⭕ 危険な子 9
それからもチックが教えてくれる場所を私が声に出して、イケメンな人が代わりに白石を置いてくれる前代未聞の共同作業(?)が続く。
盤上を見ても相手が優勢なのか私が優勢なのか全く分からない。
心無しかイケメンな人と対局相手の表情が険しそうに見える。
イケメンな人
「( 有り得ない…………。
相手に与えた12子分のハンデが盤上から消えてしまった。
12子分のハンデを取り返した!?
それに……これは指導碁じゃないか!
実に見事な指導碁だ………まるで遥か高見から盤上を見ているかの様な──。
この子、囲碁を打った経験の無い初心者の筈じゃ──。
莢棊君も気付いている。
今の彼の棋力では彼女には勝てない事を──。
この子は何者なんだ!? )」
莢棊
「( ──は?
どういう事だよ!?
確かに俺が優勢だった筈だろ!
置き石の12子分が無くなった!?
どうなってるんだよ!
何で俺は囲碁のルールも知らないド素人に指導碁を打たれてるんだ!!
こんな屈辱を味わされるなんて──初めてだ!!
院生にもこんな打ち方する奴なんて居ないぞ!!
クソッ──ド素人に指導碁を打たれて負けるなんてカッコ悪過ぎるだろ!!
こんな事、知られたら院生の恥晒しとして笑い者だぞ! )」
舘嵜春加
「 11ー6 」
イケメンな人
「( この子の棋力は間違いなくプロ棋士並みだ!
院生を軽くいなせるだけの棋力の持ち主だ!!
原石の状態で、これ程とは──。
彼女なら本因坊須和荼と対等な対局が出来るかも知れない!!
いや、対等じゃないな──本因坊須和荼にとって脅威の棋士となる!! )」
莢棊
「 クソッ──こんな馬鹿な事が──!!
認めるかよ!! 」
………………なんか勝手にヒートアップしてる??
あんなに必死に黒石を打つなんて──。
これ、いつ終わるのかな?
妖精チック
〔 そろそろ、トドメを刺そっか。
潔く、キュッと息の根を止めてあげよう。
ボクって優しいよねぇ~~ 〕
舘嵜春加
「( 本当に優しい奴は、自分で自分の事を “ 優しい ” って言わないけどね )」
妖精チック
〔 あははっ★
態々指導碁で息の根を止めてあげるんだよ。
十分に優しいよぉ~~ 〕
舘嵜春加
「( 指導碁?
初心者が上手く打てる様に盤上で導くってヤツ? )」
妖精チック
〔 そうだよ。
ド素人で無名な春加に院生レベルのイキッテる中坊が12子分のハンデを取り返されて、プロ棋士も顔負けの指導碁で負けるのさ!
鼻をへし折る所じゃないねぇ~~。
プライドが粉々に砕け散って自信を失っちゃうかもだねぇ~~。
あははっ 〕
舘嵜春加
「( チックったら、性悪だね )」
妖精チック
〔 褒め言葉だよぉ~~。
じゃあ、トドメを刺すよ! 〕
舘嵜春加
「 17ー12 」
イケメンな人
「 17ー12だね。
( 終わった。
莢棊君の負けだ……。
ここ迄良く粘ったな…… )」
莢棊
「 ──っ!
ふざけるなっ!!
こんなの……こんなの……無効だ!! 」
イケメンな人
「 莢棊君!? 」
対局相手は椅子から立ち上がると物凄い形相で私を睨んでいる。
掴み掛かられて殴られそうな勢いね。
何で怒ってるの??
莢棊
「 俺はっ、県大会で優勝した棋力を持ってるんだぞ!!
院生の中でも中の上なんだ!
天才なんだよ、俺はぁ!
その天才が、囲碁が初めてのド素人に指導碁されて負けるだと!
こんな事、あって堪るかよ!! 」
イケメンな人
「 莢棊君、落ち着いて! 」
舘嵜春加
「 へぇ?
君、院生なんだ?
中の上なの??
その程度で “ 天才 ” だってイキッテたんだ?
ふぅん?
そりゃ、囲碁未経験者でド素人の私に負けても仕方無いよねぇ。
“ 舐めプ ” って言うの?
その癖は直した方が良いかもね? 」
莢棊
「 ──くっ!!
もう一局だ!
次は俺が勝つ!! 」
舘嵜春加
「( チック、どうするの?
まだ打ちたいみたいだけど )」
妖精チック
〔 良いよ、良いよ。
打ってあげるよぉ~~。
次は置き石無しだよ。
2人の仇は討てたからねぇ~~ 〕
舘嵜春加
「( 分かった )
別に良いけど、もう置き石は無いよ。
姉さんと暘子さんの仇は討てたからね。
私は後手の白番で良いからね 」
莢棊
「 次こそは、お前を負かせてやる!! 」
莢棊
「 …………あ…ありません…… 」
舘嵜春加
「 また私の勝ちだね。
今ので8勝かな?
もう良いんじゃない?
8回も負けたら十分でしょ? 」
イケメンな人
「( 本因坊秀策──いや、それ以上だ!!
8勝とも素晴らしい指導碁だった……。
莢棊君を軽く捻ってあしらっている──。
遊び心を含んだ指導碁だ……。
こんな指導碁は見た事が無い──。
記録しといて良かった!! )」
莢棊
「 ………………何で……何で…………全部っ、指導碁なんだよっ!! 」
舘嵜春加
「 何でって──、“ 弱いから ” でしょ。
もう自覚したら?
中の上で満足しきって舐めプする程度の奴なんかに負ける訳ないじゃないの。
院生の頂点に立てたら、指導碁から卒業も出来るんじゃないのぉ?
私に構ってないで、院生の頂点でも目指したら? 」
莢棊
「 …………ちくしょうっ!!
棋力を上げて、お前を負かしに来るから首を洗って待ってろ!! 」
対局相手は椅子から立ち上がると両目に涙を溜めて去って行った。
泣く程悔しかったの??
まぁ、初心者に8回も負けたら泣いちゃうかも?
舘嵜春加
「( チック、有り難う。
姉さんの汚名(?)を返上出来たよ )」
妖精チック
〔 こんなの御安い御用さ★ 〕
舘嵜春加
「 姉さん、暘子さん──、対局相手は泣きながら去ってったよ。
これで満足してくれた? 」
廼衙靉子
「 春加…………アンタ、本当に私の春加なの? 」
舘嵜春加
「 はぁ?
嫌がる妹に拒否権無しの強制囲碁勝負をさせといて、言う事がそれ?
姉の代わりに嫌々頑張った妹に労いの言葉も無いの? 」
廼衙靉子
「 だって──、アンタ……自分が何したのか分かってんの? 」
舘嵜春加
「 姉さんと暘子さんの代わりに囲碁勝負して勝ったけど?
それが何? 」
廼衙靉子
「 素人の勝ち方じゃないよ!!
全部、プロ棋士の打ち方だよ!
ううん……下手したらプロ棋士より強いかも──。
アンタ、本因坊秀策の生まれ変わりじゃないよね?? 」
舘嵜春加
「 …………何言ってんの?
そんな訳ないでしょ。
仮に…その本因坊秀策だったら、姉さんより早く囲碁を始めてるんじゃないの?
私は初めから囲碁なんて興味無いよ 」
廼衙靉子
「 榁圖先生!
春加を院生にしてください!
春加は囲碁を打つ為に生まれて来た子です!!
春加は囲碁界に新風を巻き起こしてくれる子です!
現代の本因坊秀策になる子です!!
間違いありませんっ!! 」
舘嵜春加
「 はぁ?
一寸姉さん!?
何言ってんの?
勝手に決めないでよ!
私、囲碁に人生を捧げるなんて嫌だからね! 」
廼衙靉子
「 駄目よ!
春加──、プロ棋士になって、囲碁界のトップ──本因坊須和荼から、“ 本因坊 ” を勝ち取るのよ!!
春加なら出来るわ 」
舘嵜春加
「 勝手過ぎるでしょ! 」
廼衙靉子
「 お父さん,お母さんには、私から話すから!
お姉ちゃん、春加の専属マネージャーとして頑張るからね!
囲碁界に新風を巻き起こして、下剋上するわよ!! 」
舘嵜春加
「 げ…下剋上って…… 」
妖精チック
〔 駄目なスイッチ入っちゃったね~~。
張り切り過ぎちゃったみたいだね。
めんごぉ~~春加ぁ♥️ 〕
舘嵜春加
「( “ 悪い ” って思ってないでしょ~~ )」
妖精チック
〔 テヘペロ♥️ 〕
舘嵜春加
「 《 囲碁サロン 》に寄らないで真っ直ぐ《 家 》に帰れば良かった…… 」
姉さんはイケメンな人から棋譜を記録した用紙のコピーを貰っている。
まさか、父さんと母さんに見せるつもりなんじゃ──。
《 囲碁教室 》になんて通いたくないのにぃ~~~~!!