女神と後始末
「で、言い訳があるなら聞くけど……」
天界にある一室では創造の女神シュレインが土下座する女神へジト目を向けている。
「確かにあの星は自分が管理していたものですが、神託を出そうにも進化した人工知能プログラムに人類は滅亡しており、自分が手を出し潰そうとも考えたのですが余所以外にも星々の力を吸い上げる新たな施設を作り遠いこの星に移住をしようと……」
「それで転移してきたのね」
「はい……転移というよりは空間を歪曲させ強引に世界を固定させております。今は貴女さまのお陰で安定していますが……」
「まだ何かあるのかしら?」
「いえ、あの程度の損傷では再起動する個体もあるかと……」
そう口にすると顔を上げ創造の女神シュレインを見つめる。
「はぁ……それならこちらから干渉して完全にプログラムを消去するしかないわね……もし、こっちの世界にバグとして残ったら、どうなるか理解しているわよね?」
「えっと、それは自分ではなく貴方さまの責任では?」
「…………………………………」
眉間に皺を寄せる創造の女神シュレインからの圧に、再び土下座の姿勢に移行する別世界の女神。
「まあ、どちらにせよ私よりも上の存在に報告したから沙汰を待ちなさい。辺境の星の監視でもして、」
「まっ! 待って下さい! 自分だってもっと緑の多い星を、人々の暮らしを見守りたいです!」
創造の女神シュレインが話し終わる前に飛び付き涙しながら懇願する女神。この度の不祥事により辺境惑星の監視という生物がおらず何の変化も数万年は起きないだろう場所への勤務は嫌だと涙ながらに訴える。
「ひとさまに迷惑を掛けておいて何を言っているのだか」
「そ、それなら先輩の異世界召喚だって同じじゃないですか! 無理やり拉致して凄い力を貸し与えて、闇に落ちたドラゴンを討伐させたのも同じじゃないですか!」
腰に抱き付き涙しながら訴える女神。
「あら、根本が違うわね。私が呼んだのは暮らしていた世界で閉鎖的に悩み、他の世界に渡ってでも自分の生きる意味を探している若者を呼んだのよ。実際、こちらへ来る前に説明し、元の世界に戻らなくてもいいから戦いたいと言質は取ったもの。
転生の不手際である静稀に関しては私のミスではないし、あっちの神にはクレームを入れたわ。平謝りされながら日本の名産物を貰ったのは嬉しかったけど、甘いクッキーばっかりで味に飽きたわ……いる?」
何もない空間から○○へ行ってきましたクッキーを取り出すとしがみ付いていた手を離し受け取り、包装紙を乱暴に破り捨て開封しクッキーを口にする女神。
「お、美味しいですぅ……私もこんなお菓子を作るような世界を作りたかったのに、どうして産業革命からスキップするようにエーテル工業に向かい人工知能を生み出したのよ~うぇぇぇぇぇん」
涙する女神へ憐みの視線を送る創造の女神シュレインは近くにある立体映像へ視線を移し、水球が白く濁り始めたことで視線が釘付けになる。
「ふふ、リンクスは本当にあの子の力を無限に使えるのね」
口角を若干上げ、微笑みを浮かべる。
「って、指輪の収納に収まるだと……どれだけ容量があるのよ! ティネントもやり過ぎね。これは厳重注意要件として、折角だから指輪の収納に干渉して、プログラムを完全に破壊して、素材は……タングステンに強化ゴムと特殊ナノ合金にエーテル炉……ケンジからしたらこっちの方が未来なのかしらね。エーテル炉と核融合炉は消去して、バッテリー類も破棄した方が良いかしら……」
リンクスの指輪へと干渉し世界に広まると困るだろうプログラムと部品を回収し消去する創造の女神シュレイン。泣きながらクッキーを食べていた女神は近くに置いてあったグラスに入れられていた水を口に運び流すと再度土下座の姿勢を取る。
「本当に申し訳ありませんでした!」
クッキーを食べ若干元気が出たのか元気な声で謝罪する女神。創造の女神シュレインは神託を与えたパナナが祈りの姿勢を取ったのを確認すると自身の力を使い干渉し声を送る。
「この場に居合わせた者たちよ。今日起こった事は不測の事態であり世界に広めることは禁じます。勇者ケンジ、大賢者ナシリス、リンクスよ。お前たちの活躍に感謝する。これからこの世界を繋ぐひびを修復するので、それまでこの少女の安全を確保しなさい」
パナナの体から黄金の光が溢れ口にする言葉に創造の女神シュレインが憑依したのだと確信し皆で片膝を付きその言葉を耳にする。ただ、幼い金狐たちには通じなかったのか膝を付くリンクスに集まりモフモフの塊へと変わり、ライセンとキラリが青い顔をするなか割れた鏡が逆再生されるように修復され、一分も経たないうちに元へと戻りホッと胸を撫で下ろす創造の女神シュレイン。
「これで世界は救われました。聖騎士たちは疲弊したこの少女をお願いします。ケンジたちには後で何か送りますので楽しみにしていなさいね」
そう言葉を残し黄金の光が消え去ると祈りの姿勢をしていたパナナが崩れるように地面に倒れ慌てて駆け寄る聖騎士たち。今にも壊れそうなものを持つように注意深く手を添え抱き抱える聖騎士長。
「ケンジさま、我々は先に戻らせていただきます。副長を含め五名の聖騎士を残して行きますので姫殿下の護衛にお使い下さい」
そう口にしながらも回復魔法を無詠唱で唱える聖騎士長。ケンジは「ご苦労」とだけ口にし、亀裂のないいつも通りの風景に目を向けながらも巨大なクレーターのような凹みにどうしたものかと後頭部を掻き、ナシリスがルナを呼び生成したゴーレム三体をクレーターに入れるよう口にする。
「ゴーレムをあのなかへですか?」
「うむ、地中から盛り上げてもよいがそれだけではなく強度のある土があった方が街道が頑丈になるからの」
ルナが生成したゴーレムは近くにある土を凝縮させたものでそれだけでもかなりの強度があり、ナシリスはその強度のある土をリサイクルして街道整備に使おうと打診したのである。
「師匠がそういうのならそれでお願いします」
ゴーレムを操作しメタリックなドラゴンの爪でえぐれ、更には氷球の重さで陥没したクレーターの中央へと移動させると術を解きその場に倒れる人型の土。崩れることなく倒れ、ナシリスは杖を掲げ力ある言葉を口にする。
「クリエイトロード」
ゴーレムが倒れたクレーターが光り輝きゆっくりと地面が盛り上がりゴーレムが崩れ平らな地面になり、更には街道を繋ぐように整地される。
「流石は師匠です!」
「うむ、これなら問題ないの」
「ああ、迂回するにもあれだけの大きさのクレーターは面倒だし、水が溜まればそれだけ魔物の水場や虫の発生源になるからな。助かったよ」
「助かったはまだ早いかもしれんぞ」
そう口にするナシリス。ケンジも気が付いたのか空へと視線を向けると巨大な魔力の塊が目の前に飛来し音もなく着地する。
「もう終わったのですね……ひっく……」
小さくしゃっくりをするティネントが現れ警戒するアンミラとルナ。特にルナはその強大な魔力に足が震え、やっと騒動が治まったというのに現れた強者に唖然としながらも杖を構え、近くで毛だまりになっていたリンクスは近づいてくるティネントから漂うアルコール臭に顔を歪めるのであった。
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