01 始まり
古い記憶。
彼方の悪夢。
もう過ぎた、終わった、壊れた、もの。
燃え盛る火柱に全身が焼かれ、無防備な肌は業火にさらされる。
渇いた喉を潤したい。
痛みに負けて大声で叫びたい。
楽になりたい。
逃げ出したいが、自分を囲む………いや、自分から噴き出す炎によって逃げ場は無い。
せめて、この被害が自分だけで終わればよいと、諦めの中でちっぽけな痩せ我慢の正義感が小さく幼い身体を奮いたたせる。
不思議な感覚だ…。
何もかにも達観したような……。
「─────」
夢の終わりが来た。
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「おーい起きろーヘリオス」
「うぅ…ん…朝…?」
聞き慣れた親父の声に目を開ける。周囲の暗さと肌寒さに耐えられず縮こまる。
「夜明け前だが、そろそろ着くから起こしたんだよ」
ガタガタと横になった自分の体を揺らす振動に不快感を覚えながら身を起こす。
冷え切った頭に血液が回り熱を持つと急速に思考がクリアになっていく。
「っくぅ~身体に悪いな…馬車は」
「ハハッ!良く寝てやがって!夜通し起きてた俺の身になってみやがれ!」
「さむさむ…親父、火とか無い?」
「馬車で火事を起こす気か、我慢しろ…にしても、良く寝れるなこんなところで」
腰を捻るとバキバキと骨が鳴り、首を傾げるとゴリゴリと音をたてる。
御者をしている親父へと視線を向けながら「あとどれぐらいで着く」かと聞いて「夜明けと共に」と返される。
遠くの空が赤く色付いて見え始める。
装備を整え、軽食に用意していた干し肉を齧る。強いしょっぱさが口に広がり、肉々しい匂いが鼻を刺激する。
齧りつくたびに唾液が溢れてくるのがわかるほどに味の染みった干し肉に、製作者には感謝状を作りたくなる程である。
やがて巨大な石造りの壁が見えてきた。関所にて兵士が守る、我らの目的地である。
親父が兵士と会話している中、門から先に見える街並みの様子を見ていると後方から話し声が聞こえる。
後ろに並んでいた商人らしく、どうやら近頃街道の治安が悪くなっただの、そろそろ祭りがあるので人の往来が激しいだのと聞こえてくる。
「たく…随分と待たされたな…」
何かがあったのか頭を掻きながら戻ってきた親父に何があったのか尋ねてみたが、門番の兵士が人手不足らしく時間がかかったのだと。
そのまま街に入り、暫くして馬車が止まる。
「到着だ」と親父が呟くと広大な塀と鉄の門があった。
「また門かよ」の言葉を飲み込みながら、荷物をまとめていたら声をかけられた。
「お待ちしておりましたぞ、アーサー殿!」
「おお、グスタフ!久しぶりだな」
アーサーとは親父の名前で、親父の反応から知り合い…それもかなり信頼している部類の人間なのだろうことがわかった。
「お久しぶりでございます!」
「おうよ、…そうだ会うのは初めてだったか?俺の倅だ」
「うす」
頭のテッペンに強い衝撃を受ける。
涙目になりながら睨み上げる。
「教えただろ?しっかりやれ」
「…ハジメマシテ、グスタフ殿。ワタクシの名前はヘリオスとモウシマス」
「ハハハ!まったくアーサー殿そっくりですな!」
「似てねぇーよ」
グスタフさんは笑いながら手を差し伸べる。
「これからよろしく、ヘリオス殿」
「殿は不要です、グスタフ殿」
「なればこちらも殿は不要ですぞ」
「はい、グスタフさん」
「んじゃ、挨拶も済んだことだ…荷物は部屋に放り込んだら一杯やるぞ!」
「おお!良いですな」
「えぇ…」
「そう、嫌そうな顔をするなよ…今度いつ会えるかわかったもんじゃないんだからよ」
「アーサー殿は王都に残らないのですか?」
「生きと帰りで休みは終わりだよ…それに北部の要塞に続く道はそろそろ閉まる時期だ」
「そうでしたか…」
「ヘリオス、手伝ってやるからちゃっちゃか運ぶぞ」
「はいはい」
そしてその後、俺と親父殿そしてグスタフさんと3人は別れと再会を祈ってのささやかな食事会を行った。
ここは、ドラグネル王国。
そして、本日から新たな騎士見習いとして入団する男の名はヘリオス、後に陽光の盾と呼ばれる男である
。




