして集った…先達に習い、武を磨き、魔を修め、如何なるものにも負けぬ強き一団となることを誓う!」
目を見開き、語り口に熱がこもる。
「そして、いまだ止まぬ脅威から民を守り!この国の為、力の限りに我らは巨悪を打ち倒すことを誓う!!」
「我らの護るべき…!愛する者の為!!降りかかる火の粉を払い除け!突き立てられる牙を折り!仇なす畜生の頸を断つ剣になろうぞ!!」
獰猛さを隠すことなく、烈火のような髪を逆立てながら男は吠える。
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「………ぐぅ…」
「おい、…寝てないか?」
グリッと足が踏まれる。
鈍い痛みに目が醒める。
「…いたい」
「今は式典中だ…礼節を知らぬとしても寝るなど言語道断だぞ…」
俺にだけ聞こえる程の小さい声でかつ顔も正面に向けたままに足を踏まれる。
「…はぁ…」
「騎士となるならこういった式典にも多く参加することもある…貴族でない平民では知らぬことだろうが、素行の悪い者は認められず上に行けないぞ」
文句の一つは言いたいが、相手の方が正しいと感じてしまったので反論できずに口を閉ざす。
「……姿勢を正したまま直立して眠っていたことと、私が足を踏んでも物怖じしなかったことは褒めてやる」
「…どーも」
それはホントに褒めているのだろうか。
壇上の男が何か熱く語るが、聞く気はあまりなく右から左へと流しながらどう暇をつぶそうか思案していると横の…今朝合ったばかりの…独り言が聞こえる。
「野蛮な…奴が主席だったとは…」
チラリと顔を覗き込む。何か…屈辱を受けたような顔をしているが、矛先は壇上の男ではなく自分へと向けられていた。
壇上の話が区切りがついたのか、周囲から拍手が起こる。
それに習い拍手をする。
「…なあ?」
「………私に話しかけたか?」
コクリと頷く。
「アイt…壇上の男って有名人なの?」
「……平民には知られていないだろうが…貴族の中では有名だ…騎士団に入る前にドラゴンを1人で討伐したと去年話題になったよ」
「あー…確かに強そうだな」
「名前はガンドルフ…名門アドラヌス家の嫡男だ」
「ふーん」
「それから…君のことも思い出したよ」
「俺のこと?」
「君の父親、アーサー氏…今は北部の国境守護騎士の団長で以前は聖騎士隊の副隊長だった男だろ?」
「…あの親父殿そんなに有名なんだ…」
式典は終わり、これから交流会が催される流れになったが、俺はそこから抜け出し、検診を受けに向かう。
何故か、隣に貴族らしき例の男がついてきているが。
「なんで居るんだよ…てか、お前誰だよ」
「おや、私としたことが自己紹介を怠っていたとは…申し訳ない」
フフンと鼻を鳴らしてキメ顔をする男はまったく申し訳なさそうにはしていなかった。
「私の名は、 オリビオ・フォン・ネレイス…ネレイス侯爵家の次期当主…さ!」
「そうか、ヘリオスだ」
ビシッと何やらキメポーズまでしながらの自己紹介をスルーする。
「ヘリオス…古の英雄の名前にあやかった、よい名だね。何を隠そう、我がネレイス家は代々にわたり古の英雄達の歴史を──」
「検査室はここか」
「聞きたまえよ!」
「だから、なんでいるんだよ」
扉を開けながら検査室へと入る。
後を追ってオリビオも入室する。
「あそこは今はガンドルフが主役の様相だ…私が主役でない舞台になど興味ない」
「そうか」
「おや…?検診は1人と聞いていたが…?」
老人が1人椅子に座りながらこちらを見ていた。
手には分厚い本が開かれ、読書の途中であったのが伺える。
「私は付き添いです、ドクター」
「勝手についてきただけだろ?」
「ふむ…えーっと…君が、ヘリオス君かね」
「はい」
挨拶をすると部屋の中央の椅子へと招かれる。
「じゃあ、検査をはじめるよ」




