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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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グンマー領で宴会を



 二時間ほどでグンマー領へと到着した一行は街を守る警備隊長から指示を受け西側へとまわり、整地された一角から手を振るケンジに迎えられた。多くのメイドや女性たちが野菜や肉をカットする姿に驚くも香草などのスパイスの香りに鼻をスンスンさせる古龍たち。


 王女リロリアルと金孤たちが乗る馬車はリンクスたちと別れそのまま領主館へと進み、領主夫人であるラフテラとラフォーレに迎えられている。


「随分と複雑な香りがするわね」


「それも食べ物に使うんだよな?」


 薬研やげんと呼ばれる生薬などをすり潰す道具を使いスパイスを潰し調合していた女性へと詰め寄る古龍たち。


「これはカレー粉を調合しております。分量は極秘事項になるのでお教えできませんので、その、あの、領主さま……」


 覗き込むように薬研を見つめる古龍。特に黒竜と天竜がその香りに食いついており、まわりの古龍たちも注意することはなく、困った女性はケンジへと声を掛ける。


「古龍だろうとカレー粉の配分は教えられないからな。これを作るまで三年以上も配合を変えて今の味に辿り着いたし、材料集めだった大変だったんだからな」


「三年程度ではないか?」


「寿命の長さが違う連中に言わせればそうかもしれないが、努力の結晶なんだ。ああ、カレー粉が完成したらリンクスがカレーを作るから、それまではBBQでもして食べ繋いでくれ。酒の用意もあるが飲み過ぎて暴れるとは本当にやめてくれよ」


 三年程度といった黒竜は渋々という表情でケンジの話を受け入れ、天竜に至ってはリンクスがカレーを作るという話に喜びその場でピョンピョンと跳ね喜びを表している。


「私も頑張る!」


 リンクスの横で両手をグーにして気合を入れるフリルに天竜のテンションは更に上がり、フリルに駆け寄ると抱き締めてクルクルと回転を始め、それを呆れた表情で見つめる古龍たち。


「古龍の品格が疑われそうだが許してやってくれ。つい数日前に子が元気に卵から孵ったばかりなのだ。それに加えリンクスとフリルの手料理が食べられると知れば喜ぶのは無理もない」


 そう口にする緑竜は天竜がフリルを振り回す姿に微笑みを浮かべる。


「うむ、これだけ仲間が集まったのだ。多少の迷惑など笑顔で受けるのがマナーだの」


「多少ならいいがな……ああ、酒はこの街に住むドワワラとエルテラが都合してくれた。ドワーフとエルフが神と崇める古龍に酒を振舞えると喜んでいたよ」


「ほぅ、それなら後で礼をせねば……ん? 街に入れないからこれを渡してくれ」


 そう口にしながら空間に手を入れラグビーボールの倍はある赤い鱗を取り出す火竜。緑竜も同じように緑色した鱗を取り出すとケンジへと渡し、受け取ったケンジは初めて手にする鱗の軽さに、戦った時はあんなにも硬く強固だった鱗がこんなにも軽いのかよと心の中で驚きつつも「必ず渡そう」と口にしてアイテムボックスに収納する。


「この辺りを使っても大丈夫ですか?」


「ああ、草のない所なら火事の心配もないだろうからな。好きに使ってくれ」


 ケンジの了承を取ると指輪の収納から作業しやすいようテーブルを用意してまな板とナイフに食材を取り出すリンクス。その横で天竜から逃れたフリルはカレイが出現させた水球で手を洗いお礼を口にする。


「フリルは野菜のカットを頼む」


「うん、任せて!」


 リンクスの頼みに笑顔でやる気を見せるフリル。天竜はそんな二人の料理する姿を見つめ、ケンジはBBQ用に組み立てた石の竈の前に網を置くと厚めにカットされた肉を焼き始める。


「焼けたら皿に運ぶからゆっくりしてくれ。タレは塩レモンと醤油ベースに辛いみそダレを用意してあるから好きに使ってくれ。それと酒は……もう飲み始めているか」


 黒竜が真っ先にウイスキーの瓶を開封するとガラス製のグラスに注ぎ入れ口にし、その横で緑竜や火竜は焼酎をそのまま飲み近くのメイドからレモンに似た果実を提供され、それを混ぜ入れ表情を綻ばせる。


「こちらのブランデーといったか? 帰りに持ち帰りたいのだが可能だろうか?」


 そう口にしたのは古龍のなかでもふくよかな体系の亀竜。その横で言い辛いことを言ってくれたか亀竜に乗っかろうと雷竜も片手を高く上げ口を開く。


「あ、あの、自分も可能なら持ち帰りたいです。鱗で良ければいっぱいありますので交換していただけないでしょうか?」


 古龍種の割に低姿勢なお願いをする雷竜に若干戸惑うもケンジは頷き口を開く。


「持ち帰り用にウイスキーとブランデーと焼酎を樽で用意しています。三種類を大樽でひとつずつお持ち帰り下さい。他にも蜂蜜や水あめもお土産として用意していますので、肉も焼け始めましたよ」


 BBQ用の網から焼き合った肉を皿に盛りテーブルへ運ぶケンジ。待ってましたとフォークに刺しタレをつけて口に運ぶ古龍たち。はふはふと熱々を口に入れレモンハイやウイスキーで流し込む口角を上げる古龍たち。

 口直しに運ばれた浅漬けやもつ煮も好評で酒が進み、雷竜が料理を持って席を立ちリンクスとフリルの料理姿を見つめる天龍へと料理を届ける。


「天竜さまも如何でしょうか?」


「あら、ありがとう。雷竜にはいつもよくしてもらって申し訳ないわ」


「いえ、自分はまだまだ未熟者でありながら世界のトップが集う会合に分不相応にも呼ばれております。ささやかな雑用ぐらいはさせて下さい」


 料理を手渡すとスッとテーブルへと戻る雷竜。帰りながらもすぐには座らずグラスが空いてないか確認するあたり本当に下っ端気質なのだろう。


「最初にスパイスを炒めたらカットした肉を入れて炒めて、肉のまわりが焼けたら野菜と合わせて炒めて、よく炒めたら水を入れて煮ます。スパイスは入れるタイミングが早いと香りが飛んでしまうので種類によって入れるタイミングを変えることが重要らしいです」


 リンクスとフリルのカレー作りを見学する天竜は熱心にその姿を見つめる。


「入れるタイミングもそうですが付け合わせのライスやパンは用意したのですか?」


 後ろから聞こえた声に振り向くとシャワーを浴び帰って来たティネント姿があり、先ほどとは違い酒臭さも消えている。


「それならケンジさんがナンを用意してくれるそうですよ。チーズ入りもあって蜂蜜を掛けて食べても美味しいらしいです」


「それは楽しみですね。ケンジにしては良くやったと褒めてやりなさい」


「いや、俺の口からは無理ですからね。それにほら、ケンジさんは他にも街の人たちを気遣ってこの場を用意してくれましたし、警備隊の人とかはこっちではなく街側を向いて警備してくれていますよ」


「こちらへのちょっかいを気にしているのでしょう。あのようにされては逆にこっちが気を使いますね」


「普通の人類からしあたら私たちは力を持つ本当の意味でもバケモノです。そういった対応も必要なのでしょう。それよりも味見はまだでしょうか?」


 大鍋で煮込まれているカレーからは食欲のそそる香りが漂いお腹を鳴らす天竜。見た目は長い金髪に清楚そうな雰囲気なのだが子供のようにはしゃいだりお腹を鳴らしたりしても平気なところを見ると子供のような人だなと思うリンクス。

 以前は天竜の姿で湖畔の家に現れ驚いたリンクスだったが、ティネントから酒を受け取り少しだけ人化し話しただけで別れたこともあり印象があまりなく、話したらフリルのように話しやすい人なのかもしれないとひっそりと思うリンクスなのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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