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03

「「「オォォォオオオオオオオッッ!!」」」


『ひゃっ?!』



通路に響き渡る歓声に驚いたのか、都子はびくっと竦み上がる



『あぁ盛況ですね、普段は修練や教育に使われているはずですが……

 このあたりは今日が月一の闘技会なんですね』


『と、とうぎかい?』


『都子さんの住んでいたところではありませんでしたか?』


『う、うん、なかった、です』


『そうでしたか、闘技会は月に一度4~5日掛けて

 少し大きな街ならばどこでも開催されています

 闘技場自体は大小の差はあれど、どこにでもありますが

 闘技会は人が集まるのでそれなりの大きな闘技場が必要ですから

 草食種は兎も角として肉食種はこういう機会を設けないと鬱積が溜まりますからね』



ユンファイエンスの説明にこくこくと頷く都子はしかし、観覧席通路に出た途端、目を焼くような光と共にまたも襲い来るような野次や罵声に身を竦ませた



『ユ、ユンも?』


『わたしも…とは闘技会のことですか?』


『う、うん、そう、あの、ひゃぁう!

 ごめんあの!、…く、苦しかった?』


『…いいえ、大丈夫ですよ』



闘技中の苦悶の叫び声にまたもビクリと身を竦ませ、ぷるぷると怯えるように首に縋り付いて来る都子にむらむらと、いや、うっとりとしつつも我を忘れないよう、精神統一をするかのごとく彼は彼女の疑問に冷静に丁寧に答えていく



『そうですね…わたしは確かに肉食種ではありますがルルヴィスですし、

 元々ルルヴィスは全体的にそういった衝動が弱いようですが、

 特に我が家、レヴァルヴムの者はそういった衝動は殆どないようです

 だから我が家の者は魔導に向いているのでしょう』


『んー…えっと、学者肌ってこと?』


『ええ』



どうも彼女は争いごとが苦手のようだ、怯えられてしまわないよう、より一層気をつけなければ



(…は!、すると闘技場での昼食は印象が悪いのでは……っ?!

 しかし、来たばかりで突然ここを出ようと提案するのも……)



落ち着きの無い男は頼り甲斐がないと判断されてもおかしくない

暫し考えたユンファイエンスは、滝に近いお陰で水音が激しく、手洗い場に近い席を選び近づいて行った

彼女の聴力では水音が大きければ罵声も喧騒も聞き取り難くなる筈だろうし こちらから話しかける際に大きな声を出せば済む、それに都子の身体の状態を考えれば手洗い場が近い方が良い

更に身体を冷やさないよう周囲の空気を温めてやれば上々だ


席には柄の悪そうな男達がいたが、テーブルの上の皿を見ればあらかた食事は済んでいるようであるし、激しい水音のせいで都子には聞こえないようだが、耳の良いユンファイエンスには彼らの会話が聞こえていた


すっかり飲んだくれて、ろくな会話も成立していない

大事な話でもなさそうだ、ユンファイエンスは遠慮なく男達をじっと凝視する


じっと……


じっと、そう、飼い馴らされた愚鈍な家畜でも怯えるような、得体の知れない恐怖を混ぜて射殺すように



「「「ひぎぃぃぃいいいいいいいイ゛イ゛イ゛ッ!!」」」



一瞬で酔いが醒めたのか、男達は耳に煩わしい叫び声を上げて転げるように逃げていった

その様子に抱き上げた都子は、固まったように動かなくなり走り去った男達の方を見て瞬きもしない



『あ、えー…と? 食器…置いてっちゃったけど……』


『大丈夫ですよ、あの食器はわたし達が入った店の二軒隣のものですから

 あの店は客層が悪いので値段は食器の回収代込み、場合によっては食器代込みです』


『え、あ、へ、へぇー……』



ユンファイエンスは荷物を椅子の一つに置き、手早くテーブルを片付けて自分達の食事を広げると一つ隣の椅子の背凭れを展開してそこに都子をそっと降ろし、自分もその隣に腰を下ろした

それから彼女の定食の肉を、彼女の小さな口に合わせて薄く削ぎ、更に小さく切り分ける



『都子さんには硬かったようですね、この位の厚みなら食べ易い筈です』


『あ、ありがとうユン、いただきます』


『はい、わたしもいただきますね』



食事を介助してもらうことで、子ども扱いされていると感じるのか、彼女はややぎこちなく食事を始めたが、すぐに笑顔になり



『凄く美味しい! ユン、ありがとうっ』


『いいえ、都子さんに喜んでいただけで良かったです』



食事以外一切見えていないような様子で、あぐあぐと一生懸命、その小さな口に食べ物を頬張っているのを見ると……



ごくり。



(あぁぁ、あんなに小さく柔らかそうな舌が見え隠れ

 わたしの舌など彼女の小さな口の中にはとても入りきりそうにありません……は!)



無意識に考えた彼は、はっと正気に返り、別の欲求を満たすことで満足させるようにスプーンで流し込むかのごとく食事に集中することにした

…が、咀嚼もせずに飲むように食べるユンファイエンスは、物を食べた気がしなかった

アヴァニスの姿での食事に慣れていない為、溢したら恥だと思い雑炊を頼んだが、だからといって咀嚼もせずに飲み込むのはどうにも不快だ



(…食べた気がしません、

 …やはり早く都子さんにルルヴィスのわたしに慣れていただかなければ)



ついには、一気飲みをするかのごとく雑炊を飲み干した彼は、しかし掃いきれなかった雑念に負け、都子の方を見た

だが、一生懸命食べていた姿は一転して手が止まっている



『都子さん? もう食べないのですか?』


『ん、あの、もうお腹いっぱいで…ごめんね折角のオススメなのに』



ユンファイエンスは驚いた、彼女よりも一回り体格の小さな幼児でさえこの程度の量なら食べきることができる

それを都子は、殆ど味見をしただけと言っても過言ではない程度しか食べていない


こんなに小食で生きていけるのでしょうか、いえ、小食だからこそ彼女は成人してもこのように小さな体格なのでしょうか…

では特に小食というわけでもないわたしは何故大きくなれなか…こんなに早く満腹になってしまうのなら瞬きもせずに都子さんを見ているべきでした


危うく自身のナイーブな部分に思考を持っていきそうになったユンファイエンスは慌てて思考を都子に捻じ曲げた



『あの、これお持ち帰りできるような入れ物ないかな?』


『お持ち帰り…ですか?』


『うん、勿体無いから、今夜の晩御飯と明日の朝ご飯になるかなって』


『そうですねぇ…保存に適した魔術もありますが、やはり出来立てが美味しいですよ

 よければ、それはわたしが全部食べてしまいますが』


『えっ、そんなに食べてお腹大丈夫?』



確かに、小食の都子からすれば、これ以上食べられるのか疑問だろう

しかし、彼は特に必要性を感じない為に食事量を一般成人並に抑えているだけで、食べようと思えば少なくとも標準的な成人男性の五倍は軽く平らげるし、必要とあれば何でも食べる


……そう、"何でも"



『大丈夫です、多く食べても特に差はありません

 それにわたしは悪食ですから胃袋もそれに見合って丈夫です』


『あくじき……?』


『はい、ですからお気になさらず

 食事は次から一人分頼んで二人で分けましょう

 その方が都子さんに丁度いい量を食べられます』


『え、でもユンの分が減っちゃうから、悪いし』


『悪いことなどありません、量もこのままでも構いませんが

 少ないと感じたなら一品増やせば済むことですから、遠慮しないで下さい』


『じゃ、じゃあメニューは順番に選んで、割り勘かもしくは交代で支払いね!』


『わりかん…とは?』


『え?、あ、えー…多分、お勘定を…割る…?』


『ああ、折半するんですね』


『う、うん、そう…え…せっぱん……?』



極僅かしか食べないのに、毎回折半も辛いだろう

どうやら彼女もその辺りは気になるようで、気まずそうにユンファイエンスの提案を辞退してくる


『あの、やっぱり自分の分は別に……』


「おぉいレリューの弟!」


『十回に一回程度都子さんにお勘定をお任せするのではどうでしょう?』


『えっ?』



突如聞こえた、覚えのある鬱陶しい呼び声に、ユンファイエンスは特に反応をせずに何事もないかのように都子と会話を続けつつ、声の主の周囲の水飛沫を使って光の屈折率を変え、更に音の振動に変化が加わるようにした

これによって大声を出そうが微かにしか聞こえない上に姿も見えなくなる

滝の轟音で完全にユンファイエンス以外の声が聞こえていない都子は、全く気付いていない



「おい、聞こえてんだろー? 無視すんなよ未来のお義兄様を~

 あれ? なんだそのちっこいの? いくらなんでも幼女趣味は不味いだろ

 尻尾振りっぱなしじゃねぇか、そんな姿初めて見たから初め人違いかと思ったわ はははっ

 あ、隣いいか? いいよな? いいと言え」


『では、今回はもう都子さんは支払っているので、一回先送りで六日後の昼食ですね』


『え、う、うん』


「ぎゃっ?!」



隣に立って覗き込むように近づいてきた顔の目頭をぐりっと音がしそうなほど強く摘んだ

疲れ目などで摘んで揉み解したりする部位だが、人体の中心は上から下まで急所にもなる、力いっぱい捻るように摘まれれば痛い

それこそ、持っていた食事の盆をテーブルの上に落としてしまうほど



『うわっ?!』


「いででいだいいだいいだいって離せ未来の義弟っ!!」


「煩いですね、他人の幸せに水を差さないで下さい

 今幸せなんです、邪魔をするなら斬り落としますよ」


「何を?! 何をだよおい!! まさかおまっ」


『え、な、なに? 何て言ったの??』


『精霊がちょっかいを出してきたんですよ

 害はありませんから気にすることはありません』


「ちょ、上手く聞き取れない俺に聞こえるように話せよ何を斬り落とすんだよぉぉおおお?!」


『う、うん?』



光の屈折率を変えたことで誰もいないように見えていたが、手を離れた食事が屈折率を変えられた範囲から出たことで、唐突に出現したように見えたのだろう

驚いて身を竦ませた都子に、ユンファイエンスは適当なことを言って注意を逸らさせ、突然現れた食事については有耶無耶にした



『え、えっと…あ、お、お手洗いに行ってこようと思うんだけど、場所知ってる?』


『お手洗いなら、後ろにありますよ

 果物の印が女性用です』


「おい、おーい、聞いてるか?、聞こえてるだろ、無視は俺の心が傷つくからやめろ」


『え、あ、こ、ここ? あ、じゃあ行って来るね、ごめんね食事中にっ』


『いいえ、気にしないで下さい』


『う、うん、じゃあちょっと席を外すね』


「お? 便所か? 女は男ほど長く我慢できないっていでででででで!!!

 いだいいだいいだいっていい加減離せごるァア゛!」



都子は恥ずかしそうに席を外すが、中に入ることができず苦戦していた

そんな姿を見て下品なことを言う男の目頭を更に捩る



『ああ、失念していました、そうですね…これを手に巻いて下さい

 後でちゃんとしたものを造りますから』


『え、う、うん、じゃ、じゃあ』


『はい』



補助系の咒言を書き綴った幅広の紐を都子に渡して彼女を送り出すと

ユンファイエンスは、やっと手を離してもらって痛みを和らげるように目頭をゆるく揉み込む男を見た



「で、動きはどうなりました」


「いや、お前、謝るくらいしろよ、ほんと可愛げがないな」


「わたしが可愛いなどという状態だった例が過去に一瞬でもありましたか?」


「ない」


「そうでしょうとも」



やはり食事は慣れた姿が一番とルルヴィスの姿に戻り、都子から受け取った食事を食べ始める



「魔術で姿を変えてたのかと思ったが、違うのか」


「えぇ、結局幼い頃に教わる調律と同じです、身体のバランスの話ですから」


「その調律ってのがどうも分からねーな」


「貴方は最初からルルヴィスですからね、

 それに我が家でもない限り、そういう教育はしないようですから」



結局、隣に座ると危ない、と向かいの席に座った男は自分も食事を摂り始めた

男はルルヴィスで、うねるような白銀の髪から黒く丸い耳が生え、眼と眉も黒くやや下がり気味

色気の漂う顔はルルヴィスであることに更に付加価値を付けていた

女が好みそうな容姿をしている為に、ユンファイエンスは男の姿を都子の視界に入れなかった



「まぁそんな教育を施してるなら

 お前ン家の人間がみんなアヴァニスかルルヴィスなのも納得だけどな

 というか、ホントにそんなこと可能なのか」


「ご自分の眼を信じるしかありませんね、…それで?」


「今も動揺は広がってるが、動きはねぇな……

 っつぅか、連絡通じないってどういうことだ」


「邪魔されたくありませんからね、連絡路は閉じてあります」


「さっきのチビか、人の趣味にとやかく言うのはどうかと思うが流石にアレは…睨むなよ!

 そんなに気に入ったんなら、丁度いいからここの闘技会出ればいいんじゃねーか?

 大抵の女は強い男が好きだろ」


「彼女は野蛮なことには恐怖を感じるようです

 それに闘技会の参加資格は二十歳からですよ」


「だってお前、とっくに成人…あぁ来年からね」



肉食種にしろ草食種にしろ ある程度大人と言える歳は15前後、この歳を迎えると成人とみなすが

ただでさえ人口が減り続けていることから、こういった催しは大抵の者の身体が完全に成熟しきる20歳からでないと参加してはいけないことになっている


完全に成熟していれば重症を負っても回復の可能性も高いというわけだ


戦わないのが一番ではあるが、肉食種の破壊衝動はそうそう押さえ込めるものでもない

定期的にでも発散させ、日常生活に支障をきたさないように予防するしかない



「それで、計画の始動から今日で七日、動揺ももうそれほどでもないでしょうし

 動きが無いというのもどの程度なのですか?」


「他国は知らねぇが俺が潜り込んでた城は年度別の人口と作物の収穫量の比較を始めている」


「想定の範囲内ですね、相変わらず城の増設や新たな城の建設の話は持ち上がっていませんか」


「ないな……」


「…他の城と同様ですか

 ならば自らの意思による建設ではない…ということになるのでしょうね」


「頭が痛ぇな、自分の意思じゃないとすれば、何故城を建てる」


「言葉通りですよ"自らの意思ではない"のです

 つまり、城を建てている時は、自らの意思は"無い"のですよ」


「あぁ?」



二人が話しているのは、先日ラ=カ・フィラーダ国で開かれた会議の中でも出た

城の建造に際した問題の話だ


女神に見捨てられ、慈悲を乞う意味でも争いや殺生を可能な限り押さえ込む、それが暗黙の規律

にも関わらず、城の成り立ちは矛盾している

この城の建造は特殊なことではない、どの城も他所のことは知らないだろうが、各国の主要な城は全てこの方法で建造されている

そして城の規模によって可能であれば、都市の病院は城内に設けられ、葬儀の為の施設まで備えている


命、命、命だ……


城には生と死が集められている



女神の不興を買ってまで何故そんなことをするのか、この期に及んで何故……



通信網が築かれたのを利用し、各国の反応を見るために城の秘密を知っていることや大地の許容量、そんな話を仄めかし鎌を掛け

念押しに数年内に子供が降りてこなくなると爆弾を落としてみたが


男の話では、反応は至って普通だ



秘密を知ることを理由に自分を口封じに殺す算段を始めるか、人口と子供の話で新たな城の建造計画が持ち上がるか、それとも事実確認に奔走するか


反応では白、口封じがなければ城の建造は自らの意思でないことが分かり

城の建造が計画されなければ、何故城が必要なのかその意味を知らないということになる



「じゃあ、城は"誰の意思"で"何の為に"建てられるんだ……?」



まさか女神が?、そう呟く男に、それではまた矛盾してしまいます、とユンファイエンスは返す



「誰の意思かはまだ何とも…しかし城を建てる意味なら大凡は」



男は青々とした竹のスティックにディップを絡め、ボリっと齧って続きを促す



「陣の構成から察するに、魂に鎖を繋ぐものでしょう」


「鎖?」


「鎖を付けられた魂は、肉体から開放されることで空に昇り"外"へ出ます」


「おい、外って何だ」



ユンファイエンスは、時折夢に見るもう一人の自分を思い返した

ただ空を眺め、己の無力を嘆き、憐れに夢想する、首と胴の分かたれた男


同じ魂を共有する"もう一人の自分"



恐らく、彼の存在する世界こそが"外"だろう



彼と違い、自分は見ることはできないが

恐らく、人が死ねば、彼が見たものと同じ様に淡く光るそれが身体から剥離しているはずだ


動物や植物を見ることで想像する、命の循環


しかし、自分達はその環からは大きく外れている

恐らく自分達が死んだ後の魂がそのまま新たな子供になるということではないだろう

もう一人の自分の記憶からすれば、魂は常に送り込まれていた筈だ

なのに、この世界の人口は女神のことを抜きにしても増えることはない


とすれば、外の世界へ跨いで循環している、と考えるのが妥当



すると、"鎖"が意味を持つ



「…いえ、結論には判断材料が足りません

 レリュー姉さんは」


「相変わらず恥ずかしがり屋で可愛い女だ、今ちょっと拗ねて家出してるから探してるとこだ」



ユンファイエンスの言葉を遮り、男はごそっと上着を捲りあげ脇腹の下部の塞がり掛けた傷跡を見せた

傷の幅と位置、姉の身長から考えて、どう見ても垂直に迷いなく刃物を刺された痕だ


相変わらず鬱陶しがられているらしい


粘着質に付き纏うこの男を振り切るため、姉は各地を転々としているし

足がつくことを危惧して、連絡手段も持たない


先日まではとある国に宿を借りていたようだ、ラ=カ・フィラーダ国で会議が開かれた時、鏡の向こうにこの男がいたのをユンファイエンスはしっかりと見ていた

姉がいるところにこの男あり、だから様子を聞いてみたのだが、姉は逃げた後だという



「しかしレリューの家出はちょうど良かった

 レヴァルヴムの看板息子のお前を目の当たりにしたからだろう、

 眉唾モンの"列国最高"が実話だと分かった途端レリューに繋ぎをとろうとしてきたからな

 まぁ既に家出した後だったが」


「俗物とはそんなものです」



どんなに この男に悩まされても、すぐに身元が知れるのを分かっていて両親の名と家名を名乗るのをやめない姉は根性があるのかないのか

こんな時彼は、下手に家族の絆が強すぎるのも逆に不憫に思う

別に自分の名前だけ名乗っていたとしても、事情は知っているのだから情が無いなどと騒ぐつもりは毛頭無いのに、彼女はとても不器用だ



「お前の一族は数が多いからな、お前ほどじゃなくても

 各分野に特化した上質な人員が500人から手に入ると思えば、喉から手も出る

 それにしても兄弟は多い方がいいと言うが、流石に多すぎだろ」


「両親は甲斐性がありますからね、上の兄弟が下の兄弟の面倒も見ますし……ッ?!」



会話を続けながらも最後の一口を飲み込んだユンファイエンスは重大な問題に気付いた



「お? どした??」



ぶるぶると小刻みに震わせるその手から、かつん、と箸が落ちる



「お、おいっ?」


「…ぁ…あぁぁ……っ」


「おい、どうしたっ」


「…貴方の所為で…あなたの…せいで……

 折角の間接キスを味わうこともなく食べきってしまったではありませんかァアアッ!!」


「ってヲイそれぇぇえええ!!」



あまりの激昂ぶりに、男は現状を把握することは出来なかったが

ユンファイエンスが殺ル気なのは理解した


微小な魔法陣が周囲の空間に展開されている、わりと命の危険を感じる密度で



びっしり



小さいからと侮るなかれ、男はこの小さな魔法陣の一つ一つにそれぞれ十分な殺傷力があることを知っている

呼吸しただけで肺の内に吸い込みそうな危険さえも感じさせる小さなソレに、思わず息を潜める


男はユンファイエンスの力量を完全に把握しているわけではないが、それでも実力の一端は知っている

わざわざ眼に見えるよう魔法陣を展開させなくとも、この程度のもの以上の攻撃力は容易く発揮することができる




それなのに


わざわざ


眼に


見えるように




つまり男は"お前を殺すぞ"と、わりと直接的な脅迫を受けているわけだ、現在進行形で

"もう一人の自分"は"あぁ、でも、いいゆめでした……"を参照して下さい

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