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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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調査報告書とハンバーグ



 窓から入るオレンジの光に報告書の読み辛さを感じ立ち上がり呪文を口にするリロリアル。


「光の理 周囲を照らす力になれ ライト」


 親指の爪ほどの光球が出現し報告書に目を向け最後の一ページを読み終える。


 絶界の調査というよりは大賢者ナシリスさまと古龍であるティネントさまにリンクスさまの冒険談ではありませんか。遭遇した魔物の種類に絶望を感じますが、アーマードベアの後にヒドラって!? ヒドラですよ! ヒドラといえば猛毒を持つ最強種で国を滅ぼした実績もあるあのヒドラですからね! それを美味しいからという理由でティネントさまとリンクスさまだけで討伐するとか………………

同じことをアンミラとルナにできるとは思えませんからね!

 はぁ……妖精と会って話がしたいだけだったのに私の大切なルナと王国騎士最強であり近衛兵のアンミラを死地に送るのは……いっそ、大賢者ナシリスさまに指名依頼を出した方が安全でしょうか……


 大きなため息を吐きながら椅子の背もたれに体を預けるリロリアル。ひとり借りた部屋の一室に籠り絶界の報告書を読みアーマードベアの攻略法を考えようとしたが、そこに載っていたのは絶望からの英雄譚であった。


 それにしてもラフィーラさまが勇者の再来と呼ばれながらもアーマードベアに不覚を取っていとは……王都では次なる英雄になるだとうと噂の絶えないラフィーラさまですら命懸けの絶界。はぁ……リンクスさまと契約した水の精霊さんとお話でもできたら嬉しいのですが……


 思案しているとノックの音が響き伸ばしていた態勢を戻し返事をするリロリアル。開いたドアからルナが現れその後ろにはラフォーレとニッケラの姿が見て取れる。


「お夕食の準備ができたの!」


「ですので、素早く大広間の方へお越しください。力作揃いのハンバーグが待っております」


「王女殿下には冷める前に食していただきたいのです」


 片手を上げて元気に叫ぶラフォーレの姿に微笑みながら椅子から立ち上がりルナに促され足を進めるリロリアル。


「うふふ、それは楽しみですね」


「あまりの美味しさに驚かないで下さいね」


「あら、そんなに自信があるのかしら。今からハードルを上げては……ねえ、私の視界に不審者がいるのですが専属メイドとして排除しないのは何故なのかしら?」


 廊下を進み曲がった角にはアンミラがハァハァしながらドアの隙間を覗き込む姿が見え、ルナは可愛そうなものを見る表情で首を横に振る。


「金孤ちゃんたちの可愛らしさも原因と考え………………連れてきたのがそもそもの間違いだったのかもしれませんね」


 一瞬だがアンミラを庇おうとしたが無理があると思い直したルナはアンミラの後ろから一緒に部屋を覗こうとしたラフォーレとニッケラの背を軽く押して先に進むよう促す。


「このお姉ちゃんは一種の病気なのであまり近くにいてはダメですよ。ささ、温かいうちにお嬢さまに食べて頂きましょうね」


「うん! いっぱい作ったから王女さまに食べて欲しい!」


「ラフォーレちゃんは頑張りましたものね」


「ニッケラお姉ちゃんも頑張ったよね~」


 仲の良い姉妹のように手を繋がいながら先を進む二人に微笑みを浮かべるリロリアル。自身も姉と兄がおり同じように手を取られ王城の廊下を歩いたなと思っているとメイドが待ち構える大広間に到着し、ブーツを脱ぎ中へと入り待っていたラフテラへ会釈し二人に手を引かれ席へと案内され腰を落とす。


「すぐに料理を運び込みますのでお待ち下さい」


 メイドからの声に軽く頷きテーブルには既に三種類のソースカップが並び、食欲を刺激する香りが鼻腔を擽る。


「報告書の方には目を通されましたか?」


「ええ、ラフィーラさまでさえ大怪我を負わされる絶界の危険性を改めて知ることができました。アーマードベアの危険性もそうですがそこへ行くまでも危険なのだと……それにしてもヒドラも出現するような場所なのですね」


「この地でヒドラを確認したのは二度目なので恐らくですがもっと南にヒドラの生息地帯がるのではないかと、ダンジョンが現れそちらの調査がまだできていないのが現状です」


「ヒドラの素材はオークションに掛けられておりませんでしたが」


「素材はすべてリンクスさまが所有しているそうです。三つ首のヒドラは絶品なのだと、鱗だけでも卸していただけたらと思いましたが、料理が来ましたね」


 鉄板が煙と音を立て登場しメイドが慎重に各自の前に置き目を輝かせるルナ。リロリアルも鉄板の上で煙を上げる三つのハンバーグに添えられたポテトフライとニンジンのグラッセとコーンに口角を上げる。


「やった! ちゃんとお星さまの形です!」


「私のもハートの形をしています!」


 ハンバーグ作りを手伝った二人の鉄板には星型とハート形のハンバーグが並んでいる。


「ふふふ、可愛らしいですね」


「いっぱい捏ねて、お母さまが好きな形に作っていいと言ってくれました!」


「大変でしたが上手にできましたね」


「お嬢さまのハンバーグは私が丹精込めて捏ねました」


 ルナの言葉に多少食欲が落ちるがそれでも湯気を上げるハンバーグを前にお腹を鳴らすリロリアル。


「左からシンプル、チーズ入り、オロシとなっております。ソースもそれに合わせてありますがお好きな味をお選び下さい。焼きたてのパンとスープもすぐに届きますのでどうぞ先にお召し上がりください」


 メイドの説明にナイフとフォークを持ちシンプルなハンバーグをソースなしで切り分け流れ出る透明な肉汁。ふぅふぅと冷まし口に運ぶと弾力がありながらも優しい口当たりと溢れ出に肉の旨味に自然と微笑みを浮かべるリロリアル。

 ルナも熱々のハンバーグにデミグラスソースをかけ口に入れハフハフしながらもその味に感動しているのか目を瞑り噛みしめている。


「本当に美味しいですわ。普通に焼いた肉とは違い柔らかく肉汁が溢れ出るのですね」


「このソースも感動的なまでに美味しいです。早くパンにつけて食べたいです」


 遅れてやってきた『黒曜の黒薔薇』たちも席に着きハンバーグが届くと口に入れ、熱々なのを忘れるぐらいにその味を満喫し、パンとスープが配られるとパンに切り込みを入れハンバーグを挟み口にする。


「あのような食べ方もあるのですね」


「屋台で売るにはあちらの方が食べ歩きもできますから人気なのですよ」


「チーズ入りも美味しいですし、右のオロシと呼ばれるのは酸味のあるソースでサッパリといただけますね」


「喜んでいただけたのなら良かったわ。料理長が外へ出ていて私とラフォーレとニッケラとコックしかおらず心配でしたが、ルナさまもお手伝いしていただき感謝しますね」


 微笑みを浮かべるラフテラ。ルナは溢れ出るチーズに右往左往しながらも笑顔を浮かべる。


「添える具材やソースによってこうも味に変化が出るのは面白いですわね。特にチーズとオロシとでは真逆といってよい程に濃厚さと軽さあって、パンとの相性もとても良いですわ。この味なら国王陛下や王妃さま方にも食べさせたいわね」


「お嬢さま、あまりご無理を言っては」


「無理? あら、ルナが作って振舞うのだから無理という事もないでしょう」


 突然の無茶振りにルナのフォークが止まり空中で湯気を上げるハンバーグ。チーズがトロリと鉄板に伸びながら落下し、数秒間のフリーズ後に「無理です! それこそ無理です!」と大きな声で拒否するのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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