リロリアルと天竜とケンジ
グンマー領とクラウス領の丁度中間にある街は魔道列車の影響を受けたものたちが集まり馬と馬車の生産で発展した特殊な街であり、ここで育ち作られた馬と馬車はクラウス領へと運ばれグンマー領へと向かっている。他にも小麦などの農作物が多く作られ国庫を潤す大切な財源のひとつでもあり国から代官が派遣され管理されている。
「立派な馬車が借りられて良かったわ」
「私も久しぶりに人を背負って走りましたが、お嬢さまの鍛錬の必要性を考えるべきだと陛下へ進言しておきますね」
「ちょっ!? 私は可憐で儚い乙女なの! それにあなた達を信用して鍛えていないのよ!」
借りて来た馬車に乗り込み街道を進むリロリアル。隣にはルナが座りジト目を向けるアンミラ。歩き出して一キロほどで疲れて歩けなくなったリロリアルを背負い五キロほど走らされたのである。
「それにしても古龍さま方は足が速いのね」
窓の外を速足で進む古龍たちへと視線を向けるリロリアル。他にもナシリスとリンクスは杖とサーフボードで並走しており、もう一台借りた馬車にはライセンとキラリに幼い金狐たちが窓から外を見つめている。『黒曜の黒薔薇』が御者を買って出てくれたおかげで馬車も安定して車輪を回している。
「足が速いのもありますが魔力をあそこまで抑える事もできるのですね。馬たちが怯えていないか心配だったのですが大丈夫そうです」
「ある意味古龍さま方に守られていると考えれば世界で一番安全な馬車旅です。ふふ、疲れていたのでしょうね」
背もたれに体を預けて上を向きながら口を開けて寝る可憐で儚い乙女にアンミラは笑いを堪え、ルナは慣れているのかバッグからひざ掛けを取り出し自身の足に掛けるとリロリアルの肩を掴み強引に膝枕の生成へと持ち込む。
「ゴーレムの魔物に襲われ、『水遊び』に助けられ、更には古龍さま方が現れたのだ。まして慣れない旅の途中でなら疲れもたまります」
「確かにその通りだな……」
ルナが膝枕をしながら空いている口を閉じさせようとするが「ふがっ」と息を漏らして口を開けるリロリアル。その姿に笑いを必死に堪えるアンミラだったが視界の隅にある窓から光る何かが見え視線を向ける。
「なっ!!」
「どうかなさいましたか? まさか敵襲!」
窓を見て固まるアンミラ。敵襲と勘違いして立ち上がるとするルナ。膝の角度が上がりゴロリと床へと落ちそうになるリロリアル。
慌てて手を差し伸べ床への直撃は免れたがアンミラは固まったままであり、リロリアルを引き上げたルナも窓へと視線を向ける。
「黄金に輝く龍………………」
遠くの空を飛ぶ巨大な黄金の龍の姿に目を奪われる二人。メイドと護衛という立場でありながらもその美しさに目を奪われ、時が止まったように体を硬直させ見つめていると馬車はゆっくりと停止し、御者を勤める『黒曜の黒薔薇』からは伝言が送られる。
「知り合いの天竜さまだそうです。危険もないそうです」
その声に我に返ったアンミラとルナは互いに顔を見合わせ、引き攣らせた顔を浮かべるのであった。
ゆっくりと降りてくる天竜を前に古龍たちも苦笑いを浮かべ、ナシリスとリンクスも大地に降り立ち人化して下りてきた天竜にジト目を向ける。
「やっと寝かしつけてきたが……あまり歓迎されていないようだな……」
美しい金色の長髪が風に揺れ空気を読んだ天竜の言葉に古龍たちは一斉に頷き、ペプラが代表して口を開く。
「オレたちが見えてこっちに来たんだろうけどさ、これから向かうグンマー領の代表のケンジが古龍に怯えるからゆっくりと歩いて来いとお願いされたんだよ。それなのに金ぴかで目立つ天竜が山から下りてきたらどう思う?」
「…………………まずかったのか?」
「まずいのはお前だけだろうさ。オレたちはケンジからご馳走してもらえる予定だが、あれだけ目立ってきたら……なぁ、リンクス」
急に話を振られ驚くがナシリスへと視線を向けるが手助けはなく、仕方なしに口を開く。
「えっと、ケンジさんは怒るかもしれませんが自分も一緒に謝りますので、泣きそうな顔をしないで下さい。ああ、出産おめでとうございます」
リンクスが言うように俯き口を尖らせ今にも涙が零れそうになっていた天竜をフォローし、ついでという訳ではないが最近卵から孵った事を口にする。
「うん、ありがとう……私の味方はリンクスだけだよ……」
顔を上げるとリンクスに飛び付き慎重さもあってか軽々と持ち上げられるリンクス。
「ちょっ! 持ち上げないで下さいよ! それにカレイも天竜さんの頭に移らない!」
キラキラしたものが好きなカレイは輝くような金髪に魅入られたのか、天竜の頭に飛び移ってしがみ付きだらしない顔をしている。
「この頭の上のがリンクスを浚った精霊だね。リンクスと契約したらしいが、リンクスの不利益になるような事をしたら私が責任を持って消します。心に留めておきなさい」
≪ひっ!? は、はい、絶対にしません≫
念話で返事をするカレイは金髪から飛び退き地面へと戻されたリンクスの後ろへと避難し、ガタガタと震えるカレイを定位置である頭の上へと手を添えて移動させる。
「さっきもカレイには水魔法のコントロールを手伝ってもらいました。それにキラキラしたものが好きみたいで天竜さんの美しい髪に飛び付いていましたね」
カレイのフォローと天竜を持ち上げるリンクスの言葉に鼻の穴をムフゥ~と膨らませ笑みを浮かべる。
「まあ、ここからは速足で街まで戻るからの。ワシからもケンジには話してやるが怒られる準備はしておけよ」
話の軸を戻すナシリスに天竜は頷き停止した二台の馬車へと出発のサインを送り進み始めようとするが、馬が震えておりそれを一生懸命宥める『黒曜の黒薔薇』たちであった。
光の翼を使い全力で自身が治める街まで戻ったケンジは警備兵に緊急だと伝えると詰所に籠り警備兵長を前に口を開く。
「これから街の外に最重要警戒人物が複数訪れるから西側を全面的に封鎖する。ダンジョンから帰ってくる冒険者には俺が説明するから門は封鎖しろ。それとドワワラとエルフリードの店にメモを渡すから届けて欲しい。金は言い値で支払うので商品を前借させてほしいと伝えてくれ」
そう口にすると急いで紙とペンを取り出しメモを書き、警備隊の蝋封セット借りて封をして肌に離さず持っている蝋封印を押すと警備兵に持たせ荷馬車で行くように命令を出し、自身は急ぎ外へと出ると光の翼を輝かせて空へと上がり一気に領主館を目指す。
偏屈爺さんだがドワーフが崇める火竜が飲む酒だ。用意してくれるだろうし、エルフが崇める緑竜もいたから蜂蜜も提供してくれるはず。あとは妻やラフォーレに金狐が来ることを教えて、急いで会場をセッティングだな。
食材は……カレーはリンクスが作ってくれるからが、古龍さま方がどれだけ食べるか想像もできないな……ティネントにいえば捕ってくる事も可能だろう。凍らせてあるブラックカウもあったはずだから大丈夫なはずだ……
思案しながら領主館へ降り立つケンジは訓練をする警備隊に片手を上げ挨拶をするとそのまま屋敷へと入り、迎えてくるメイドにコック長に壮大なBBQの下準備を頼むと命令を出し急いで妻がいるだろうサロンへと足を向け、ノックもなしに入り「緊急事態だ」と口にする。
「緊急事態ですか? 私にできる事があるのかしら?」
「すぐに金狐たちがやって来るからその相手を頼みたい」
「ふぇっ!? 金狐ちゃんたちに会えるのですか!」
一緒にお茶をしながら文字の勉強をしていたラフォーレはソファーから立ち上がり目を輝かせる。
「ああ、予定よりも早くなったがもうすぐこの街にやって来る。それと一緒に古龍種が七人ほど付いてくるがな……」
ケンジの言葉に首をコテンと横にし「古龍種?」と呟くラフォーレ。妻であるラフテラは瞬間的に顔を青ざめさせるのであった。
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