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05

お久しぶりです、またも間が凄まじいことに…っ!!

ユンファイエンスはうっとりと その幸せそうな寝顔を穴が空くかと思うほど凝視した

昼間は何時もは振りっぱなしの尾も就寝時にはぐっと堪えて大人しくさせ、彼女を冷やしてしまわないようにそっと覆い被せている


財布を気にする都子に同調するようにかこつけて、出会ってから二週間 夜は天幕で共に寝て朝は起きたら薬草や山菜の採取、彼女の財布にも自分の欲望にも優しい


しかし睡眠は不足していた


身体は横にしているだけでそれなりに休めてはいるが、厳密にはこの二週間一睡もしていない

うとうとと半分意識が眠るような状態であっても、瞬き以外は眼はしっかりと都子の姿に固定されている


肉体派の兄弟の影響で身体は丈夫な方なのが幸いして今のところ不都合は生じていないが

いくら異状を感じていなくても休んでおいた方がいいことは自分でも分かっている


けれど、彼女の出自がはっきりしない以上、長時間眼を離すのは些か不安を感じる

彼女の"突然離れ離れになって"という発言がそれを助長させていた


寝ている彼女を腕の中に囲ってしまえば、幾らか不安も和らぐのだろうが

ユンファイエンスはまだ移動以外で彼女を腕の中に抱き込めるような関係ではなく

起きている時ならば兎も角、無意識下においては彼女の許しなくして過度な接触はできない


口惜しいことに、そこは充分に弁えている


起きている時であれば、相手には大なり小なりの意志があり、そぐわなければ拒否もするだろう

だが、意識がなく拒否できない状態において

尊重したい、縁を結びたい、大切にしたいと思う相手の意思を可能な限り無視してはならない

面と向かってそう教わったわけではないが、年長の家族の遣り取りをみて強くそう刷り込まれている


…が、逆を言えば、相手に意識がある状態で相手に拒絶感を抱かせなければ大抵のことは可能というわけだ


だからユンファイエンス達レヴァルヴムの男は自覚は無いが強引で口が上手い

兄弟は父母や兄達の遣り取りでそれを学び、そうして望んだ女性に自分という存在を受け入れさせる

それが彼らの正道なのだ



"可能な限り"相手の意思を無視せず、"自分と相手にとってのみ"誠実に誠意を持って接する



都子がこうして今、なんの警戒心もなく夫でも恋人でもない自分の隣に安心して眠っているのもそうした誠意の結果による

彼女と理ない仲になる可能性は充分に有り得る…しかし



(正直なところ、わたしは世間的に見て外見は頼りなく

 王道をいくような凛々しい顔で筋骨隆々の逞しい英雄的色男というわけではありません)



彼女がどの種族なのかいまいち判然としないが、大抵の種族で好まれる男というのは全体的に大きくがっしりとした、有り体に言えば背が高く逞しい筋肉を備えた体躯に鋭い爪や牙

あるいは大きくて形の整った角を持つのが好ましいとされている

さらにルルヴィスかアヴァニスならば言うことは無い



(その点、わたしは…)



ルルヴィスであるため条件はいい筈だが、幼児のような背丈の都子よりは高いとしても、平均的な女性よりも…

その上 細身で、自分では力はある方だとは思っているが目に見えて逞しいような筋肉も持ち合わせておらず、爪と牙は体格に分相応にといったところ

猫科の種のように自由に出し入れできない爪に関しては、彼女と出逢ってから疵付けない為に丸く短く整えるよう気をつけているので武器としても多少劣るが、都子を守るためだと思えばコレに関しては一切苦ではない


顔に関しては女性の方から寄ってくることがあるので、悪くはないのだろうという認識だ、……が



(結局選ばれる男というのは健康で力ある者ですからね

 それに比べて、わたしは魔導師です、

 自分なりに究めていますし頭脳派といえば聞こえはいいですが、

 やはり世の中の主な理想というわけではありません)



彼は忘れたつもりで意図的に思い出さないようにしているが、出逢った当初 都子はユンファイエンスの整った顔立ちに拒否反応を示している

彼女の顔色から察するに嫌悪感ではなさそうだが何らかの危機感は感じているようだった

これについては、気を抜いている風を装って、ちょくちょく本来の顔を晒すことで少しずつ慣れさせているところだ、最近はその甲斐もあってあまり驚かれなくなってきており、元の姿を見せる頻度も徐々に上げている…が、



(もしも彼女に受け入れてもらえなかったら……監禁でもしてしまいましょうか)



思考は危険な方向に傾きつつあった、因みに睡眠不足による影響ではない



(大抵はどの種でも伴侶を選ぶ権利は女性にありますが、

 わたし以外の男がいなければわたしを選ぶしかありませんからね

 彼女の発情期に他に男に会わせなければ、彼女に合わせて発情できるのはわたしだけです

 あぁぁ、彼女はいつ発情するのでしょうか…)



何度考えても悔やまれる、あと一週間都子と出逢うのが早ければ現在の彼女は確実に自身の腕の中だっただろうに

しかし、生理というのは、有る種でも多くて年二回…



(年二回……)



貴重な二回のうち一回は終わってしまった…次は半年後あたりだろうか

先は遠い、待ち遠しい、じれったい

しかし都子の現状、彼との付き合いの短さ、それら総てが愛を告げるには時期尚早を示している

もう暫くこの現状が続くのなら、彼女の認識が単なる馴れ合いにならないうちに心を此方へ向ける為に今のこのささやかなアプローチを本格的なものにして動くことになるだろう


なかなか脈が見えてこない時、奥の手として相手の意思を無視する場合

嫌悪を抱かせず、疑いを持たせず、盲目的な愛情と信頼を刷り込み

そして事後でも承諾させることを至上命題とする



古くから彼らに縁のある者達は、

この段階に進んだ彼らのこれを正道に対し敢えて横道と呼ばず外道と呼ぶ



彼女に監禁されていると悟らせずに世の中から隔離するにはどんな手段がいいだろうか

物騒な方向に思考が傾き始めた時だった



『…ん、ぅぅ~っ』



目が覚め始めた都子がもそりと動き、ごろんとうつ伏せになるとぐりぐりと額を敷布がわりの毛皮に擦り付けはじめた

毎朝のこの瞬間は、都子の様子がかわいらしくもあり、毛皮が憎くて焼き払ってしまいたくもなる

しかし、そこをぐっと我慢してユンファイエンスは都子が完全に覚醒する前にそっと目を瞑る

彼女は彼を起こしてしまわないよう気遣って、そっと寝具から抜け出していくのだ

ユンファイエンスを起こさず無事抜け出した達成感から"ふぅ"と満足そうな息をつく様子もまた微笑ましい

その上、彼を気遣って都子の毛布まで掛けてくれるのだ、嬉しさのあまり飛び掛って貪り喰ってしまいたい程だが、折角の彼女の好意を無駄にしたくはない


着替えを持った彼女がそっと天幕を出て行くと、彼は目を開け外の気配を仔細漏らさぬようじっと探れば、身支度が整ったのか朝食の仕度にちょこまかとあっちへこっちへ動く様子が外界と隔離された天幕の中にあっても伝わってくる

都子が彼の作った調理器具で甲斐甲斐しく自分の為に手料理を作っていると思うと、新婚家庭のようでとても悦に入った

できれば直にその姿を目にしたいが、彼女は奥ゆかしく恥ずかしがり屋のようでもあるので、緊張を強いたくはない


毎日がじっと我慢のユンファイエンスであった






暫くして朝食の仕度も整ったのか天幕に近寄ってくる気配に、彼はまた目を閉じた

天幕の合わせ目からそっと顔を覗かせた彼女は、すぐにユンファイエンスに声を掛けるでもなく

毎朝、まるで何かを訴えるかのように彼を暫し見つめる都子


しかし、彼女はその何かを彼に吐露することはなく


それまでの空気を払拭するかのような明るさを装ってユンファイエンスの目覚めを促すのだ



『あ、朝だよー』



何か悩みがあるのか、自分には話せないことなのか

彼女の力になりたい、もっと自分を頼って欲しい…と思いながらも



『もしもーしっ 朝だよー、起きてー』



少しずつ警戒を緩める小動物のように徐々に近づきつつも声を掛け



『……はぁ

 ユンー、ユ~ン~っあーさーだーよーっ』



最後にはそっと羽が触れるように控えめに肩をゆすってくるその可愛らしさに

ついつい眠った振りを続けてしまう



『…ぅぅ、はい、おはようございます都子さん』


『おはよう、朝ご飯の用意できてるよ』



最初の頃のように極度に照れてうろたえることも少なくなり、朝の抱擁を当然のことのように受け入れてくれる彼女の柔らかな声と共に促されるように渡されたタオルを受け取る

それでも抑えきれないというような気恥ずかしさを滲ませつつもそそくさと天幕を出て行く都子の後ろ姿にむずむずしつつ手早く身繕いを終え、食卓に着いた



『今朝も美味しそうですね』


『あ、うん、簡単なものだけどね』


『いいえ、いつも美味しく頂いていますよ、毎日の楽しみの一つです』


『そう?、ありがとう』



お世辞抜きに料理上手な彼女は、彼からの賛辞にほのかに頬を染めるも気にしていない素振りを装いつつ配膳した食事を勧めてくる

作ってくれる食事の数々はとても多彩な上に、主菜に副菜、炊きたての米も具沢山の味噌汁もユンファイエンスの嗜好によく合い、そういった面でも彼と都子はとても相性が良いと思えた


フェルベの包み焼きから綺麗に骨を取り外し、彼女の分を取り皿に分けると、都子はありがとう と食事を始める


その食事の最中にも、彼を起こす直前の時のように、何か思うところがあるのかちらりちらりと視線を感じた



(…後でさり気なく水を向けてみましょう

 都子さんが心の内を打ち明けて下さればいいのですが…)



とても満足のいく朝食の後、汚れ物や天幕、荷物を二人で片付け、彼女の財政潤沢の為 毎朝の採取を終えてから二人は野営地からすぐ近くの街に向かった






「ぁにょ、こにょひちょらちをちりましぇんか?」



彼が作った都子の家族の姿が映写される魔具を見せつつ尋ねる姿を見守る

彼女は聞き込みを二手に分かれて行いたそうにしていたが、一見幼いルルヴィスの彼女を一人で行動させるのはとても危険だ

空から降りてきた子供は地方は兎も角 都市部では一度施設に集められ、そこへ子供を求める大人が申し込む決まりになっているが、子供を得られるのは成人まで問題なく養育できるだけの経済状態と人格的な問題や育成環境に問題のない者だけだ


養子縁組は金があればいいというものではない


不正を見逃さない為に、このような問題は垂れ込みに賞金を出すことで露見し易くしている

いくら周囲の口を金で塞いでも、更なる金を得たい者はそっと耳打ちをしてくるだろう

こうして僅かにでも子供が不幸な道を歩まぬよう気を使うのだ


だが、すでに養子縁組の済んでいる子供でも、気に入れば浚ってしまうという問題はある

正規に子供を得られなかった金持ちに売りつける為に、子供を浚う者がいることもまた事実

特に、見目の整ったルルヴィスやアヴァニスはそういった対象になり易かった


いくら声高らかに女神への敬虔さを謳い保身として各々が殺しを自戒しているとしても、決して子供にとって安全な世の中とは言えない

だからこの魔具には一定時間後に見たことやそれに関連する記憶を忘れる術も組み込んである

日常の買い物程度の接触なら兎も角、人探しなど記憶に残り易いものは消しておくほうが安全だ


などと高尚なことを考えつつも、舌っ足らずな都子の様子に身悶えし

相手が女性や高齢者ならば彼女に聞き込みを許可するが、若い男の場合は絶対に都子の視界に彼らを入れようとはしないユンファイエンスであった



『元気を出してください都子さん』


『うん…』



結局その日も彼女の家族に関する有力な情報…というか有力も何も一切の収穫はなく

落ち込む彼女を慰めつつも、魔法陣を展開する


気持ちが沈む時は旨い食事が効果的だ

空腹が満たされることで、不安定な気分も多少は落ち着けてくれる


それに買い物をしたりして楽しい時間を過ごすのが一番

一応、今回もEx含め四話用意してますので、前回と違って一日で書き上がってる分を全部…とかではないんですが

予約投稿で従来通りに表裏タイミングを合わせてぼちぼち上げていきます

次は四日後の同じ時間です


次回、ついに…!!

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