フリルのお願いと古龍会
「それにしてもこのカレーという料理は美味いな」
「揚げ物もザクザクとした歯応えに包まれた芋も美味い」
「それにこの黒いタレもスパイスと酸味が利いていて美味いぞ」
「私はこの薄いパンが美味しいです。カレーにつけても美味しいですし、蜂蜜をかけてもサックリとして私好みです」
「自分みたいな存在がこのような美味なる食事をしても宜しいのでしょうか……ふへぇ~どれもこれも美味しくて、次に何を食べようか悩んでしまいます」
「はやり人種の食への拘りは並々ならぬものがありますな。肉など生が一番美味いと思っていましたがこうも表情が変わるとは驚きですな」
カパカパと酒を空けながら料理を口にする古龍たち。どの料理も口に合うのか絶賛しながら口に運ぶ。
「ラフォーレは家にいる? 会いに行ってもいい?」
早々に食事を終えたフリルは横に座るメリッサへと話し掛け、ラフィーラの妹であるラフォーレに会いたい事を伝える。話し掛けられたメリッサは以前に一緒に話しお風呂にも入り仲を深めたこともあり笑顔で「ラフォーレお嬢さまも喜ぶと思います」と口にするとキラキラとした瞳をリンクスに向けるフリル。
「なら一緒に行くか? ひとりだと心配だしな」
「うん! リンクスが一緒なら金孤たちも喜ぶもん! お姉ちゃ~ん、ラフォーレの家に行ってくるね~」
大きな声で酒盛りをしているペプラへと行先を伝えるフリル。
「気を付けて行けよ~」
軽い感じで許可を出すペプラ。ケンジは案内を付けようとも考えたがリンクスが一緒なら問題ないだろうと焼いている肉に集中する。
「気を付けて行くのですよ。知らない人がいても付いて行ってはダメですし、お菓子を上げると言われてもダメですからね」
ティネントの言葉にそこまで幼くないと思うリンクスであったが、フリルは手を上げて「うん! ついてかない!」と大声で答えティネントの視線がリンクスに向く。
「大丈夫です。ああ、それと冒険者ギルドに報酬が届いているらしいので寄った方が良いですかね?」
「金額が相当だろうからな。リンクスたちだけではなく明日にでもナシリスを連れて行った方が良いだろう。それよりも夕方になるとスリやゴロツキが活発化するから早めに家に行ってやれ。ついでに娘も連れて行ってくれると嬉しいのだが」
成人したとはいえ古龍たち相手に顔が赤くなるまで酒を飲むラフィーラを心配したのか、ジト目を向けるケンジ。ラフィーラはその視線を受けながらも残った酒を喉に流し込み、メリッサは自分の食事に集中しておりすっかり専属メイドとして主人の面倒を見ずにいた事に顔色を青く変える。
「も、申し訳ありません! すぐに馬車を手配してきます!」
謝罪を口にすると立ち上がり乗ってきた馬車が止めている場所へと向かうメリッサ。リンクスとフリルは馬車に乗ることが決定すると二人で顔を見合わせガックリと肩を落とす。
「馬車は楽だけど退屈だから嫌い……」
「俺もあまり好きではないが、ラフィーラさんは貴族だから街の人からの目もあるし諦めろな」
「うん……明日は冒険者ギルドまで歩いて買い物もしてみたい」
俯きながら話すフリルに明日は迷惑の掛からない範囲で自由にさせてやりたいと心の中の予定に組み込むリンクス。
「どんな店に行きたいんだ?」
「えっとね、お姉ちゃんに似合いそうな可愛い服を探したい!」
俯いていた顔を上げて目を輝かせるフリルだが、酒盛り中のペプラは口に入れた酒を吹き出し盛大にむせ、隣に座っていた雷竜がその被害者になるが気にした様子はなく酒を口にする。
「ゴッホゴホ、オレに可愛い服とか似合わないから! フリルに似合う服を買え!」
ペプラの叫びにキラキラした表情が曇りリンクスへと視線を向けるフリル。リンクスもペプラに可愛い服は似合わないだろうと心の中で思うもどうにかフォローしようと口を開く。
「ああはいっているけど着れば以外に似合うかもな。天竜さんとかよく見れば可愛い服装だし、ティネントさんのメイド服も可愛いだろ。よし、ペプラにはメイド服を買いに行くか」
「うん!」
「うん! じゃねーよ! おいこらリンクス! オレの服装で遊ぶな!」
「私もペプラとお揃いはちょっと……ですが、息子から可愛いといわれるのは良いものですね」
「私もさり気なく褒められましたわ。リンクスは見る目があります」
可愛いと褒められたティネントと天竜は口角を上げ喜び、ペプラはそれ以上いうことがないといった雰囲気で酒を注ぎ口へと運び、ペプラに酒を浴びせられた雷竜は酒が原因なのか濡れた髪の毛が薄っすらと放電し、その光をうっとりと見つめる精霊のカレイ。
「馬車の準備が整いました! お嬢さま、すぐに屋敷へと戻りましょう。リンクスさま方もどうぞ」
顔を赤くするラフィーラの手を取り立ち上がらせるメリッサ。鍛えている事もありフラフラとしたラフィーラを支え馬車へと乗り込み、リンクスとフリルも乗り込むと馬車は出発する。
「リンクスとフリルには健やかに育ってもらいたいものですね」
「それは孵化したばかりのあなたの娘も同じでしょう。大切に育てなさい」
「うむ、子供は大切に育てるべきだの。どこぞの領主は放任主義のようだがの」
「放任なんてしてねぇよ! こっちの予想を超えた行動を起こすのが子供ってもんだろ。絶界の調査はあくまでも調査であって、アーマードベアに挑むとか普通は思わねぇだろ……」
「まあ、種族が違えど子供の行動に驚かされるのは一緒ということです」
「そうかもしれないわね……そうそう、この古龍会だけど氷竜の一角がいつまでも空いているのはどうかと思うのだけれど」
「氷竜系の古龍となると……」
「それって俺が北の魔王を討伐したからなのか?」
一斉に考え始める古龍たちへケンジが問うと一応に頷き、かつて討伐した北の魔王を思い出すケンジ。
北の魔王と呼ばれる前は氷竜と呼ばれ古龍会の一員であったのだが、人種に卵を奪われ慌てて追い掛け奪った人種は退治したのだがその際に盗まれた卵まで巻き添えにしてしまい悲しみの中で心が闇に落ちたのである。
強大な力を持つ古龍種が悲しみに暮れ氷のように心を閉ざし氷竜がその周辺を永遠の冬へと変え長い月日が経過し、創造の女神シュレインが重い腰を上げケンジという勇者を異世界から召喚したのである。
「氷竜は誰よりも優しかったからな……」
「まだ孵化する前の子を盗んだ人種を恨んでいる竜種も少なくはないからな」
「私たちがその国を特定し滅ぼしましたが……」
「終わった後は虚しいだけだったよな……」
古龍たちは一様に俯き当時の事を思い出しているのだろう。天竜に至っては涙を流している。
「ううう、とても悲しい事件でした……ですが、この悲しさを吹っ切る為にも新たな氷竜を古龍会に迎い入れませんか?」
涙を拭って顔を上げる天竜。他のものたちも顔を上げ一同で頷き、ペプラが口を開く。
「氷竜だったら北の国に数匹いたが古龍と呼べる生まれと知能はないかもな。あいつらは縄張り争いで忙しそうだったしな」
「そうなると南の氷山か、標高の高い山か、魔界か……探すのが面倒だな」
「探す必要はないでしょう。リンクスがいます」
「ええ、私もリンクスを推薦しようかと思っていたところです」
ティネントと天竜からの言葉に目を見開く古龍たち。ケンジも驚きの表情で固まり、ナシリスが口を開く。
「これ、リンクスの肉体は人種なのだ。魂が半分氷竜かもしれんが半分は人種、古龍に育てられはしたが人であるには変わりないからの。ワシにはリンクスを守る義務があるからの。古龍が相手でもワシは引かん!」
ナシリスが古龍たちへ視線を強めるとティネントと視線が合い互いに睨み合い、会場が一気に冷たい空気に支配されるのであった。
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