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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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解体と乱入者



 模擬戦が中止になり朝食ができるまでラフィーラとメリッサは専用のテントでリンクスの戦い方を考察していた。


「驚愕という言葉がピッタリだったわ……水球という魔法は水属性の初歩魔法なのは理解しているけど……」


「百を超える打ち合いでした……」


「魔力量という点においてもリンクスさまは大賢者であらせられるナシリスさまと同等かそれ以上です」


「眩しくて正しく確認できませんでしたが近接戦闘もティネントさまへ通じているかはわかりませんでしたが、敵に回ったら光り輝く杖での打撃は厄介でしょう」


 メリッサが入れた紅茶を口に入れ一息つきながらリンクスが戦うシーンを思い出すラフィーラ。自身はアーマードベアとの戦闘で吹き飛ばされ大怪我を負いその傷を大賢者ナシリスに癒してもらい、自身を傷つけたアーマードベアを倒したのがリンクスだと知り少なからず嫉妬していたのだが実力を目にしたことでその気持ちが薄れ、大賢者ナシリスの息子というブランドに相違ない実力だと理解したのである。


「私が勇者の娘と呼ばれているのは過大評価かもしれないわね……」


 大賢者ナシリスの息子に対して自分は勇者ケンジの娘として剣の腕を磨き続けていたが、絶界という危険な魔物が跋扈する森の中では自身が身に着けた剣技など児戯に等しいと悟ったのである。


「それは違います! ラフィーラさまは民たちの希望として街の治安を守り多くの賊や魔物を討伐しています! ケンジさまも剣の腕に関しては褒めておられているではありませんか!」


 意気消沈しているラフィーラに声を大きくして否定し励ますメリッサ。事実、民や兵士たちからの人気が高く名のある盗賊や裏稼業の者たちを討伐し、農作業の妨げとなる魔物の退治も積極的に受け追っている。冒険者としても登録しておりCランクという立派な冒険者の一員として評価されている。


「評価はそうかもしれないけれど、リンクスがもし敵対したら私はあの水球の雨をその身に受け、すぐにでも溺れると思うわ……」


「ですが、ナシリスさまはラフィーラさまの方が強いと……」


 昨晩、大賢者ナシリスからいわれた事を思い出して口に出すメリッサ。


「それは真っ当な戦い方ならといっていたわ」


「そ、そうですね。そもそも、水球を無尽蔵に打ってくるような戦闘スタイルとか反則です! 魔導士を一度に複数相手にしているようではありませんか!」


 メリッサの言葉は的を射ていると思い自然と微笑みを浮かべる。


「確かにその通りだわ。でも、味方になったら大賢者ナシリスさまと同等の戦力ともいえるわね。大賢者ナシリスさまで魔導士百人分かしら?」


「では、リンクスさまでも百人分ですね。ふふ、あり得なくもないのが怖いところですが、勇者さまと北の魔王を討伐された大賢者さまです。敵になる事は考えにくいと思います」


「そうよね。そこは安心しているのよ。でも、リンクスさまは……」


「金孤族や古龍さままでもが敵に回る存在……この事実は領主さまは知っておっれるのでしょうか?」


「さあ、わからないわね。でも、そういう難しい話は兄に任せるわ。私は少しでも勇者の娘として恥ずかしくないよう剣の腕を磨くだけだもの……ティネントさまと模擬戦がしてみたかった……」


 あまりにも人が集まり中止になった模擬戦が心残りなのか、湯気を上げる紅茶のカップが波打つ様子を見つめながら呟くラフィーラ。


「私もです。確実に格上だと理解しておりますが、自分がどれだけやれるか知るいい機会だと思いました」


「そうよね。また今度頼んでみましょう」


 二人は互いの意見が一致した事に微笑みを浮かべ頷き合うのであった。






 朝食を取り終えたリンクスたちは冒険者たちとアーマードベアやツリーレオパルドなど討伐した魔物の解体を行っていた。

 解体は血抜きから始まり内臓を取り出し、武器防具になる素材や錬金術に使う素材などに分け、最後に肉を部位ごとに分け収納する。その際に血の臭いで魔物が集まらないよう結界を大賢者ナシリスが張る。


「ほらほら、仕事中は群がるな。ナイフを持っているから危ないだろ」


 ツリーレオパルドを解体するリンクスのまわりには幼い金孤たちが集まり隙を見ては背中に飛び付いたり太ももに頭を擦り付けたりと甘え、その度に注意を口にする。


「甘える子狐に癒されますね」


「ええ、愛らしさもありますし、あのフカフカな尻尾とか撫でてみたいわ」


「ですが、リンクス以外には懐かないので手を出さぬよう注意しなさい。幼くても鋭い牙で手を嚙みちぎられますよ」


 メリッサとラフィーラも解体に参加しておりティネントに注意を受け伸ばした手を素早く戻し作業に戻る。


「ビックボアよりも大きな魔石ですぞ!」


「アーマードベアの魔石とかはじめて見たが、いくらで売れるか楽しみだな」


「これだけの魔石だ。王都でオークションにかけられるだろう」


「リンクスが倒した一番巨大なアーマードベアの魔石とか、城が買えるんじゃないか?」


 アーマードベアから取り出された魔石はどれもバスケットボールよりも多く半透明な紫色をしている。この世界において魔石はエネルギー資源として使われ街頭や水道などの生活に密接したものや、錬金術の錬成素材や魔剣などを作る際に使われている。他にも治水工事や船の推進力などにも使われ、大きく純度の高い魔石は国が買い取ることも少なくはない。


「城は買わなくてもいいが砂糖は買ってきてくれよ」


「できるだけ買うがあまり期待し過ぎるな。売り切れていたら買えないからの」


「それはそうだが……」


 ナシリスの横でアーマードベアから肉を切り出しながら眉間に深い皺を作るライセン。


「あるだけ買ってきてくれたらいいわ。砂糖を使ってどんなジャムを作ろうかしら」


 キラリは微笑みながらアーマードベアの内臓を切り出し、手に心臓を持つ姿はどう見てもホラーである。


「砂糖は買うとして他に欲しいものとかはないのかの? 酒や薬に服とかも買えるぞ」


「それなら酒がいいな。女たちは砂糖で喜ぶが男たちは酒が好きだからな。服は村でも作っているから必要ない。塩なども買ってこられるのなら頼みたい」


「うむ、忘れないようにしよう。ワシらも塩を買う目的で街に行くからの。ん? 強い魔力を感じるの」


 手を止めて空を見上げるナシリス。他にもリンクスやティネントも同じ方向へ視線を向け、一歩遅れてラフィーラやメリッサに冒険者の魔法使いたちも気が付き視線を向ける。

 空には光り輝く鎧に身を包み背には黄金の翼が確認でき、それを見たラフィーラは顔を引き攣らせ、ティネントは手にしていたツリーレオパルドの大腿骨を握り向かって来るそれに投げつける。


「ラフィーラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!! あがっ!?」


 大きな声で叫び降りてくる途中にティネントが投げた大腿骨がクリーンヒットし落下する男。それを見たナシリスが杖を構え力ある言葉を発する。


「エアブラスト」


 魔方陣が浮かび風が吹き荒れ、落下してきた男はその風に押され転がり目をまわしながらも立ち上がるが、二発目の大腿骨の投擲を腹部に受け前のめりにダウンするのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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