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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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ティネントと古龍達たち



「創造神からの願いとリンクスから放たれた多くの魔力を感知したのですが、怪我はありませんか?」


 地上へと降り立ちスッとリンクスへと向かいながら話すティネント。まだ酔っているのか頬は赤く酒の臭いを撒き散らし、リンクスにくっ付いていた幼い金狐たちは鼻を抑え飛び降りるとライセンとキラリに向かい避難する。


「えっと、怪我はないです。鉄のゴーレム? のようなものが異世界から現れまとめて凍らせて指輪に収納しました。うっ、こっちまで酔いそうな臭いですね」


 酒の臭いに思わず顔を歪ませるリンクスのリアクションにティネントは機能停止したように固まる。


「ついさっきまで飲んでいたからな」


 明るい声が上から響き皆が視線を向けると先ほどまでは誰もいなかった場所に七人の女性の姿があり、その中の一人であるペプラがニコニコと笑顔で声を掛ける。


「古龍種が総出とか、勘弁してくれよ……」


 ケンジのぼやきに目を丸める一同。


「天竜の子は可愛かった?」


「ああ、ちっこくてピカピカだったぞ」


 フリルがパッと笑顔を浮かべ「今度は私も行きたい!」と叫び、古龍の一団も笑顔を浮かべ、再起動したティネントはアイテムボックスから状態異常回復ポーションを取り出し口にする。


「アルコールは抜けましたが、スンスン……一度戻って水浴びをしてきます」


 そう口にするとその場から消えるように跳躍し絶界の自宅へと向かったのか視界から飛び去り、そのあまりの速さに目を丸めるリロリアル。


「一瞬にして消えました……あれが古龍種の力なのですね……」


「魔力を抑えているのでしょうけど、漏れ出る魔力からその強大さが理解できます」


「お願いですから飛び出さないで下さいね」


 リロリアルの右手をルナが、左手をアンミラが抑え暴走せぬよう物理的に抑える二人。リロリアルは不満ですと顔に出すがその瞳は古龍種たちを捉えている。


「フリルは元気で少し背が伸びましたね。リンクスもたった十五年で大きく育ちましたね」


 黒髪の顔に影が差す古龍種からの言葉に会ったことがあるのかと思案するリンクス。他の古龍種たちからも視線を受け居心地の悪さを感じているとナシリスが口を開く。


「赤ん坊の頃に家へやって来たからの。リンクスが覚えていないのも仕方のない事だの。それよりもここは人の住む街が近いから竜に戻ったり迷惑を掛けたり力の行使はするでないぞ」


「そんなことはわかっています。が、ペプラが持って来た酒を買いに行きたいのよ!」


「水のような見た目なのに芳純な香りとスッと喉の奥に消えるキレ。素晴らしい酒であった」


「茶色いのはガツンときて鼻から抜ける香りに酔いしれたのだ」


「どれも甲乙付け難く、金はそれなりに手持ちがあるので皆で買いに行きたい」


 古龍種たちから上がる声に苦笑いを浮かべるケンジ。人の姿とはいえ古龍種たちの容姿はどれも整っており、荒くれ者たちから言い寄られでもしたら自分たちが作り上げてきた街が一瞬でチリと化すのが容易に想像できたのだろう。


「ちょっと、ちょっとだけ待ってくれ! その酒が買えるのはこの先の街だが古龍種たちが街に現れては人々が混乱する! 酒はできるだけ用意するので、どうか少しだけ待ってくれ!」


 その場で頭を下げながら声を上げるケンジ。頭を下げながらも回転させ古龍種たちが街に入らずに事を治めようと思案する。


「むっ、それでは食べ歩きができないではないか」


「屋台の料理も美味いものがあるとティネントとペプラが言っていたが」


「カレーなる香り高い料理は可能性の塊だとも言っていた」


 おいおい、これじゃ本気で街の中まで古龍種の団体が入ってくるぞ。こんな時ティネントが居れば料理を任せて古龍達の気が引けるだろうに………………


「リンクスもカレーは作れたよな?」


 ティネントがいないのならリンクスに任せればいいじゃない。という発想でリンクスに助けてと言わんばかりに話題を振るケンジ。


「カレーなら作れますよ。フリルも一緒に手伝ったよな」


「うん、ティネントさまと一緒に作った! 作り方も覚えているから材料があれば作れる!」


 片手を大きく上げて答えるフリル。リンクスは指輪の機能を立ち上げ材料を確認する。


「なら、酒は俺が責任を持って用意できるだけ集めるので、街の外で宴会をしないか?」


「街の外?」


 黒竜が眉間にしわを作り復唱し、明らかに不満を顔と口に出す。


「ああ、街の外だ。街中では何があるかわからないからな。古龍種さま方ならくしゃみひとつで街を滅ぼすことも可能だろうからな」


 絶対に引かないという意志の籠った瞳を古龍種たちに向けるケンジ。勇者であり、領主であるケンジからしたら領民と街を守るのは当然であり、街に危険人物を入れないというのは犯罪を防ぐための最低限の処置に過ぎない。ティネントとペプラはナシリスとリンクスの親と友人という特別枠であり、それなりに常識のある存在だとケンジが認めているのもあり街への滞在を許可しているのである。


「くしゃみでは無理です。ですよね?」


「元の姿に戻れば可能かもしれません」


「この前はクシャミと一緒に炎が噴き出していたからな」


 ケラケラと笑いながら話す古龍たち。特にペプラはクシャミと一緒に炎を撒き散らしたことを暴露し顔を真っ赤に染める火竜。


「これこれ、話がずれておる。お主たちが温厚なところもある事をワシは知っておるが人種は愚かな者もおる。お主らに喧嘩を売るような馬鹿もおるからその対策として街の外で食事をさせるから勘弁してくれとケンジはいっておるのだ。料理はリンクスとフリルが作り酒はケンジが用意するからどうか今回はそれで事を治めて下され」


 ナシリスが話をまとめ口にすると古龍種たちは一応に頷き、黒竜だけは不満顔をしていたが「黒竜さまは私が作る料理は嫌ですか?」と上目遣いのフリルからの言葉に渋々了承し、その頭を優しく撫で目を細めるフリル。


「では、先に戻って酒と場所の用意をしてくる! ゆっくりと街まで来てくれ!」


 そう叫び光の翼を輝かせ空へと舞い上がるケンジ。


「ゆっくりと来てくれといっておったが、王女がいるのでは馬車を借りた方が良いかもしれんの」


 両腕をしっかりと掴まれているリロリアルへ視線を向けるナシリス。


「馬車よりもオレが乗せてやるぞ。その方が早いだろ」


「ペプラは空気が読めないよな。ケンジさんはゆっくり来てくれって言ってたろ」


「うっ、そういやそうだったな……」


「たまには歩くのも良いものですよ。道端の花や木々を揺らす風に光を反射させる水面。精霊たちも微笑んでいます」


 緑色した長髪を風に揺らめきさせながら話すのは緑竜。木々と共に生きる穏やかな古龍である。


「私は退屈だ。が、勇者への感謝もあるから無下にもできないか……行くぞ」


 黒竜が先を歩き始め一同はそれに続くように歩みを進める。途中、リロリアルがアンミラに背負われながらも緑竜に声を掛け精霊についての話を耳にし目を輝かせ、アンミラとルナは気が気ではないといった状況に陥るが、性格が穏やかな緑竜は微笑みながら話を続け近くの街に到着するのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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