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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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リロリアルの目的



 プリンを食べ終えまったりとしていると気絶していたアンミラがゆっくりと体を起こしながらだらしない顔がいつもの凛々しい近衛兵のものへと変わり、視界の隅にラフォーレの膝の上で眠る幼い金狐を見つけると一瞬にしてその顔が崩れる。


「夢かと思いましたが現実だったとは……お嬢さま、私は今日からここで金狐ちゃんたちの近衛兵として任務を全うしようかと思います」


「冗談はそのだらしない顔だけになさい。それよりも絶界の調査資料を見ることは可能でしょうか?」


 だらしない顔をするアンミラからラフテラへと視線を向けるリロリアル。


「絶海の調査資料ですか?」


 眉間にしわが寄り怪訝そうな表情を一瞬浮かべるもすぐに表情を戻して口を開く。


「私にとっては娘が傷付いた記録でしかないけれど……閲覧権限などはないので見せることは可能です」


「なら見せて欲しいの」


「理由をお伺いしても?」


「絶界に住むと呼ばれるアーマードベアの眼球と心臓の入手ね」


 正直に話すリロリアルに先ほどと同じような表情へと変わるラフテラ。『黒曜の黒薔薇』たちもラフテラのように怪訝そうな表情へと変わる。


「誰かを呪い殺すためというのなら、」


「違います! お嬢さまは夢見がちなところがあり、精霊を呼び出そうとしているのです」


 ラフテラの言葉を遮りルナが否定し理由を述べるとリロリアルは顔を赤く染める。


「夢見がちとは失礼ね! 精霊を呼んで契約してくれたら素敵じゃない。精霊と友達になれるのよ」


「ハイハイ! 私も友達になりたいです! 精霊さんや王女さまと友達になりたいです!」


 急に手を上げテンション高く発現するラフォーレ。膝で寝ていた幼い金狐が体をビクリと震わせ顔を上げ、ニッケラが優しく背中を撫でるとまた首をラフォーレの膝に預けて目を閉じ、ニッケラの膝に乗っていた幼い金狐は私も撫でて欲しいと甘えた鳴き声を上げる。


「まあ、嬉しいわ! 私もラフォーレちゃんと友達になりたいし、ニッケラちゃんや金孤ちゃんたちとも仲良くなりたいわ。もし精霊さんと仲良くなれたら二人に紹介して一緒に友達になりましょうね」


「なっ! 姫様だけズルいです! 私もラフォーレさまや金孤ちゃんたちと友達になりたい!」


「アンミラは少し頭を冷やしてきた方が良さそうですね。折角の機会ですし外で訓練する兵士たちに剣術でも披露してきなさい」


 ジト目を向けながら話すリロリアルにアンミラは笑顔で首を横に振り、そんなやり取りを見ながらメイドを手招きしたラフテラは絶界の調査資料を持ってくるよう指示を出す。


「お断りします。はっ!? そういえば私の記憶が飛んでいたのか、空いている容器と甘い香りが……お嬢さま、気を付け下さい! 私を気絶させた不審者がいる可能性が!」


「安心なさい一番の不審者はアンミラよ。貴女が金孤ちゃんやラフォーレちゃんたちの可愛さに気絶しただけだからね」


「アンミラの分のプリンはお嬢さまが食べましたよ」


 一番の不審者であるアンミラが気絶していた事を簡単に説明すると腕を組み「それなら仕方がないですね」と納得するあたり自覚があるのだろうが、近衛騎士がそれでいいのだろうかと思うラフテラと『黒曜の黒薔薇』たち。


「話を戻しますが、アーマードベアの討伐も考えているのなら……」


「ええ、もちろんよ。そこはアンミラとルナに任せるわ。『黒曜の黒薔薇』さんたちも参加したいのなら報酬は弾むわよ」


 視線を『黒曜の黒薔薇』たちへと向けるが三人とも首を横に高速で振り、ルナはひとり恨めしそうな視線を向ける。


「私としては止めたいのだけれど……そうね、夫が帰ってきたら相談するといいわ。夫なら何度もアーマードベアを退治した実績もあるし、今は大賢者ナシリスさまもいるもの」


「リンクスさまにもご協力願えるのならお願いしたいです。ここへ来るまでにリンクスさまには助けられ、お礼もしたいので」


「ああ、それで古龍さま方が……」


 急ぐケンジから簡単な報告しか受けていなかったラフテラの頭の中では点と点が繋がり、古龍たちの来訪とリンクスはセットなのだと理解し、それに加え王女リロリアルの目的を聞き出せある意味胸を撫で下ろす。


「それにしても王女殿下が精霊と仲良くなりたいとは驚きですわね」


「精霊ならリンクスのお兄ちゃんが契約したの! お水の精霊さんなの!」


 ラフォーレから漏れた言葉に目を見開きハッとするリロリアル。信じられない数の水球を一度に扱い、街ひとつ覆いそうな巨大な水球を作り出したリンクスの水魔法の正体を確信しフリーズする。

 ルナやアンミラもその事実には薄々気が付いていたが、本人と話す機会がなく後で話が聞ければと心の片隅に置き、その答えが思わぬ形で耳に入ったのである。


「やはりそうでしたか……リンクスさまは精霊の契約者……」


「あのね、お水の精霊さんは人魚さんなの。お父さんがいってたの」


「冒険者ギルドからも報告が上がっていたわね。でもラフィーラちゃん、その事は内緒でしょ」


「あっ!? ごめんなさい……」


 ラフテラの注意にシュンとして頭を下げるラフォーレ。


「ごめんなさいが出来て偉いわね。でも、ごめんなさいはリンクスが来た時に本人に言いましょうね」


「はい……絶対ごめんなさいします」


 顔を上げラフテラに潤んだ瞳を向けるラフォーレ。その姿にばたりと横に倒れるアンミラ。リロリアルはその衝撃で我に返り、ルナは呆れた表情を浮かべ、そこへノックの音が響き一冊の書類を持ったメイドが入室する。


「資料をお持ちしました」


「リロリアル王女殿下に渡してちょうだい。報告書をゆっくり読みたいでしょうから私たちは一度退出するわね。そうそう、夕食に何か食べたいものはあるかしら?」


 メイドから資料を受け取ったリロリアルは一瞬考える素振りを見せるもルナへと視線を向け、ルナは口元だけを動かして料理名を伝える。


「ハンバーグが食べたいわ。以前、貴族たちが話しているのを聞いて、王都では噂だけが独り歩きをしているのよ」


「切れば肉汁が溢れ出し、添えられた卵からは黄身が流れ出す。ものによっては中から肉汁ではなくチーズが溢れ、ソースも多くの種類があって美味しいらしいと私も耳にしました。他の料理も美味しかったらしいのですが特にハンバーグが美味しかったと」


「ハンバーグの噂なら私たちも聞いたよ。『絆の槍』たちがパンに挟んで食べて、あれほど美味いものはないと自慢げに語っていたからね」


「一緒にカリカリとした芋を食べた話もしていました」


「硬さが一切ない肉など存在するのでしょうか?」


 伯爵夫人と王女にそのメイドの話に加わる『黒曜の黒薔薇』たち。本来なら不敬と問われかねない状況だがこの場にそれを咎めることはなく、同じテーブルを囲んでいる事もあってからラフテラは微笑みながら話を聞き、王女であるリロリアルも興味深く耳を傾ける。


「それならハンバーグにしましょうか。料理長が数名のコックが出ているので多少味が落ちるかもしれませんがご容赦くださいね」


「ええ、それは構いませんが、あの、もしかしてラフテラさまが料理をなさるのですか?」


「はい! 手伝います!」


「わ、私も手伝いたいです!」


 ラフテラが答える前にラフィーラが手を上げニッケラも次いで手を上げたことでメイドに任せようかと思っていたがラフテラは「なら一緒に作りましょう」と楽しげに答える。プリンの時のように親として一緒に料理するのが楽しいのだろう。


「それならルナも手伝ったらどうかしら、ハンバーグの秘密を知ることができるかもしれないわよ」


「そ、それは……」


「私は構わないわよ。でも、商売にするのならレシピを買ってね」


 悪戯っ子のような表情で話すラフテラにルナは手伝いを志願するのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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