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03

あの御方があの方を探す為にこの地を去られてから、一体、幾星霜のときが流れたことだろうか……


我ら原初の民は 一人、また一人、永きときの末に確実にその命を失い、或いは次代の民に身を窶し、今ではお互いに生きているのかすらも分からない


いつかお二方がお戻りになられることを夢見て、その笑顔を夢想して

せめて少しでもお役に立ちたいと、あの御方の邪魔をさせぬよう密かに蠢く日々


今までは些々たる身なれど、なんとか障礙の芽は摘んできた

女神の召還は過去何度も試みられてきたことだ、それがたとえ女神召還など到底無理であろう程に児戯の如く拙いものでも、時に魔法陣を書き換え、時に咒具を破壊し、時に術者を葬り、何度も、何度も、名を変え、姿を偽り、そうやって摘み取ってきた



……だが、あの男



レヴァルヴム=ユンファイエンス

悪神の申し子セレスセラスの秘蔵っ子


奴の組んだ陣は過度な細密さと執拗さでいくら意図的に欠損を加えても全体を機能不全に陥らせることができない

何度も、何度も、女神を呼び戻す、その目的だけを様々なアプローチで執拗に繰り返す


あの一見黒く塗り潰されたかのような陣の大半は、一つの目的を何千何万通りの咒言で定めている

咒言の全てを理解することは不可能だが凡そ全ての咒言に"女神"を示すか暗喩もしくは連想させるものが含まれていることを考慮すれば、恐らく残りもそうである可能性は非常に高い


たとえ何らかの不測の事態が起こり、どこへ呼び戻すだとか、周囲の環境に与える影響面の配慮であるといった細やかな部位が上手く機能せず大半の設定が損なわれたとしても、女神を呼び戻すという要の部分だけは果たされるだろう


その上、配られたあの咒具、中を覗き見て判断したところ たとえ自分の分の咒具を改変しても、他の者が所持する咒具の影響ですぐに陣の改変箇所は修正されてしまうことが判った


そして咒具に改変を加えれば、恐らくすぐさまその情報は奴に伝わる、これは今回集められた魔導師全員が知っていることだろう

何せ魔導師は職業柄 疑問や未知を目の前に調べずにはいられない

中を覗き見たことすら既に伝わっているだろうが、魔導師連中の中では悪目立ちすることはないだろう、寧ろ覗かない方が逆に目立つ


この状況で出来る事と言えば、可能な限り陣の完成を遅らせること、……もしくは術者を殺すことだ


陣に対し干渉できないのならば術の起点となる条件の方を、と考えたとしても、術の要である"強制的に女神を心象させる"という条件は防ぎようがない

たとえ強制力が無かったとしても思考というのは大半が無意識のものだ、意識して考えないようにするという段階で既に意識している、それに忠告をしようにも自分以外の原初の民がどこにいるのかも不明なのだから手の打ちようがない


そもそも強制力が掛かるので忠告はするだけ無駄だろう


この方面で防ごうと考えるなら、同胞であろうと自分諸共殺す必要が出てくる

だが、どこにいるのかも分からない同胞をどうやって探すというのか


全世界に向けて こういう理由だから自害しろとでも触れ回るのか、馬鹿馬鹿しい

そんなことを言われて一体誰が信じる、そんな胡散臭い文言を真に受けて自害する奴は底抜けの阿呆だ

それにそんな馬鹿なことを触れ回れば、どんなに鈍い者でも女神召還の邪魔をする者の存在に気付くだろう


それでも少しでも陣の完成を遅らせる為に集められた魔導師を数人ずつ纏まって行動するように誘導はしたが、既に奴一人で陣の三割以上は埋められてしまった

それ以降動きが無いということは、こちらは一人でここまで負担してやったのだから残りはそちらが負担しろ、という無言の意思表示だろう


地力が違いすぎて、思わず乾いた笑い声を上げてしまう


陣を改竄することも、同胞を探し出して殺すこともできない、陣を敷かせないよう咒具を奪っても他の魔導師を全て殺しても、結局は"奴"が残る


ユンファイエンスを殺すしかない


奴の居場所は分かっている

陣の完成度を表す咒具に表示されたそれぞれの位置は、こういった事態を予め想定していたのか、奴の位置は偽の情報が表示されるようになっているようだが、眷属を使って場所は探らせている

奴の塒はまだ分からないが、食料調達の為には街中に出てくるようだ


……だが、どうやって殺す?


アレを、殺せるのか?


できると言う者がいるのなら是非手本を見せてもらいたいものだが、悪態を吐いてもそれで事がどうにかなるものでもない


なんとか少しでも突破口を見つけねば……

あの御方の願いを阻害する者を排除せねば……


そんな思いで、こちらの存在に気付かせない為、咒具を持たず姿を変え、眷属の報告のあった街へ様子を探りに行った時だった



『あの方だ……』



その、姿に

胸が詰り、瞬きすらできなくなる……


近付くことはできなくとも、種として特出するこの眼にはっきりと映る

何故か御姿は変わってしまわれておられるが、懐かしくもお優しいあの眼差し


どうして忘れることができよう、どうして見間違えることができよう

何度も、何度も、あの頃に還れたらと、幾度夢見たことか


我らを慈しんで下さったあの眼差しを……それなのに



『なぜ……』



なぜ、その男の傍にいるのですか

なぜだ、なぜ、なぜ、どうして


あの御方がお許しになる筈が無い



『あぁ……みやこさま……』



――おすくいしなければ

次回更新は日曜の同じ時間です

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